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「あ……」
私が思わず声を上げると彼は笑って言う。「何だ物足りなかったのかい?
続きして欲しいのかな」
私は慌てて首を横に振った。
「本当はもっとして欲しいんだろ?」
「違います。私達はあくまで主従の関係でしか……」
「関係が何であれ結局は同じ事だと思うんだけどね」
そう言って王太子は再び私を抱き寄せると言った。今度は優しく唇を重ねてくる。私はされるがままになっていた。いつの間にか彼の背に腕を回して自分からも求めてしまっている。そのまま彼と一つになりたいと思った。
(私やっぱりこの人の事が好きなんだ)
そう確信した途端に涙が出てきた。
でも今は泣いている場合ではない。しっかりしないと、と思っていた矢先に再び唇を奪われてしまう。口の中に舌を差し入れて絡め取られるたびに力が抜けていく気がして怖い。必死になって拒んでいるつもりなのにどうしても彼を受け入れようとしている自分が居るの。
「ふふ……顔を見せてごらん」
彼は私の顎を掴むと自分の方に向かせる。そしてじっと見つめてきた。恥ずかしさに顔が赤く染まるのを感じる。彼は私の表情を目に焼き付けるようにして見据えるとこう告げてきた。
「今日はこれくらいにしておいてあげよう。これから時間はたっぷりあるんだしね」
彼は立ち上がると服を着始める。
その様子を私はボーっと眺めていた。何か言わなきゃと思うのにうまく言葉が出て来ない。すると彼は笑顔を見せてきた。いつもとは少し違う、悪戯っぽい微笑だわ……。
そして私の耳に口を寄せて小さな声で話しかけてきた。
「今夜は大人しく眠りなさい」
それだけ呟いて彼は去って行った。私は一人残されて呆然としていたけど、すぐに我に帰ったわ。
いけない、いつまでも惚けてる場合じゃないわ。急いでドレスを着て食堂へと向かいます。
テーブルの上座には王太子の姿があった。他の人達はまだ居ないようで私だけ先に通されているみたい。私が来るまで食事を摂らずに待っていてくれたの。私は申し訳無いと思いつつ、いそいで席に着く。そして食事を始めたけど、妙に味気なく感じる。あんなに美味しかったはずの料理が全然おいしく感じられないの。緊張のせいもあるでしょう。
「食べ終えたら庭園に出ないか?」
唐突な誘いだったわ。いきなり過ぎません?  こういう時は一応断るべきよね?  だけど今の私は何故か素直に従ってしまいましたのよ?  中庭へと移動するとその奥にある一画へと案内されるわ。そこにあったのは色とりどりの花で飾られたガゼボと呼ばれる東屋だったわ。とても美しい造りになっていて中に入るとまるで絵画の中に入ったような気分になるのですよ!
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