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立つんやⅡ

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 部屋に戻ると、俺はマカロフ卿と対峙した。

「大丈夫だ。スキルは使わん。が――少々問題がある。俺はパッシブスキルの影響で、攻撃が微塵も効かん。一発当てたらお前の勝ちだ。仮にお前が負けた時は――」

 マカロフ卿は俺にそう言いながら鋭い眼光を飛ばしてきた。

 その目はタダじゃ済まさない――。そういう目や。 

「分かった。ホンマに一発でええんやな?」

「転生者同士のよしみだ。嘘はつかんさ」

 俺は大きく深呼吸をした。

「押忍!」

 この高揚感は久しぶりとちゃうんかな。

 俺は両手の拳を握ってマカロフ卿をじっと眺めた。

「右が利き手か?」

「そうや」

「普通の構えは左手が前だが、お前の場合は右手と右足が前に出る特徴的な構え。確か、ジークンドーだったか」

「知っとるんか」

「そうだな」

「――や、何もない」

「ん? まあいい。さあ来い」

 マカロフ卿はそう言って物凄く力を抜いてる。しかも構えという構えはしてへん。戦いたい言っておきながら舐められてるな。そらそうや。500も差あったら埋めるにも埋められへんからな。

 ちゃっかり、今システマ使うらしいな言いかけたんは内緒や。

 さあ行くで!

 俺が突っ込むとマカロフ卿はニッと口角を吊り上げて葉巻を宙へ飛ばした。

 俺はマカロフ卿の顔をしっかりと見つつ、カウンターがきそうなところで、素早く膝を抜いてマカロフ卿のボディに目掛けて拳を突き出した。

 が――。

 俺は次の瞬間蹴り飛ばされていた。

 把握できたんは俺の拳を突き出した瞬間にマカロフ卿の顔も同じくらいの高さやったような気がするってだけやった。

「っつ――。痛いやんけアホ」

「異世界なんだから元の世界いたときよりマシだろう」

 アホ抜かせ。そんな訳あるかい。この痛みは身体向上アップ・バーストで蹴られたときと同等やぞ。どんな鍛え方したら――。そうや、コイツ元軍人やった。ただ喧嘩ばかりしてたちゃらんぽらんな俺とは住んでる世界がちゃう。あの手で何人も殺してきとるんや。

「反射神経どないなっとるねん」

「抜くっていう基本動作は似ているらしいからな。生でジークンドーを使われたのは何気に初めてだが」

「そうかい。初相手が俺で光栄やわ」

「思っても無い事をペラペラと」

 マカロフ卿はそう言って今度は構えた。左拳を前にしているコンパクトの構え方や。左手と右手の位置はそれほど離れてない。

 まあ構えられたら、構えられたでやりづらいわ。

 もう一度同じことをしてみよ。

 俺はそう思うと次の瞬間には、足が前に出てた。軸を保ちつつ移動するんがコツ。その動きによって膝を抜いた時に、対象者は狙われている箇所に注視するようになる。

 そして次狙うんが。

 再度膝を抜いて姿勢を低くした瞬間、次は上段に左足で蹴りを打つ――。

 システマの特徴や。右腕で抜こうとしてるんや。

 ほんなら右拳で死角からなら――。

「惜しかったな。だがもう見切った」

 俺は一瞬唖然とした。その隙に鼻に思いっきり裏拳を食らった。

 そこからは何が起きたか分からへん。

 顔に痛みがきたあとにボディに痛みがきた。

 そんでまた顔に痛みがきて壁に激突。

 背中に強烈な痛みが走った思ったら、髪を持ち上げられながら、ボディに拳を何度も何度も入れられた。

「がっ――」

 再び強い衝撃が背中に走った束の間。髪を掴まれた。

「さあそろそろ吐いてもらおう。何故この国に来た? 誰かの指示か? この牢屋で何をしている?」

 アホか。質問多すぎるわ。

「答えへんわアホ」

 そう切った口で笑うと再度殴られた。

「答えるまで殴り続けるぞ。いいのか」

「やれるもんならやってみろや」

 すると、マカロフ卿は無表情で俺の顔を殴り続けた。

 醜いもんやな。こうやって殴られ続けるんは久々や。どんな顔になってるかって? そらもうアンパンマンになってるやろ。新喜劇に出たら絶対みんなにイジられるで。まあそれはそれで幸せもんやな。

「吐く気になったか?」

「い……嫌……や…」

「あくまでNOか。じゃあ貴様等全員殺すまでだ」」

 その瞬間激痛が走った。今までのんは手加減してたんや。そんで蓄積ダメージがエグイのに、この強烈な一撃は……。



 真っ暗や。ここはどこなんやろう? 暗闇の中を彷徨ってるんか。

「ここ何処やねん――。呟いても誰もおれへんからしゃあない」

 分からへんまま歩いてると、学ランを着た金髪の派手な奴がおった。

 見覚えがある――。俺がずっと会いたかった人や。

「シュウキ!」

 振り返ってくれたんは中学時代のシュウキそのもの。派手な金髪とは真反対の優しく肌が白い男。喧嘩――。そんな言葉が似合わへん奴や。

 けど、シュウキは視線を戻してそのまま走って消えていった。

「待ってくれ! 謝らなアカンことがあるねん!」

 そんな俺の声が届くはずもなかった。

「せっかく会えたのに」

 俺は結局謝ることもできへんのか。シュウキ。お前は俺の事どう思っているんや。憎んどるんか? 友達やと思ってくれてたんか?

 一度死んでも消えることの無い罪悪感。

 ごめんって――。たったそんだけを言いたいだけやのに。

 そう抜け殻のようにずっとこの訳分からん空間におった。

 どんくらい経ったんやろう? 無気力でぼ~としてたら声が聞こえてきた。

「レン!」

「レンさん!」

「しっかりしろ」

「ん? 何や?」

 そう後ろを振り返ったら、アズサとノーディルスとネオンちゃんがおった。

 何や知らんけど必死に俺を呼んどる。

 ――。そうか。俺そういえばマカロフ卿と戦っていたんや。これは過去。立ち向かうべきは今や!



 意識が戻った。目が腫れてて上手く開くことできへんけど、マカロフ卿が通路に入ろうとしている事だけは分かった。

「ま……て」

 声が全然出やん。こんな小さい声で届くはずも無い。

 そう思ってた。

 マカロフ卿はこっちに振り向くなり驚いた表情を見せてた。口に咥えていた葉巻を落として――。
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