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しおりを挟む「王子……様……?」
リリアナ様が、呆然と呟くのが聞こえた。
彼女の描いていたであろうシナリオには、もちろん、隣国の王子が登場する予定などなかったはずだ。
「そんな、馬鹿な……」
アイゼン様もまた、信じられないという表情でアレクシスを見つめている。
彼らの計画は、私の嫉妬心を利用して婚約を破棄し、私に恥をかかせる、というだけの、単純なものだったのだろう。
その裏で、これほど巨大な陰謀が渦巻いていたことなど、想像もしていなかったに違いない。
「あ、アイゼン様……!どういうことなのですか……!わたくし、何も……!」
リリアナ様が、アイゼン様の腕にすがりつこうとする。
だが、
「うるさい!黙っていろ!」
アイゼン様は、その手を乱暴に振り払った。
「きゃっ!」
リリアナ様は、バランスを崩して床に尻餅をつく。
その瞳には、恐怖と絶望の色が浮かんでいた。
いつも彼女を甘やかし、守ってくれていたはずの王子様が、初めて彼女に牙を剥いた瞬間だった。
「この女は、関係ありません!全て、父が……いや、このローズ・ティールが仕組んだ罠なんです!陛下、お信じください!」
アイゼン様は、必死に自己保身に走る。
その姿は、あまりにも見苦しく、哀れだった。
かつて、あれほどまでに傲慢で、自信に満ち溢れていた男の、見る影もない。
リリアナ様は、床に座り込んだまま、震えていた。
彼女の最大の誤算は、アイゼン様という男の本質を見抜けなかったこと。
そして、私という女を、ただの嫉妬深い田舎貴族だと、完全に見くびっていたことだ。
(あなたの選んだ道よ、リリアナ様)
私は、彼女に冷たい一瞥をくれた。
(あなたは、アイゼン様の権力と財産に惹かれた。けれど、その土台が、いかに脆いものだったのか、今、思い知ることね)
彼女もまた、この茶番の被害者なのかもしれない。
だが、自らの意思で加担した以上、同情の余地はなかった。
貴族たちは、もはやヴォルグ家の人々を、汚物でも見るかのような目で見ている。
リリアナ様が、どれだけ悲しそうな顔で涙を流そうとも、もう誰も彼女に同情の手を差し伸べはしないだろう。
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