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第十三章
264話 心強さ
一人で行動するルールはどの階層も同じらしく、ウォルズとは別行動になった。一人ぼっちで、比較的弱そうな昆虫系の魔獣を狩っていると、森のだいぶ奥深くまで来てしまったらしい。相手が出来ない魔獣が現れる前に元の場所へ戻ろうと森の中を彷徨っていると、血みどろの場所を発見する。
魔獣だけでなく草や木の幹まで切り刻まれている姿を見てゾッとする。いったいこの奥に何がいるんだ……と進むと、そこには荒い息を吐くよく知る人物がいた。
海のような深い青の髪、赤い眼帯に赤い衣を纏ったあの青年だ。
「セル!」
呼びかけると、グリンとこちらに振り向いた。
「ヴァントリア!!」
すごい勢いで駆け寄ってきて、抱き締められる。
「こ、こんなところにいていいのか?」
真っ白な世界なうえに、魔獣は色とりどりだから結構セルには堪えると思う、と言うかもうこの状況を見れば堪えてるよな。
「お前は他の色があるから美しい色があると言っただろう? あの話を聞いてから他の色も少しは好きになろうと努力し始めたんだ」
「じゃあ出会ったのは偶然なのか?」
「偶然だよ」
セルはにっこりと笑って答える。
その後も離れないセルと二人で行動してしまったため、失格となり、ウォルズは優勝して報酬を得ていた。
ウォルズと合流すると、興奮した様子で「セルだ!」と彼の周りをウロチョロする。セルが腰の剣を引き抜いたので、どうどうと押さえ込むと、抱き締められる。
「く、苦しい……」
「セルヴァンかわいい! 可愛すぎる! 幸せですありがとうございます! 明日からも元気に生きていけます!」
「離れてくれセル」
「ヴァントリア……お前から俺の胸へ飛び込んできたんだろう?」
「飛び込んでない!」
それより、とセルの腕から抜けてウォルズの背に隠れる。
「俺達はやることがあるんだ。ここでお別れだろ」
「いや、俺もお前達と一緒に行動するよ」
「え」
「仕事は部下達に任せてきた。珍しい休暇なんだ」
「大丈夫なのか?」
「俺はヴァントリアと共にいたいんだ」
両手をぎゅっと握られ、顔をずいっと近づけられる。顔が熱くなり、思わず後退すれば、にっこりと笑みを浮かべられた。
「わ、分かった。セルも一緒に行こう……」
「セルヴァンキタコレ!」
「それしか言えないのかお前は!」
推しに口説かれた……恥ずかしくて叫び出して逃げ出したくなるのをどうにか耐える。
でもセルも一緒に行動することになるとは思いもしなかった。
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
ダリオス達への挨拶も済ませ、次は34層オトキンにある大規模実験場Ⅱに向かうことになる。
そこで研究している施設の者たちを捕らえることと、実験体達を逃がすと言うことをセルに伝えると、彼も実験体達を哀れんだらしい、彼は賛成して頷いた。
色については無差別に残酷な人だが、弱者には手を差し伸べる優しい人のようだ。やっぱりセルってかっこいい! そのギャップがたまらない! 一緒に行動できて良かったかも……。
ゴミの街・オトキン。44層より大きくて設備も整った実験場Ⅱがある階層だった。
失敗作は35層で燃やされ、また、その火力を使い研究所のエネルギーとして活用している。
ウォルズと俺は大規模実験場Ⅱの前のゴミ山に隠れ、作戦をたてようとする。しかし、セルの姿が見当たらないことに気がつき、彼の姿を探すと、彼はどんどん大規模実験場Ⅱの門へと近づいていき、見張りをぶっ飛ばし、中へと入っていくではないか。
「い、いいのかあれで!?」
「と、取り敢えず追いかけよう!」
ウォルズと共にセルを追いかける。セルは出てくる敵を、次々と切り刻んでいく。
セルの様子を冷や汗を垂らしながら見ていたウォルズが呟いた。
「セルのレベルって確か……」
レベル90 → 100 → 200 → 400 → 600 → 800 → 10000と戦って一定数のダメージが入ると全回復ししかもレベルも上がっていくと言う超絶クソ厄介な敵キャラだった!
