【R18】碧色社長の溺愛はイチョウの下で

紫堂あねや

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15話*Fight

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「やだ~、そういうこと?」
「そ……そういうことです、はい」

 霜風に負けず身体が火照るのは少女のように目をキラキラさせる叔母、千恵に恥ずかしさが勝っているせいか、居た堪れずノアの背中に隠れた葵に笑い声が墓前で響いた。

 十一月十六日は祖母、千代子の月命日。
 阿蘇市内にある霊園を訪れると、来ることを伝えていた千恵夫婦が先に手を合わせていた。が、ノアを連れて来ることは秘密にしていたため、たいそう驚かれると女の勘なのか冒頭に戻り、質問攻めに合う。菊池市にある夫妻の家に招かれて三十分。既に葵は瀕死だった。

「それでね、葵ちゃんが蹴っちゃって~」
「ああ、あのテーブルの傷はそれですか。昔のアオはわんぱくだな」
「もぅ……やめて……私のライフはゼロよ」

 幼い頃の黒歴史を恋人に暴露され、ヒーター要らずで塵と化す勢いで恥ずかしい葵は隣室に顔を逸らした。仏壇と共に飾られた祖父母の遺影。周囲には段ボールから溢れるほどの手紙が置かれ、宿泊客からはもちろん千代子の字で書かれた物など遺品整理の途中が窺える。
 手伝えない申し訳なさの反面、楽し気に話す千恵とノアに悪い気もしないでいると、エプロンをした叔父、誠太郎がダイニングテーブルに四人分の皿を置く。

「その辺にして……飯にするぞ」

 鶴の一声にも聞こえ、一目散に立ち上がった葵が駆け寄る。皿を見ればスライスされた赤身肉に野菜が入った熱々のビーフシチュー。スープやサラダはもちろん、覚えのあるパイがオーブンで焼かれていることに柄にもなくはしゃいでしまう。

「アップルクランブルのパイ? 懐かしい。『天空』でも出してたよね」
「……今日はアイスがないがな」
「ううん、なくても大好き!」
「……なんとなく作っておいてよかった」

 淡々とジャガイモスープを注ぐ横顔に盆を持つ葵の頬は赤くなり、照れた様子で視線を落とす。その背を見つめるノアは些か不満そうだ。

「年上の力かギャップか……いや、料理か」
「ふふふ、良い男でしょ? 葵ちゃん、昔は旦那のお嫁さんになるって私と張り合ったのよ」
「叔母さん! ノアも本気にしない!! 今は違うから!!!」
「“今は”って言ったな?」

 意地悪く笑う千恵と、刺すほど痛いノアの視線に墓穴を掘った葵は冷や汗を流す。だが、蕩けるお肉とクリーミーな味わいのビーフシチューに空気が花畑へと変わった。

「ん~!」
tastes good美味しい!」
「Cheers…」

 不機嫌だったノアも見る見る笑顔になり、英語の賛辞に誠太郎も頬を綻ばせながら返した。その様にくすくす笑っていた葵は思い出す。

「そういえば叔父さん、子供の頃のノアと会ってたんだね」
「そうなの?」

 シチューを息で冷やす千恵の視線に構わず頷きが返される。『天空』を訪れたノアの話に出てきた時は驚いたが、葬儀場で親しくしていたことに合点がいった葵もノアに目を移すと苦笑された。

「事情はチヨ婆にしか話してないがな。本当は『蒼穹』でもシェフをしてもらいたかったんだが見事に断られた」
「へ、そうなの?」

 意外な話に視線が集中した誠太郎は食べる手を止める。
 恐らく打診は震災後。『天空』の存続もわからず決められなかったのだろうが、勿体ないと思うのは葵の独り善がりか。ひと息ついた誠太郎は食事を再開する。

「別に……ペンション派なだけだ。あと……なんかお前の下に就くと面倒そうな気がして」
「what!?」
「「あっははは!」」

 申し訳ないような気だるいような一言に椅子を揺らすほど跳ねたノアに高笑いが起きる。特に料理長とのバトルを知る葵にとっては情景が浮かび、久し振りに哀惜ではない涙を滲ませた。

