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しおりを挟む夜会から数日経ったある日の午後、私は王都の喧騒を避けるように、一軒の古書店を訪れていた。
ここは、私の協力者の一人と、密かに連絡を取るための場所だ。
「いらっしゃいませ」
店の奥から、人の良さそうな老店主が顔を出す。
彼は、私の父である辺境伯に、古くから恩義を感じている人物だった。
「こんにちは。先日お願いしていた本は、入りましたかしら?」
「ええ、ええ。こちらにご用意しておりますよ」
それは、私たちだけが知る合言葉。
店主は私を店の奥へと案内し、分厚い革表紙の歴史書を差し出した。
「ありがとうございます。探していたものですわ」
私はにこやかに礼を言い、本を受け取る。
ずしりと重いその本に挟まれていたのは、一通の封筒だった。
屋敷に戻り、自室で封を開ける。
中には、暗号で書かれた短い文面と、一枚のリストが入っていた。
『ヴォルグ侯爵家、隣国との穀物密貿易の証拠あり。関与した商人リストを同封す』
「……まあ」
私は思わず息をのんだ。
武器の横流し、鉱山の不正。それに加えて、今度は密貿易。
ヴォルグ侯爵家の腐敗は、私の想像を遥かに超えていた。
「これでまた一つ、駒が揃ったわ」
リストに並んだ商人たちの名前を、一つ一つ指でなぞる。
中には、王家御用達の看板を掲げる、大商人の名前もあった。
(ヴォルグ侯爵……あなた方は、この国を根幹から喰い物にしていたのね)
怒りが、静かに腹の底から湧き上がってくる。
それは、私個人の感情ではない。
国境を守り、民の生活を守る辺境伯家の娘としての、当然の憤りだった。
私は机に向かい、羽ペンをインクに浸す。
今手に入れた情報を、兄に知らせるためだ。
そして、もう一人の協力者にも。
(私たちの集めた証拠は、確実にヴォルグ家の喉元に突きつけられる刃となる)
窓の外では、日が傾き、空が赤く染まっていた。
まるで、血の色のように。
私は手紙を書き終えると、それを小さな巻物にして、足に手紙を携えるための小さな筒を付けた伝書鳩を窓辺に呼んだ。
「お願いね。必ず、あの方の元へ」
鳩は力強く羽ばたき、茜色の空へと消えていった。
それを見送りながら、私は決意を新たにする。
(もう、引き返せない。そして、引き返すつもりもない)
この戦いは、必ず私たちの勝利で終わらせる。
そのために、私は私の全てを賭ける覚悟ができていた。
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