「セルとは戦いたくない……」
「でも味方だと心強いな」
そういえば……
「ウォルズのレベルって今どれくらいなんだ? 装備から見るにレベル70くらいか?」
「俺74くらいだと思う」
「俺は30から上がってない気がする」
「レベル上がりにくかったもんな~……そのくせ敵はホイホイ上げる……」
「そう考えるとクソゲーでもあるな」
「いやいや超大作よ! エンディングすさまじく良かったし」
「俺最終章まで行けなくて実況動画見ちゃったもんな~……。がんばったけどクリア難しすぎて……羨ましい」
とか言ってる間に大勢の警備員達が地面でのたうち回っている……。
「汚い汚い! だが中身はこんなにも美しい! なんて美しい色なんだ!!」
「殺してもいいのか?」
ウォルズに聞かれ、返答できなくなる。
「悪い奴等だし……殺されてるところを見ると、スッキリするんだけどさ。助けを求めて手を伸ばしてくるところを見ると、今までそうしてきた人達のことを考えてその手を蹴り飛ばしたくなるんだ」
「お、おお……。めちゃくちゃ冷ややかなお目目ですな。でも……分かるよ。その気持ちは」
「だから俺自身が救われることとか、ヒオゥネを止めて助けようとしたこととか、ズルイなって思う」
「…………でも救いがあるから助けるんだろ? ヴァントリアは改心したんだし、ヒオゥネのことは改心させたかったんだし、テイガイア博士だって今人を救うことに力を尽くしてる。見る人によってはズルイのかもしれないけど俺は好きだよ」
「ウォルズ……」
「ずるく生きようぜヴァントリア!」
「うん!!」
ウォルズに笑って答えれば、彼もにっこりと笑う。それを見ていたセルが、ウォルズに向かって血塗られた剣をかかげ切りかかる。
「汚い色が俺のヴァントリアと仲良くするな!!」
「うわあああああああああ!? マジで殺す気満々の一撃なんですけど!?」
「チッ」
「舌打ちした! 不機嫌そうなセルもかっこいい!」
お前は命を狙われたと言うのに……優しい奴だな。いやアホなだけか。
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どんどん進んでいくと、頭だけで生きている子供達を発見する。あまりにも哀れなその姿に怒りが湧いてくる。それをいじめる亜人や研究施設で働く人達を一方的に倒していくセルとウォルズ。俺は子供達をウォルズの持っていた魔法石に保護した。
「その子たちどうするんだ?」
「テイガイアのところに連れて行くよ」
「いいのか? メルカデォで精いっぱいなんじゃないか?」
「新しい助っ人が大人数で現れたからな!」
「助っ人……?」
「ラルフが集合体だってことは知ってるよな? 呪いも解けて個人の体を取り戻したんだ!」
「それってもしかして……」
「アトクタの生徒達だ!」
「アトクタの!? すげえ! ヒオゥネは彼らも救ったんだな!」
そうか。そうだよな。酷いことされてきたけど、最後はヒオゥネに救われたから許してくれたのかもしれない。
「実はヒオゥネもアトクタの生徒だったんだ……。神童って呼ばれてたらしい」
「まあその神童ヒオゥネさんの尻拭いは厄介そうだけど、たくさんの人がたくさんの人を助けようとしてくれるのはありがたいじゃん!」
「うん。そうだな! みんな助けようとしてくれてるんだよな……!」
セルとウォルズと共に施設内を進んでいくと、異様な部屋へと辿り着いた。
そこには亜人達が30人程度立てるような席があり、中央に教壇が置いてある。灰色の服を着た男――博士を名乗る男がその教壇に立ち、彼らに落ち着いた声で話を聞かせている。黒いモヤを浴び、ぼうっと立つ亜人達の姿は妙だった。
「これは呪いか? まさか……洗脳?」
「行こうヴァントリア!」
ウォルズがそう言って飛び出し、亜人達を洗脳している博士を倒す。部屋に充満していた黒い砂のようなモヤは俺の中へ入るようにして消えていった。あんなものが吸収されたと思うとゾッとするが、それよりも先に考えつくことがあった。
「もしかしたら殺した亜人たちも洗脳されていただけなのかもしれないな」
「うん……」
「すまない、俺がお前達を巻き込んだ」
セルはどうやら、どんどん突き進んでいったことを反省しているようだ。
「セルのおかげでここまで来れたんだ。謝らないでくれ。……せめて埋葬してあげよう」
セルがウロボスの王宮から兵士を呼び、彼らと協力して実験場の外へ亜人達の死体を埋葬する。
埋葬した場所の前で手を合わせていると、ウォルズが尋ねてきた。
「ヒオゥネの時もそうしたのか?」
「ヒオゥネは魔法石に入れてから埋葬したよ」
「それって……永久的に身体が保存されたままになるんじゃないか? ほら、魔法石の中では生物は生きられるし、食べ物は腐らないし」
た、確かに、よく考えたらその通りだ。
「ど、どうしよう」
「腐って消えちゃうよりはましかもな。前世みたいに火葬場があれば……あ」
「いやいやゴミと一緒に燃やしちゃダメだろ!!」
「そ、そうですね……!」
ウォルズは頭を掻いて焦る。いや俺も一瞬思ったんだけど。
想像したのは一層と二層下にあるゴミの35層ラハと36層ホウボウ。それらの火葬場へ37層ルペルワンボウラのゴミ処理役員が地下都市内に出た全てのゴミを運ぶ。このオトキンには火葬場の熱を利用したエネルギーを作る施設――実験場と化していたが――がある。ルペルワンボウラがゴミ処理場ならオトキンの施設の周りはゴミの保管庫だった。
地下都市の人達は大体暮らしている階層で埋葬される。
35層と36層の存在を思い出した俺達はゴミの火葬場である下の階で……と考えたのだ。確かに実験の失敗作は燃やされていたが、それを真似して行うのはまずいだろう。
反省しながら手を合わせる。ウォルズも隣に並んで手を合わせた。それだけで少し、心が軽くなった気がした。
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
セルの兵士が亜人の餌である人間の死骸や警備員達、施設で働く人達の死体の掃除――手慣れている――をしている間、俺達はこの研究所の目的を知ろうと資料室を探していた。
みんなバラバラに分かれて探していると、見たことのある人影を見かける。黒い髪を持つその姿を見て、一瞬で頭の中がそのことでいっぱいになる。
――ヒオゥネ!?
追いかけて、姿を確認すると、黒髪ではあったものの、別人だった。
……違った。知らない人だ。
俺はまだアイツの姿を探しているのか。
……会いたい。
会いたい、声が聞きたい。
やめよう、こんなことを考えたらまた胸が痛くなる。考えないようにしてやっと、痛みが抑えられるようになっていたのに。
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