 食後にはカスタードにクランブルと林檎をパイ生地で包んで焼いた英国の家庭スイーツであるアップルクランブルパイと自家焙煎のコーヒーを飲みながら談笑。気付けば昼を過ぎ、名残惜しそうに葵が席を立つ。

「あら、もう帰るの?」
「あー……帰るっていうか、行く所があって……絶対」

 なんともいえない表情で頬を掻きながらチラ見するのはそっぽを向いているノア。首を傾げる夫婦を他所に立たせた葵は和装コートを着させ青マフラーを巻くが、いっそう不機嫌になった。

I don't want to go行きたくない…」
「はいはい、一緒に行こうね」
「よくわかんないけど、嫌な場所は早く行った方がいいわよ」
「…Fightファイト
「くっ、血縁を感じる……!」

 親指を立てる夫婦に後悔したのかノアは渋々玄関へ向かう。苦笑する葵も鞄を手に続くが、思い出すように声をかけられた。

「そういえば葵ちゃん、兄さんから電話あった?」
「へ、お父さん?」

 その名にノアの足も止まり振り向くが、葵は首を横に振る。

「ないよ。着信拒否してるし」
「あっははは! 肝が据わってて良いわね~」
「あの愚か者、まだ何か言っているのか?」

 斎場の一件から腹を決めたのもあり、気にも留めていなかった葵同様ノアも呼び方を改める気はないようだ。構うことなく笑う千恵の代わりに誠太郎が答える。

「相変わらず遺産とか義母さんの悪口を色々な……弁護士に話してると言っても酒を飲んでたら聞く耳を持たない」
「……わかった、お母さんに連絡してみる。うるさいなら無視か電話線抜いてね」

 大きな溜め息をついた葵は仏壇と遺影に目を移す。結んだ唇がいっそう締まるが、心痛な面持ちの夫婦にすぐ笑顔を向けると一礼と共に家を後にした。
 暖まっていた身体が瞬く間に冷えるのは冬空のせいか拭えきれない不安か、知る術はない。


* * *


「……オ……おい、アオ。過ぎたぞ」
「へっ!? あ、ご、ごめん!」

 運転中にも関わらず上の空だったばかりか通り過ぎていた葵は慌てて反対車線に回り、後部席に座るノアは意地悪く笑う。

「俺は別に行かなくていいが?」
「はいはい、我儘言わないで病院行こうね」
「くっ……」

 秒で敗北したノアをバックミラーで見ながら止めた立体駐車場は熊本市内にある大病院。ノアが世話になっている場所で、夏以降大きな発作が起きていないとはいえ検診は必須。千代子の墓参りついでとはいえ嫌なのか車から降りる気配がなく、後部席のドアを開けた葵は仁王立ちで見下ろす。

「ノア~?」
「……セックスしたら行く」
「へっ!? キ、キスじゃなくて?」

 予想外に慌てふためいたのが裏目に出たのか『Yes』と口角を上げたノアは自身の膝を叩く。放っておいても予約時間になれば行くだろうが、不機嫌MAXで迷惑をかけるのが浮かんだ葵は周囲に誰もいないのを確認すると後部席に座り、ドアを閉めた。静まる車内に響く動悸を抑えながら躊躇いがちに問う。

「な、舐めるだけじゃダメ? 着替え、ないし」
「最初から脱いでヤればいいだろ。早くこい」
「うっ……」

 コートを脱いだノアは着物の裾を腰まで捲し上げると、下ろした下着から肉棒を取り出す。立派に勃たせている人が病人とは思えないが、刺さる視線に葵もショーツを下ろし、スカートの裾を持ったまま膝立ちで跨がった。

「も、もう……挿入るの?」
「時間ないからな。弄る必要もなさそうだし」
「あん!」

 くすりと笑ったノアは肉棒を持ち上げると、数センチ空いていた秘部と亀頭をくっつける。それだけで蜜が垂れ、頬を赤める葵にノアの顔が近付いた。

「ア・オ?」
「っ……ん」

 自然の流れのように唇と下腹部が重なる。舌を絡め口付けるだけで濡れるナカに、両手をノアの首に回した葵はゆっくりと腰を上下に動かした。自分が好きな箇所を擦る葵にノアの表情が歪む。

