婚約破棄されるまで黙っていればいいのね?

東山りえる

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「もう、よい」

国王陛下の、地を這うような低い声が響いた。
その声には、抑えきれない怒りが込められている。

「申し開きは、法廷で聞くこととしよう。者ども、ヴォルグ侯爵夫妻、並びに嫡男アイゼンを捕らえよ!」

「はっ!」

陛下の号令一下、近衛騎士たちが一斉に動いた。
彼らは、ヴォルグ侯爵一家を取り囲む。

「や、やめろ!私に触るな!私はヴォルグ侯爵家の次期当主だぞ!」

アイゼン様が、無様に抵抗する。
だが、鍛え上げられた騎士たちの前では、赤子同然だった。
あっという間に腕を後ろに回され、拘束される。

ヴォルグ侯爵夫妻は、もはや抵抗する気力もないのか、蒼白な顔でその場に崩れ落ちた。
彼らの栄華は、今この瞬間、完全に終わりを告げたのだ。

「陛下、お待ちください!」

その時、床に座り込んでいたリリアナ様が、叫んだ。
彼女は、這うようにして陛下の足元ににじり寄る。

「わたくしは、騙されていたのです!ヴォルグ家の悪事など、何も知りませんでした!全て、アイゼン様にそそのかされて……!」

必死の命乞い。
だが、国王陛下は、冷たい視線で彼女を見下ろしただけだった。

「その方の処遇は、追って沙汰する。今は、下がっておれ」

その一言で、リリアナ様の運命も決まった。
彼女は、がっくりと肩を落とし、その場に突っ伏して泣き崩れた。

国王陛下は、ゆっくりと私の方に向き直る。

「ティール辺境伯令嬢、ローズ・ティール」

「はい、陛下」

私は、静かに頭を下げた。

「そなたの働き、見事であった。国の危機を未然に防いだその功績、決して忘れはせぬ。後日、改めて褒賞を授けよう」

「もったいのうございます」

私は、ただ、深々と礼をする。
求めていたのは、褒賞ではない。
ただ、家族と領地の平和、それだけだった。

こうして、私の長く続いた『沈黙』の戦いは、幕を閉じた。
アイゼン様たちの悲鳴が響き渡る中、私は静かに息を吐く。

(終わった……)

だが、本当にそうだろうか。
ふと、隣に立つアレクシス王子と目が合った。
彼は、私に優しい笑みを向けている。
その瞳を見ていると、私の戦いは、まだ始まったばかりなのかもしれない、という予感がした。
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