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第九章
204話 さ、サイオンさん?
これはウォルズが剣を使って閃光を放ったのだ。放つ時の合図は話し合った時に伝えられていた。
兵士たちの動きが止まっているうちに二階へ続く階段を上がる。
敵のレベルが高い順に閃光の効果が切れるのが早い。登り切る前にサイオンの目は戻ったらしかった。すぐに追いかけてくる。
階段を登りきった後、更に、ウォルズは屋根裏の階段を引き出して、俺達に上がるように言う。
ウォルズと俺以外の全員が屋根裏に上がってからウォルズに振り返って尋ねる。
「ウォルズは」
「サイオンにもう一発かましてから行く」
「いくらウォルズでも勝てない!」
そう言って腕を引っ張ると、「かわいいっ」と抱きしめられる。
「大丈夫だから、心配しなくていいからねヴァントリア。すぐ追いかけるから」
「あのー……早く逃げようよ、ほんと」
階段を上がってきたサイオンが、途中でピタリと足を止める。
ん?
「ヴァアアンントオオオリイイイアアアアアアアア」
ええええ、なんでそんなにキレてんの!?
「行って!」
ウォルズはそう言って、俺を上方向にポーイッと投げる。
「ぎゃあああああっ!」
上にいたイルエラにキャッチされ、イルエラは俺を下ろすと、ウォルズに向かって「お前も早く来い」と手を差し伸べた。
「ああ、目ぇ瞑ってろよ! さっきのより強いのを放っ——」「ウォルズ前!」
サイオンが上がって来ているのを見て、心配してそう叫ぶが。
「うぶっ」
サイオンはウォルズを真正面から抱きしめる。
…………は?
「会いたかった」
スリスリスリと。全身を使って擦り付いている。
…………は?
ウォルズは引き気味で相手に尋ねた。
「え、何、何なんすか、サ、サイオンさん?」
「王宮からは出られないから探しに行けなかったのだ、余は長男であるし、仕事が山積みであったし、何か理由がない限りは降りて来られぬ。貴殿を探しに行きたかったが難しくて……ちょっとたくましくなったな」
「…………あの、言ってる意味がよく分からないんですけど」
どうしよう、ウォルズがめちゃくちゃ真顔だ。……俺も多分だいぶ蔑んだ目で兄を見てしまっている。
「貴殿は王族なのだから王宮に来なくてはダメだろう。今やウロボスの長までオルテイルの王宮に入れる始末、大丈夫だ、シストには余から頼んでおこう。貴殿の居場所は余がつくる。共に王宮へ行こう」
「行かねーよ。俺はヴァントリアがいるところにいるんだから」
ちゅっと投げキスしてくる。やめなさい、見てるこっちが恥ずかしい。
サイオンにギンッと般若顔で睨まれる。
「ヴァントリアああぁ、貴様は、貴様は昔から……余のかわいいシストを誑かし、尊敬する父を誘惑し、そして愛しのウォルズ・サハニア・イノスオーラまで……っ! 貴様は余からどれほど奪えば気がすむんだああああっ!!」
ええええええ。いやまあサイオン兄様のシストへのブラコンぶりはゲームで晒されていたし、幼い頃にも散々見てきたから驚くところではないけど、ただの妬みで俺いじめられてたわけ!?
「地上で生まれた汚らしい貴様が、王宮にいるだけで吐き気がしたと言うのに! なぜ貴様ばかりが!」
それにはウォルズが答えた。
「え、俺も地上から来たけど? て言うか地上で暮らしてきたけど?」
「知っている、地上からの侵入者。逃して置けないとは思ったが、……おも、ったが、よ、余はあの時、貴殿が余の王族の証を奪っていったあの日、向けられた笑顔が忘れられなくて……」
もじもじするサイオンを見ていたら、なんか、気味が悪くて、取り敢えず上にいるみんなへ見せるように親指を立ててから、それをビッと背後へ向ける。
「ほっとこ」
「ヴァントリアさん!? さっきまでかわいく一緒に逃げようって言ってくれてたのにどうして急にそんなよそよそしいのかな!? 嫉妬かな!?」
「アイツはああ言う奴だ、貴殿は騙されているんだ。放って置け」
さらにくっつこうとして来るサイオンを押しのけて距離を取る。
「離せちくしょう気色わりいいいいッ!? 俺はサイウォルが一番嫌いなんだああああああッ!! せめてシスト、シストなら許せる! シスウォルバリ地雷だけどサイウォルはマジでないから! 絶対あり得ない、まずサイオンクソ野郎すぎるから嫌い! ヴァントリアいじめたサイオンなんか大っ嫌い! ウォルズがそんなやつ許すはずないだろ! かわいいヴァントリアを傷付けられて怒ってボコボコに打ちのめして、震えるヴァントリアを抱きしめてあげて『もう大丈夫だよ、俺がいるから』とか言いたいっ!! きっとヴァントリアは涙を浮かべながら『ウォルズ……♡ すき♡』って言ってくれる! 目を瞑って顔上げてくる! キスしてほしいってかわいく強請ってくる! あああかわいいヴァントリア! べろべろのぐちゃぐちゃにしてあげるからね!」
ウォルズは自らの身体を抱きしめて見上げて来る。投げキスをするな。
「声量が大きい! 恥ずかしいからやめろ!?」
サイオンの般若顔も見上げて来た。
「ヴァントリアあああああああああ」
「お前はうるさい!! もうそのくだり飽きた!!」
「何だと?」
ぎゃあああああっ! シストよりもおっかない!
「あんな奴のどこかいいんだ……」
ねぶみするな。
「全てが可愛い。かわいいがにじみ出てる」
だから見上げるな。
「お、パンツ見えそう、この角度見えんじゃね?」
見えねえよっ!
「は、はやく閃光放てよ!」
そう言うと、ちょうど兵士が上がってきて、ウォルズはサイオンを押し退け閃光放つ。
サイオンはフラつきながら後退する。しかしすぐに起き上がってきそうだからと頭を打っとくウォルズ。サイオンは地面に突っ伏して気絶した。
隠し階段を上がると屋根裏部屋へ続いている。これからどうするんだろうとうろうろしていたら、ウォルズが窓を開け放つ。屋根に降り立てそうだ。ウォルズにお姫様抱っこされて、窓から出て屋根から屋根へと移動する。
ぎゃあぎゃあ言ってしがみ付いていれば、「くっ付いて来て可愛いっ」と騒がれる。
ウォルズが連れて来た場所は、一層上の階層へ繋がる階段が出現するポイントだ。
ウォルズは俺を下ろすと、王族の証である腕輪を使って階段を出現させる。
近くまで追いかけて来ていた兵士達が、「何だあれは!」「階段!?」「40層に繋がっているのか!?」と騒ぎ始めた。
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