「っはあ……アオ……もう少し……」
「っはン、あ……奥はっ……待ってン、あっ!」

 すべてを収めるにはまだキツいのか、息を切らす葵は自身の上着を捲し上げる。下着から零れた柔らかい乳房に顔を埋めたノアは頬で擦りながら赤い実にしゃぶりついた。ナカのモノも大きくなるのが嬉しい葵は彼の頭を抱きしめると耳を舐める。

「んっ、はぁ……ノ・ア」
「っあ……アオ、それはヤバい……」
「イかせたら観念して行くんでしょ?」
「……Yes」

 甘苦の表情を浮かべるノアにくすくす笑う葵は口付けると抽迭を速めた。卑猥な蜜音と呻きが増し、スモークガラスの先に人が見えても構わず揺すれば次第にナカが拡がり根元まで彼を招き挿れる。

「ああぁ……ア、オ……っ!」
「あぁ……ノアああぁんンン!」

 ノアの両腕にガッシリとホールドされた身体が震えると熱い飛沫が放出された。汗と精液の匂いが充満する車内は冬場というのに蒸し暑く、抱き合う二人は浅い呼吸を繰り返す。

「はあはあ……ノア……抜いて」
「アオが……はあっ……抜けば……いいだろ」

 達して力が出ないのか抜きたくないのか、いまだ小刻みに動く結合部からは異なる蜜が零れ、シートを濡らす。汗が滲む顔を寄せた二人も口付け合うが、さすがに時間が迫っていた。名残惜しそうに腰を浮かせ抜いた葵は助手席に置いている鞄を取るため背を向ける。と、腰を掴んだノアが秘部にしゃぶりついた。

「ひゃっ!? ちょ、ノア~!」
「んっ……後ろを向いたアオが悪い……むしろ、挿入なかったのを褒めろ」
「そ、それは偉いけど……まっ、ちょ~っ!」

 舐め回されるばかりか音が響くほど吸われる。運転席と助手席のシートを掴んだ葵は再び達し、新たな蜜を美味しそうにしゃぶるノアをバックミラーが映した。
 そのせいかおかげか葵はぐったり、ノアはスッキリ顔で着物を整えると後部席に寝転がる葵に自身のコートを被せた。

「じゃあ、行ってくる。どうせ検査に時間かかるからゆっくり寝ていろ」
「いってらっしゃ~い……」

 力ない手を振ると笑うノアが去って行き、ボタン式の鍵で車のドアをロックした。
 換気を兼ねて窓を数センチ開けているが、火照りすぎた身体と彼の匂いが詰まったコートに冷える気配はなく視線を動かす。目に入るのは病棟だ。

(私もいつか……)

 期待するように触れるのは子種を受け留めたお腹。ノアとの子を考えるだけで心が弾むが、自分の『家族』を思い出すと何も考えられなくなった。

(あんな両親じゃ顔合わせとか無理だよ……)

 既に父は愚か者扱いされ嫌われている。それ自体は構わないが、子供や結婚となると盛大に揉めるか、オーナー社長なのを良いこと金をせびられそうだ。つまるとこ何も言わず無視が一番だが、叔母夫妻に言ってしまった手前母には連絡せねばと重い腰を上げる。

 物静かで自己主張をしない葵の母はパートをしており、時間的にそろそろ帰宅する頃だ。仕事の父がいない平日の今日に感謝しつつ鞄から携帯を取り出すと電話ボタンを押す。無機質な呼び出し音が数度続き、プツリと取る音が耳に響いた。

「あ、お母さん? 久し振り。葵だけど……うん、上手くやってるよ。うん、うん、へ、何?」

 音量ではなく声量が小さいせいか、静かな車内でも聞き返す。と、消え入りそうなほどか細い声が届いた。

『…………帰ってきて、葵』



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