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第1章 アバター:シノヤ
第9話 千年後の世界
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(レベル、カンストしてる……なぜ?)
A.W.Oのゲーム世界には、ゲーム内用語での才能限界――つまりレベル上限がある。
これは、敵味方、NPCやモンスター問わず設定されているもので、その限界レベルまでは誰でもレベルが上がるというものだ。
個々に変化を持たせることで、状況に応じて難易度が変動したり、偶発的に思わぬ強敵が生まれたりと、凡常に陥りやすいゲームを飽きさせず、プレイに幅と奥行きを持たせるために――という趣旨だったはずだ。
プレイヤーのレベル上限は、一律で999。
これは、プレイヤーの強さに”限界がない”という表われで、あくまで便宜上の限界値。通常ではカンストなどありえない。
各国の王――魔族なら魔王、神族なら神王、精霊族なら精霊王の各ラスボスたちは、当時の公式の発表では、レベル上限で500程度、通常レベルでは300ほどであったはずだ。
(もしかして、バグ?)
一番考えやすいのはそれだ。
リアル業務での一番の天敵、バグ。
どこにでもいて、ひょっこり顔を出しては、こっちの休日や寝る時間を奪っていきやがる。しかも、客のクレーム付きときたもんだ。
「あの……シノヤ様……?」
シノヤが腕組みをして熟考モードに入ってしまったので、エリシアが若干あたふたして問いかけた。
「え? え? 私、なにか粗相でも……?」
難しい顔をしたままシノヤが凝視したものだから、今度は可哀相なくらいにエリシアはおろおろしていた。
ただでもシノヤは、初期造形として目つきの悪いアバターだけに、黙すると睨みつけているのと変わらない。
(そういや、この娘の話しぶり……なんか、おかしくなかったか……?)
ゲーム内でずっと稼動していたNPCにしてみれば、10年前にいっせいに神人や魔人、精人が消えたことになる。
ただそれにしては、あまりにエリシアは神人のことを知らなさ過ぎる。近年のVR概念では、生老病死が当然をされ、NPCも誕生以降は成長するのが常だ。A.W.Oも現状はそのルーチンで動いているわけだから、エリシアは10年前は6歳。日常で神人を見かけていてもよさそうなものだ。
思い返すと不可解なことはまだある。
この10年間で新興され滅んだという、ゲーム時代にはまったく聞いたこともないファシリア王国。
三界戦争だってそうだ。ゲームを動かす役割のプレイヤーがいない状況で、特定の陣営があっさりと負けるようなゲームバランスにするものだろうか。
(これだってそうだよな)
周囲の朽ちた遺跡を見渡す。
最初から気になってはいたのだが、シノヤというアバターがログアウトしたのは、ゲームシステム上のルールで町中のはず。
となると、ここは『はじまりの町カトゥール』でないといけないのだ。
今ようやく思い出したが、サービス終了となる最後の日、感傷もあってわざわざここ、ゲーム開始の町でもあったカトゥールの町に戻ってログアウトした。痛々しいことに、広場のオブジェだった手頃な台座の上に、当時は格好いいと思っていた、王に拝謁する騎士のポーズで。
近年では、特定の場合を除いて、現実を忠実に再現するロジックが一般的となってきたVRMMO業界。
このA.W.O世界にも、”風化”という概念も盛り込まれているのは確かで――そうなるとこの遺跡は、かつてのカトゥールの町に他ならないわけだが、どう控えめに見ても、10年やそこらでこうも朽ちるとは考えづらい。
人差し指と中指の2本指で左から右にスライド、薬指を加えた3本指で右から左に戻すという指定動作を行なうと、空中に半透明のコンソール画面が表示される。
シノヤは手早く画面をスクロールさせ、目的の場所にたどり着いた。
(ああ、なるほどね……そういうことか……)
シノヤが見ているのは、クロック画面だ。
二段階の表示に分かれ、上の段にはリアルでの時間――大晦日の23:45が表示されている。
下の段は、ゲーム内での時間だ。ゲームによっては都合上、1日が6時間しかなかったり、逆に24時間よりも長かったりと、独自の世界観を持つものが多い。
大抵は、プレイヤーのプレイ時間を考慮し、遊びやすくするための対処だが、それにより実際の時間と混合しないように、通常のVRMMOではこうした二段階表示が常識となっている。
それ自体はもちろん問題ないのだが――ここでの問題点は、そのゲーム内の時間表示だ。
A.W.Oでは、今となっては珍しい1日24時間制が取られている。そして、その年代表示は――ゲーム終了時から千年が経過していた。
(ゲーム内では千年も経過していたとは……そりゃあ、こうなるわな)
ログインと同時に持ち物が耐久限界を迎えたのも納得だ。千年もあれば、どんな耐久度を持つ物だって朽ち果てる。
それに、それだけの時間があれば、国のひとつやふたつ興亡もあるだろう。
むしろ、千年もの歳月で三界戦争が終結しなかった、驚異のゲームバランスを評価すべきかもしれない。
A.W.Oのゲーム世界には、ゲーム内用語での才能限界――つまりレベル上限がある。
これは、敵味方、NPCやモンスター問わず設定されているもので、その限界レベルまでは誰でもレベルが上がるというものだ。
個々に変化を持たせることで、状況に応じて難易度が変動したり、偶発的に思わぬ強敵が生まれたりと、凡常に陥りやすいゲームを飽きさせず、プレイに幅と奥行きを持たせるために――という趣旨だったはずだ。
プレイヤーのレベル上限は、一律で999。
これは、プレイヤーの強さに”限界がない”という表われで、あくまで便宜上の限界値。通常ではカンストなどありえない。
各国の王――魔族なら魔王、神族なら神王、精霊族なら精霊王の各ラスボスたちは、当時の公式の発表では、レベル上限で500程度、通常レベルでは300ほどであったはずだ。
(もしかして、バグ?)
