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「それは?」
「ああ、これで間違いないはずです」
王子は満面の笑みを浮かべた。
「殿下、どうしてこんなことを?」
アイリスは非難するように言った。
「いや、つい出来心でね」
王子は頭を掻いて笑う。
「それよりも、早く逃げよう」
「逃げるってどこに?」
「とりあえず、村を出てどこかに身を潜めるんだ」
王子は老婆に目を向ける。
「あなたはどうしますか?」
「わたくしはもう疲れました。このままここで朽ち果てるのを待つつもりです」
「そうですか」
王子は小さく嘆息した。
「では、行きましょうか」
王子はそう言って歩き出した。
三人はそそくさと家から出ると、一目散に逃げ出した。
「ここまで来れば安心だろう」
王子は額の汗を拭いながら言った。
「さて、これからどうしたものか」
「そうですね」
アイリスは考える。
「まずは服を変えないといけませんね」
「そうだね」
王子は自分の姿を眺めて呟いた。
「それにしても、この格好だと動きにくいな」
「でも、変装しないと怪しまれてしまいますよ」
「それもそうか」
王子は腕を組んで考え込んだ。
「よし、着替えを用意してもらおう」
王子は再び村人の家を訪れた。
「すいません。ちょっといいですか?」
王子が声をかけると、中年の女性が出てくる。
「なんでしょう?」
「実は、替えの衣服を持ってきて欲しいのですが」
「わかりました。少々お待ちください」
女性は家の中に入っていく。
しばらくして、再び姿を現した。
「お待たせしました。こちらになります」
女性が差し出してきたのは、先程まで王子が着ていたものと全く同じものだった。
「本当にそっくりだね」
「はい」
アイリスは感心したように言った。
「あの、代金はいかほどで?」
女性に訊かれて、王子は首を傾げる。
「そうですね。では、金貨五枚ということでどうでしょうか?」
「え?」
女性の目が点になる。
「いや、でも、これはさっきの方がお召しになっていたものでは?」
「いえ、これは私の私物ですから」
「ええっ?」
「それでは失礼します」
二人はその場を後にする。
その後、二人は馬車に乗り込むと、すぐに出発した。
「いやぁ、危なかったね」
王子は笑顔で言った。
「でも、あれでよかったの?」
「もちろんだよ」
「そうかしら」
アイリスは納得いかない様子で答えた。
「ところで、これからどこに向かうつもり?」
「特に決めていないけど」
「なら、一度王都に戻るというのはどうかしら?」
「王都に?」
「ええ」
「ふむ」
王子は少し考えてから答える。
「いいかもしれないね」
それから数日後。
王子とアイリスを乗せた馬車は、王都に到着した。
王子は王宮の門の前に降り立つと、大きく伸びをする。
「ようやく戻ってこられたよ」
「ええ」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「それじゃあ、早速父上に報告に行くとしようか」
「そうですね」二人は並んで歩き出すと、そのまま王の待つ玉座の間へ向かった。
「ただいま戻りました」
二人は恭しく頭を下げた。
「おお、よくぞ戻った」
王は満足気に言う。
二人は顔を上げると、王に訊ねる。
「それで、宝物は手に入りましたか?」
「うむ。ここに用意してある」
王が合図を送ると、侍女が宝箱を運んでくる。
そして、ゆっくりと蓋を開けると、中に指輪が入っていた。
「これがその『宝物』ですか?」
「いかにも」
「なるほど」
王子は指輪を手に取ると、しげしげと眺める。
「これを僕に譲って頂けるのですね?」
「ああ」
「ありがとうございます」
王子は満面の笑みを浮かべると、左手の薬指に嵌めた。
「素晴らしい!」
王子は感動に打ち震える。
「それじゃあ、僕は用済みですね」
「うむ。下がってよいぞ」
「はい」
王子は軽く会釈して、その場を去ろうとする。
だが、そこで立ち止まった。
「あ、そうだ」
王子は振り返って言う。
「一つだけお願いがあるんですが」
「なんだ?」
「もし、この国で誰かが王位を継ぎたいと申し出てきたら、その時は快く譲ってあげてください」
「ほう。それはまたどうして?」
「この国は今のままで十分幸せだからです」
「確かにな」
「そうでしょう?」
王子は嬉しそうに同意を求める。
「うむ。わかった。約束しよう」
「ありがとうございます」
王子はもう一度深々と頭を下げると、足取り軽やかに去っていった。
やがて、王子の姿が見えなくなると、国王は隣にいるアイリスに話しかける。
「これで良かったのか?」
「何がですか?」
「あやつを後継者にせぬ事じゃ」
「ええ。王子はきっとやり過ぎてしまうと思ったので」
「まあ、確かにの」
「それに、私は今の暮らしが気に入っているのですよ」
「そうなのか?」
「はい」
アイリスは満面の笑みを浮かべる。
「王子は好きだけど、あの人は一人で勝手に暴走してしまう人ですから」
「違いない」
「そういうわけで、私たちはこのままの生活を続けていきましょう」
「そうだな」
二人は笑い合った。
それから数日か経ちアイリスは王子の部屋のベッドの上で
生まれたままの姿で王子に愛撫されていて、王子はアイリスを優しく抱きしめて、
舌を絡ませながら濃厚なキスをしていた。
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