婚約破棄されるまで黙っていればいいのね?

東山りえる

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私の予想外の反応に、大広間は静まり返っている。
誰もが、次に何が起こるのかを見守っていた。

「お待ちしていた、だと……?どういう意味だ、ローズ!」

アイゼン様が、我に返ったように叫ぶ。
その顔には、困惑と屈辱の色が浮かんでいた。
自分が主導権を握っているはずの舞台で、主役の座を奪われた役者のような顔。

「言葉通りの意味ですわ」

私は優雅に微笑み、彼に向き直る。

「アイゼン・ヴォルグ様。あなた様からの婚約破棄、謹んでお受けいたします」

その言葉に、会場がざわめいた。

「まあ、なんてこと」
「あっさりと受け入れたわ……」

「ですが、よろしいのですか?ヴォルグ侯爵家の名を背負うあなたが、国王陛下の御前で、一方的に婚約を破棄するなど。これは、ティール辺境伯家に対する、明確な侮辱と受け取られても仕方ありませんわね」

私はわざと、玉座に座る国王陛下に視線を送った。
陛下の表情は、能面のように変わらない。だが、その目は鋭くこちらを見据えている。

「なっ……!それは貴様の普段の行いが原因だろうが!私に全ての責任を押し付ける気か!」

「いいえ、滅相もございません。責任の所在は、この後、皆様にご判断いただければよろしいかと」

私はゆっくりと言葉を続ける。

「婚約が正式に破棄されたとなりますと、私もようやく、自由の身。ヴォルグ侯爵家とのしがらみも、未来の侯爵夫人という立場も、全てなくなりました」

私はそこで、一度言葉を切った。
そして、悪戯っぽく微笑んでみせる。

「これで私も、ようやくお話しできますわね。これまで、ずっと『沈黙』してきたことを」

私の言葉に、アイゼン様の顔が引きつった。
彼の隣にいるリリアナ様の顔からも、血の気が引いていくのが分かる。

「お、お話しする……?何をだ!」

「もちろん、ヴォルグ侯爵家がこれまで成してきた、輝かしい『ご功績』の数々についてですわ」

私は、わざとらしく胸に手を当てて言った。

「未来の侯爵夫人という立場では、家の恥を晒すようで、とても口にできませんでしたもの。ですが、もう私は関係のないただの辺境伯令嬢。これで心置きなく、真実をお話しすることができますわ」

さあ、反撃の狼煙は上がった。
あなたが望んだのでしょう、アイゼン様?
私を、ただの無力な令嬢だと侮ったあなた自身が、この破滅の舞台を用意してくださったのだから。
そのご厚意、ありがたく使わせていただくわ。
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