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最終章
280話 誓いの口付け
ヒオゥネのそばに行こうとすると、意思のないヒオゥネに攻撃される。
マデウロボスやガンガウロボスにいじめられた時と似たような状況だ。ギリギリで避け切っている、ヴァントリアの悪運は本当に強い。
七色に輝く結晶の魔獣。ウロボスの宮殿で見た本体の姿と重なった。
何回か魔獣化している、そう言っていたが。今思えばあの翼のようなイグソモルタイトが、魔獣化した後に残されたものであると分かる。
ヒオゥネは眩い光と熱を放ちながら、攻撃を仕掛けてくる。
本当に意思疎通ができない。会いにくれば、何となく、いつも通りそこにいてくれると思ってしまった。
一度亡くなった時を経験しているからか、生きてそこにいると考えるだけで不思議と冷静でいられた。
ボロボロになりながら少しずつ近づいていき、巨大なドラゴンの前足の前に辿り着き、跪いた。
「どんな姿でも、ヒオゥネが好きだ。……どんなに悪いやつでも、魔獣でも、ヒオゥネを愛してる」
そっと、ヒオゥネの身体に口付ける。
――その時。
眩い光が発せられ、あたり一面が光に覆い尽くされる。思わず目を瞑り、熱風に押され倒れそうになった。
ぐらりと身体が倒れ、倒れる――そう思った時だった。誰かに支えられ、目を開けた。
眩い光が徐々に落ち着いていって、やっと相手の顔を認識できる。
光の向こう側には、こぼれんばかりに目を見開いたヒオゥネがいた。
言葉を失い、見つめ合う。
状況を理解しようとして、結局理解できなくて。尋ねようとした時だった。
「ヒ、ヒオゥ――うわ!?」
ヒオゥネに、無言で抱きしめられ、まだ状況が理解できていないせいか心臓が暴れ狂う。
「ひ、ヒオゥネ……?」
「ヴァントリア様…………」
ヒオゥネは魔獣化したんじゃ? じゃあ今ここにいるのは……?
苦しいくらい強い抱擁に、そろそろと自分の腕を回して答える。震えている身体を支えるようにして、ヒオゥネの顔を眺めた。
「会いたかった……ただ、あなたに会いたかったんです」
大粒の涙が頬を伝う様が、美しくて、非常識にも見惚れてしまった。
ああ、ヒオゥネだ。ヒオゥネがいる。
「ヴァントリア様」
ヒオゥネの涙を指で拭うと、その手に頰が擦り寄ってくる。それを感じて緊張が解かれ、ゆっくりと口元を緩める。
「……何百年も待たせてごめんな。ヒオゥネ、助けてくれてありがとう」
「約束しましたから」
「うん」
ヒオゥネの顔が近づき、唇に熱い感触が押し当てられる。目を瞑ってそれを受け入れていると、唇が離れ、「もう一回」と呟かれた。
何度もそれを繰り返され、口付けは深いものへと変わっていく。
羞恥心と快楽でいっぱいで、とにかく幸せで、自分からも「もう一回」と強請ってしまう。
長い時間キスをしていたら。
「あと一回」
ヒオゥネがそう呟いて、少しだけ残念な気持ちになる。最後のキスが終われば、ヒオゥネが距離を取ろうとするので、その背に手を回して、顔を見上げながら言った。
「も、もう一回……」
「…………」
自然と距離が縮まって、唇の上に熱い感触が乗る。ちゅ、ちゅと何度も鳴るリップ音に、頬がぽうっと熱くなる。
唇が離れて、満足しながらヒオゥネの胸に身体を預ける。
無言で抱き合っているうちに、もう一度気になった疑問を彼に尋ねた。
「それより、どうして。魔獣化したんじゃ」
「呪いをコントロールしたんですよ。2年はかかってしまいましたが」
「…………」
「ヴァントリア様?」
「お前って、どれだけ凄い奴なんだ」
「はあ、凄いでしょうか?」
無自覚に煽ってくる様に、思わずため息を吐く。
「それより外に出てみないか? 地上は初めてだろ」
「はい」
「って言っても俺も地下から来たから地上は初めてなんだけど……」
そう言いながら、王の間の一番端っこにある階段を上がっていく。
長い階段をヘェヘェ言いながら上がっていたら、ヒオゥネにお姫様抱っこされ、彼はどんどん登っていく。
2階のバルコニーへ向かっていたらしい。バルコニーから出たら、ヒオゥネの動きが止まる。
俺はヒオゥネの腕から降り、外の世界を眺めた。久々に色のある世界を見た気がして、地下都市の真っ白な世界も美しかったが、この世界も美しかったんだと再確認した。
ヒオゥネは空の高さと、色のある世界に感動している様子だった。手を握っても、ほっぺたにキスをしても気付かれていない。
「ヴァントリア様」
「ん?」
ヒオゥネは身体ごと俺に向き合い、見つめてくる。
両手を包まれるように握られる。
「ヴァントリア様、貴方を愛しています」
「へっ!?」
あ、愛し、今、ヒオゥネの口から、俺を愛してるって……!
