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プチ満喫Ⅱ

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「ルミエール、どや顔で出て行ったな」

 俺がそう呟くとミクちゃんが「ふふ」と笑みを浮かべていた。

「自信あるんじゃない?」

「だろうな~」

 手前のカウンターから、ベルゾーグ、アリス、ミクちゃん、俺という席順で座っている。

「それにしてもこういうところは落ち着かんな」

「わ――私もです。なんかこう危ない感じが……?」

 ベルゾーグは野生的すぎるところがあるから無視として、もじもじしながらアリスが言った事は聞き捨てならない。あまりにも可愛かったので、俺とミクちゃんは目を合わせていた。

「ナリユキ君。今の聞いた?」

「聞いた。ピュアピュアだな」

「そうなの。めちゃくちゃ可愛くない?」

「正直思った。純粋な姪っ子に大人の世界を連れて来た気分」

「分かるっ! 凄くいいよね」

 と、ヒソヒソ話をしていたが、俺からすればこのヒソヒソ話も、ミクちゃんの声が近くで聞けていいんだけどね。耳が幸せです。

「ナリユキ・タテワキ閣下、ミク・アサギ様、アリス様、ベルゾーグ様」

 そうスーツに身を纏ったオジサンに声をかけられた。

「私は店主のトレイビと申します。カーネル王様には存分にもてなすように仰せつかっております。ナリユキ閣下は特に大変な目にあったと伺っております。私が淹れるお酒で、その疲れを少しでも飛ばすことができればと考えおります」

 丁寧で柔らかい口調で俺達にそう一礼をした。

「お酒は何を飲まれますか?」

「どうせならここの限定で飲めるカクテルがいいですね。それでいい?」

 俺がそう言うと、3人共コクリと頷いた。

「私はそのお酒って飲んだことが無いので、できれば爽やかでフルーティーな感じが良いです」

「それならばいいものがありますよ。皆様は桃は大丈夫ですか?」

 トレイビさんはそう言って問いかけて来たが、全員が「大丈夫」と答えたので「では」と言って瓶を取り出した。
そしてもう1つは黒い瓶に入っていて、2つとも何のお酒か分からなかった。その2つの液体を氷が入ったグラスに手際よく淹れて用意してくれた。

「トレイビ――それが本名なんですね?」

 俺の質問に「ええ」とお酒の準備をしながらにこやかに応えてくれた。

「魔族か何かの混合種やハーフとかですか? パッシブスキルを視た限り人型化ヒューマノイドも有していないようですし」

「そうですね。私は元々転生者なんですよ。実は記憶が無くてですね。前の世界で何をしていたかを覚えておりません」

 そうか――でも俺からすればこの人はアメリカ人だ。整えられた口元の髭と顎鬚。彫りが深い欧米の顔立ちにブルーの瞳。瞳の奥に宿るどこか漂う闇は、何らかの深い事情がありそうだった。その闇に呼応するかのように、客はついつい自分の闇をさらけ出してしまう――。

 周りくどかったが、端的に言ってしまえば話しやすい人だ。

「ここには最近来たんですか?」

「ええ。前は自分のお店を町で営んでいたのです。しかし、光栄な事にカーネル王に気に入って頂き、ご縁がありここで働かせて頂いております」

 そう嬉しそうにトレイビさんは話した後に「どうぞ」とお酒を渡してくれた。氷が4個入ったグラスから桃のフレーバーが鼻を刺激した。俺の直感が言っている。これは飲みやすいやつだ――。

 よく見るとグラスの中には桃の果肉が漂っていた。口に含んでみると、桃と白ワインのようなコクが広がるが――そのコクの喉越しときたらやたらと爽やかだった。

「飲みやすいっ!」

「美味しいです」

「確かにこれはイケるな」

 ミクちゃん、アリス、ベルゾーグの順番にそう感想を述べていた。その感想を聞いたトレイビさんは満足そうだった。

「ナリユキ閣下はいかがでしょうか? お気に召さなかったですか?」

 俺に対しては不安気だった。感想を言っていなかったからだろう。

「美味しいですよ。これは何というカクテルなのですか?」

「これはカーネル王国で人気なカーキュスと呼ばれるものです。それに私が独自で仕入れている白ワインと混ぜたお酒です」

「主人、カーキュスとはどういう意味なのだ? マーズベルにはそのような言葉は無いので」

 ベルゾーグがそう質問すると――。

「カーキュスとは爽やかな桃という意味です。一度通常の爽やかな桃カーキュスも飲まれてみますか?」

「是非」

「グラスはどうされますか?」

「皆のペースがあると思うのでグラス一杯分でいいですよ」

「かしこまりました」

 トレイビさんはそう言って氷を入れたグラスに先程の瓶を取り出すなり、ロックグラスに爽やかな桃カーキュスを注ぐ。

「どうぞ」

 差し出されたロックグラスに入った爽やかな桃カーキュス。俺は一口飲んでみた――。深いコクに桃のフレーバー。そしてスミノフのような喉越し――確かにこれだけでも十分美味しいが、圧倒的に違うのはコクの深さだ。白ワインを混ぜたことによって沼らせるお酒が完成してしまっている。

「ミクちゃんも飲んでみ。全然違うから」

 俺がそう渡すとミクちゃんは「うん」と頷き口に運んだ。少し飲んだ後の感想は、やはりトレイビさんが言っているように、これはこれで美味しいけど、白ワインを入れることによって更に美味しいという感想だ。

「ビール、日本酒、焼酎、チューハイ、白ワイン、赤ワイン、シャンパン、ハイボール、そして爽やかな桃カーキュスって感じだね」

 トレイビさんはキョトンとしていた。まあ無理もない。日本酒や焼酎は知らない筈だからな。対してベルゾーグとアリスは俺とミクちゃんのお陰で日本酒、焼酎、チューハイと言った言葉は知っているので、ミクちゃんが言いたいことは何となく解ったようだ。

「まあこのお酒は1つのジャンルとして確立としてもいいくらいのものですよ。そのくらいのクセを持っています」

 日本酒、焼酎、チューハイの言葉は分からないが、俺達がそれだけのクセを秘めている事を伝えると、トレイビさんは満足気な表情を浮かべ。

「ありがとうございます」

 そう俺達に一礼をしてくれた。

 それにしても、思わぬお酒との出会いがあったものだ。
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