一番考えやすいのはそれだ。
リアル業務での一番の天敵、バグ。
どこにでもいて、ひょっこり顔を出しては、こっちの休日や寝る時間を奪っていきやがる。しかも、客のクレーム付きときたもんだ。
「あの……シノヤ様……?」
シノヤが腕組みをして熟考モードに入ってしまったので、エリシアが若干あたふたして問いかけた。
「え? え? 私、なにか粗相でも……?」
難しい顔をしたままシノヤが凝視したものだから、今度は可哀相なくらいにエリシアはおろおろしていた。
ただでもシノヤは、初期造形として目つきの悪いアバターだけに、黙すると睨みつけているのと変わらない。
(そういや、この娘の話しぶり……なんか、おかしくなかったか……?)
ゲーム内でずっと稼動していたNPCにしてみれば、10年前にいっせいに神人や魔人、精人が消えたことになる。
ただそれにしては、あまりにエリシアは神人のことを知らなさ過ぎる。近年のVR概念では、生老病死が当然をされ、NPCも誕生以降は成長するのが常だ。A.W.Oも現状はそのルーチンで動いているわけだから、エリシアは10年前は6歳。日常で神人を見かけていてもよさそうなものだ。
思い返すと不可解なことはまだある。
この10年間で新興され滅んだという、ゲーム時代にはまったく聞いたこともないファシリア王国。
三界戦争だってそうだ。ゲームを動かす役割のプレイヤーがいない状況で、特定の陣営があっさりと負けるようなゲームバランスにするものだろうか。
(これだってそうだよな)
周囲の朽ちた遺跡を見渡す。
最初から気になってはいたのだが、シノヤというアバターがログアウトしたのは、ゲームシステム上のルールで町中のはず。
となると、ここは『はじまりの町カトゥール』でないといけないのだ。
今ようやく思い出したが、サービス終了となる最後の日、感傷もあってわざわざここ、ゲーム開始の町でもあったカトゥールの町に戻ってログアウトした。痛々しいことに、広場のオブジェだった手頃な台座の上に、当時は格好いいと思っていた、王に拝謁する騎士のポーズで。
近年では、特定の場合を除いて、現実を忠実に再現するロジックが一般的となってきたVRMMO業界。
このA.W.O世界にも、”風化”という概念も盛り込まれているのは確かで――そうなるとこの遺跡は、かつてのカトゥールの町に他ならないわけだが、どう控えめに見ても、10年やそこらでこうも朽ちるとは考えづらい。
人差し指と中指の2本指で左から右にスライド、薬指を加えた3本指で右から左に戻すという指定動作を行なうと、空中に半透明のコンソール画面が表示される。
シノヤは手早く画面をスクロールさせ、目的の場所にたどり着いた。
(ああ、なるほどね……そういうことか……)
シノヤが見ているのは、クロック画面だ。
二段階の表示に分かれ、上の段にはリアルでの時間――大晦日の23:45が表示されている。
下の段は、ゲーム内での時間だ。ゲームによっては都合上、1日が6時間しかなかったり、逆に24時間よりも長かったりと、独自の世界観を持つものが多い。
大抵は、プレイヤーのプレイ時間を考慮し、遊びやすくするための対処だが、それにより実際の時間と混合しないように、通常のVRMMOではこうした二段階表示が常識となっている。
それ自体はもちろん問題ないのだが――ここでの問題点は、そのゲーム内の時間表示だ。
A.W.Oでは、今となっては珍しい1日24時間制が取られている。そして、その年代表示は――ゲーム終了時から千年が経過していた。
(ゲーム内では千年も経過していたとは……そりゃあ、こうなるわな)
ログインと同時に持ち物が耐久限界を迎えたのも納得だ。千年もあれば、どんな耐久度を持つ物だって朽ち果てる。
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