「出会う前からずっと、貴方を愛していました。結婚しませんか?」
え……
「け、結婚!?」
「いやですか?」
「い、いきなりすぎるんじゃ」
「愛していると伝えられなかった分、たくさん愛してあげたいんです」
「……て言うか、男同士じゃ……?」
「ウロボスは男性同士でも結婚できます」
「…………」
「…………」
い、いろいろ、急すぎる気もするけど。嬉しい。
「……俺、ヒオゥネと、結婚したい」
「…………」
「なんか言えよ」
「かわいいですね」
「ああもう、真顔で言うなよ!!」
「かわいいです、ヴァントリア様」
ヒオゥネは柔らかく微笑み、そんなことを言ってくる。
「え、笑顔とかずるい」
「どっちですか」
ヒオゥネは手を繋ぎ、外の世界を眺める。
「もう一度誓ってもいいですか?」
「誓う?」
遠くを見ながらそう言うヒオゥネは、こちらに振り向くと言った。
「貴方を生涯愛し続けると誓います。ヴァントリア様」
…………やっぱり、あの時出会ったのは未来のヒオゥネだったんだ。
恥ずかしくて、そして嬉しくて。何となく、俯きながら言う。
「……おれ、も」
「……?」
「俺も、ヒオゥネを生涯愛し続けるって誓う……! 誓います!!」
顔を上げれば、ヒオゥネの驚いた顔が待っていた。それはやがて微笑みへと変わり、互いに顔を近付けて。互いの唇を意識し合って。
吐息の掛かる距離を、相手の瞳の美しさを。
そして目を瞑った後の、触れ合った場所の研ぎ澄まされた感触を。
愛を感じながら。
誓いのキスをした。
「ヒオゥネ……」
「ヴァントリア様」
「あっためて、あっためてほしい、ヒオゥネ」
「はい。あたためます。だから、僕を冷やしてください。ヴァントリア様」
「うん」
お姫様抱っこされ、バルコニーを後にし、王の間を通り抜け、地上一階の客室へ向かう。
い、いきなりすぎるんじゃないだろうか、大丈夫か俺。道具とかなくない?
「ヴァントリア様、これを着てください」
客室のベッドについてから、そんなことを言われる。
彼の手に持たれているのは――
「あ、あの時のブラとパンツと羽織……!」
「あの時はじっくり見れなかったのでお願いします」
「常に持ち歩いてたのか!?」
「いいえ、今作りました」
「つく……?」
ヒオゥネは手のひらをこちらへ見せると、眩い光を発してメイド服を作り出した。
「ど、どうやって作ったんだ? まさか呪いで?」
まさかこれも着ろと?
「いいえ、呪いではありません。希望です」
「へ?」
「呪いが集まれば希望となります。これらは消えることはありません」
「つまり……?」
「傷ついた身体を癒やし、物体を作り出し、蘇生でも何でもできると言うことです。王様にはそこまでの力はないので勝てますよ」
「傷ついた身体を癒やす……蘇生もできるって、つまり色々な人を助けられるんだな!」
「貴方はまだそんなことを言っているんですか」
「ヒオゥネ、たくさんの人を助けような!」
「…………まあ、たくさんの人を助けられるのなら、そうします」
それよりはやく着替えてください、とブラジャーとパンツと羽織、メイド服を渡される。
くっ……分かったよ、ヒオゥネが喜ぶなら着替えてくるよ。
「どこに行くんですか」
ガシッと腕を掴まれる。
「え、着替えに」
「ここで着替えればいいんじゃないですか?」
「やだ!! 恥ずかしい……!」
「どうせ脱がされるのに……?」
真顔で言うな!!
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