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第十一章
228話 極上の血
ゲームでは24層ナキューシオに着いてからストーリーを進めると、こんなシーンが流れる。昼は賑やかな町でミッションをこなして行き、会話を聞いていくと夜には出歩かない方がいいと言う忠告ばかりになる。賑やかだった町は夜になるにつれ静けさが増していき、誰もが家の中で怯え道には人っ子一人いなくなる。その闇に覆われた町に、吸血鬼達が格好良く登場する。
もう夕方だ、吸血鬼集団に会えるポイントはゲームで押さえてある、ウォルズと顔を見合わせ、みんなでそこへ向かう。
やって来たのは教会だった。
実はイーハ・タールは教祖なのだ。昼間はこの暗い教会の中で人々に教えを説いている。しかしその裏の顔は吸血鬼集団のボスである。信者達から血を採取し、仲間に配っている。
教会からやつれた様子の人々が出てきて、俺達は入れ替わりに入っていく。こじんまりとした信徒席と、その奥に主祭壇があり、そこにイーハ・タールの姿があった。
イーハ・タールは突然の来訪者達に目を見開き、そしてにこやかに笑う。
「何かご用がおありかな」
「四皇級階であるお前に用があって来たんだ」
「その前に名前を聞いていいかな?」
「俺はヴァントリア・オルテイルだ」
そう言うと、イーハは目を細める。
みんなも次々と名乗ると、イーハは深く頷いた。
「用とはなんだい?」
「メルカデォと奴隷制度を廃止したい。次の会議でその議題が上がるはずなんだ、賛成してほしい」
「いいよ」
「え?」
「いいと言ったんだ。もともとメルカデォは好きじゃなかったしね」
こんなに早く終わるとは思わなかった。
あまりにもあっさりしていて本当に納得してくれているのかと疑ってしまうが、ゲームの彼はさほど悪い人でもなかった気がする。信じてみよう。
「泊まるところを探さないとだね」
ウォルズがそう言い、俺達はイーハ・タールに挨拶してから外に出ようとする。
「教会に泊まっていけばいいよ」
「いいのか?」
「もちろん」
イーハの言葉に甘えて、彼に案内されるまま着いていき祭壇横の扉を通り抜けていく。
すると、そこには大きなテーブルが3つ並んだ食堂があり、吸血鬼達がそれぞれに寛いでいた。
彼らは赤い服を着ている。元々イーハもウロボスの住民だ。この教会以外に四皇級階の者が住む階層にも大きな屋敷を持っている。
「みんな、今日泊まっていくお客さんだよ」
「なんだぁ、このちびっこいの」
すぐそばで声が上がり、そのすぐ後にジノの呻き声が聞こえてくる。振り向くと、ジノは猫のように首根っこを掴まれ吊るされていた。
下ろしてくれと言う前に、ジノをつまみ上げるその少年を見て身体が硬直した。
「アーシャ、下ろしてあげなさい」
アーシャ・ルベイユ! イーハ・タールの仲間の中でも実力者の彼は前世でもそれなりの人気があったキャラクターだ。特にイーハとの掛け合いが良かった気がする。
「お前名前は?」
「誰が教えるか、離せ!!」
年齢は15歳とジノと歳も近い。仲良くなれそうだな。
「名前はジノだ」
「ジノか、ジノ、俺はアーシャ。よろしくなぁ!」
「ヴァンお前!」
睨み付けられ、グッと親指を立てると、ジノは暴れ回るのをやめて呆れ返る。何に呆れたんだろうか。
あれ、そう言えば見た目だけ15歳だったような気もしてきたな。イーハも見た目だけ28歳だった。ちなみにレベルは60。アーシャはレベル45だ。
アーシャはジノを下ろすと、俺とウォルズに近づいてきて、くんくんと鼻を鳴らす。
「お前達この匂い……」
「その二人は王族だよ。オルテイル一族とイノスオーラ一族らしい」
名乗った時に気付いていたのだろう。それにしても匂いで分かるもんなんだな。
「王族二人もいるなんて最高だぁ。イーハさん、いい餌持って来たなぁ」
「彼らは餌じゃないよ」
食事を出そう、とイーハに言われ、奥のキッチンから食事が出される。どれも豪華な品ではないが十分だった。
そしていつも通り酒に酔うウォルズ、酔わされるイルエラ、匂いで酔うジノ。お酒飲めない俺……。
食事も終え、ひとりぽつんとしているところに、イーハが肩を叩いてきて言った。
「案内したいところがあるんだ」
仲間達の様子を見て思う。
こいつらといても疲れるだけだな。
彼らをアーシャや他の吸血鬼に預けてイーハに着いて行くことにした。
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イーハに連れて来られたのは、岩肌の見える地下室だった。
湯気がもくもくと上がり、硫黄の匂いがするそれは。
「温泉だぁ!」
「自由に入っていただいて構わないよ」
「一緒に入ろう!」
「え」
「え?」
「もう入った後だから」
「そうか」
湯船に浸かっているのを見られるのはなかなか落ち着かなかったが、前世でも入ったことのなかった温泉に浸かるのは最高の気分だった。大きなお風呂すごい。宿屋ではお風呂付きの部屋が多かったからな。そう考えると凝ってるよな、普通大浴場とかだろうに。
「湯冷めするよ」
上がってからそんなことを考えていたら、そう言われ、タオルをかけられる。
「あっちに着替えを用意した」
「用意周到だな」
感心しながら導かれるまま進んでいくと、ある扉の前に立たされる。
「うわっ」
イーハはそれを開け放つと、俺の背を押して地面に倒れさせる。
「いっつつ……」
激しく鳴る鎖の音と、唸り声を聞いて、顔をあげる。
そこには、鎖に繋がれた大勢の吸血鬼達がいた。
両目元には傷のような血の文様が浮かび上がり、せり出た牙が己や己の仲間を傷付ける。
建物の中にいて気付かなかった。今日は、新月の夜だ。
「ど、どうしてこんなところに俺を……」
「こっちだ」
「うわっ」
イーハによって椅子に座らせられ、枷をつけられる。
「イーハ」
「貴方には彼らの餌になってもらうよ」
脱出系魔法で拘束を解き逃げようとしたが、イーハに押さえつけられ、4本のナイフで腕と足を刺され、拘束されてしまった。
「うわああああああああああああああッ!!」
鋭い痛みに叫び声を上げるが、相手はそれを無視する。脱出系魔法を使うが、これでは拘束として扱ってくれないらしい。
血の匂いに惹きつけられる吸血鬼達が飛びかかって来る。イーハはそれを制する。
「イーハ、どうして!!」
「貴方は知らないだろうが、ルーハンとは旧友でね。昔は彼から君のことをよく聞いていたよ。貴方は性格は悪いが血は極上だとね。我々は信者からしか血を分けてもらわないが、今回は特別だ。王族であり、嫌われ者の貴方からなら、血をいくらでも分けてもらえることにしよう」
制したそれを解き、暴走した吸血鬼達が我先にと飛びかかり、俺の身体中に歯を立てていく。
「うああああああ、あああああああああ――ッ!!」
それだけではない、暴走した吸血鬼とは飢えによるストレスも新月により上昇している状態を言う。殴られたり、蹴られたり、鋭い爪で引っ掻かれたりと暴力を振るわれる。何より噛みちぎられそうな程乱暴に血を吸われるのが酷く恐ろしかった。
「ああ、ああ、ああああああッ!!」
イーハは「貴方のお仲間達はベッドに寝かせておこう」と俺を放って去っていく。
誰か、誰か助けてくれ。誰か。
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