249 / 565
ボスとQⅠ
しおりを挟む
ナリユキ・タテワキは脱出した。何はともあれ彼が無事なら、忌まわしいコードの作戦もいずれは終わる。何より、コードよりさらに上の存在が好き放題に出来ないのが一番の利点だ。
私はミク・アサギ達にやられた兵士の回復を一通り終えると廊下を歩いていた。
「ご苦労だったなメリーザ」
「いえ、とんでもないございませんマカロフ卿」
「ただ――」
そう言ったマカロフ卿の顔は剣幕なものだった。
「ナリユキ・タテワキに肩を持ったのは気に食わん」
マカロフ卿はまだ私が反抗したことを根に持っているようだった。それもそうだ。実はあれがマカロフ卿に対する初めての対抗だったからだ。いつも賛同してきたこの私に歯向かわれるとは夢にも思わなかったのだろう――それに私達は……。
「今後、妙な動きはするなよ。コードを危険な目に遭わせたくはないからな」
「はい」
私がそう言うとふんと鼻を鳴らして振り返り、葉巻を吸いながら兵士達が横たわっている方へとマカロフ卿は歩いて行った。
すると黒いローブに身を包み、金色の蛇柄の仮面を付けた見知らぬ何者かが私の右側を横切った。男性か女性かも分からないが私が知っている人では無かった。
「Q様こちらへ」
「ああ」
1人の兵士がそう言うとQと呼ばれる男は兵士に連れられて何処かへ行った。私の知らない来客でQという名前――ナリユキ・タテワキが言っていたヴェドラウイルスがマーズベルで発生した元凶だ。
私は、異常聴覚で10m先のQと呼ばれる男と兵士の声を拾うおうとしたが、特段何かを喋っている様子はなかった。
「仕方ない」
私はQの後を付けることにした。入口のエントランスを抜けて螺旋階段を登って行く――間違いない。兵士はコード専用の客室へ案内するつもりだ。
隣に部屋があるのでそこから異常聴覚を使って盗み聞きしよう。
私は、兵士がQをコードの部屋へ案内したのを異常聴覚で話し声とドアが開いた音が聞こえると、コード専用の客室の左隣にある客室へと入った。
精神を統一させてコードとQの話し声に集中させる。
「大変な目にあったようだな」
「まあな。一体いつ潜入されていたのか知らんが、ナリユキ・タテワキの側近であるミク・アサギとオストロン連邦国の青龍がいた」
「青龍? あの青龍か?」
「そうだ。生ける伝説青龍。流石に元Z級が相手ではワイズをぶつけても勝てない」
ふうと。大きく息を吐いた。いつもの如く煙草を吸いながら喋っているのだろう。
「それは運がなかったな。しかし、アヌビスという魔物が味方についたと聞いたが?」
「戦闘値7,000の化物だな。そいつはたまたま席を外していた。マカロフが言うには調べものをするために手を貸してくれているだけだそうだ。外出は自由にしていいという許可を出している」
「裏切られる可能性は無いのか?」
「そうなったら全力で抵抗するしかない。元々、7,000という圧倒的な戦闘値を持つ魔物と対峙して生き残っているマカロフ達は大したものだ。本当ならばその時点で命を奪われてもおかしくない」
「成程な」
「前置きはさておきアレの効き目はどうなんだ?」
アレ? というのは恐らくヴェドラウイルスの事だ。
「正直なところどうなっているかは分からない。マーズベルの対応が早くてな」
「それだと何の為にお金をかけてアレを撒いたのか分からんぞ!?」
「こっちはこっちの問題だ。別にアンタの金で撒いた訳ではないだろう? あくまで我々とアンタの目的が重ね合わさっただけだからな」
Qの言葉にコードはぬううと唸っていた。どうやら、コードが出資をしてヴェドラウイルスを撒いたということではない事は分かった。と、言う事はマーズベルは2つの勢力から狙われているという事になる。当然と言えば当然だ。最近のマーズベル共和国の収益は右肩上がりだ。農作物も、魔族のベリトが生成している武器の評判もいいらしい。また、マーズベルは大きく変わって、人々が楽しめるような国になっていると聞く。そして、女神と呼ばれているミク・アサギが統括する医療施設は腕のいい森妖精が多く、手足がもげようとも元通りにできる実力者が数十人いると聞く。非の打ち所がない完璧な国だ。それを統べるナリユキ・タテワキという人物もまた若いながら凄い器の持ち主だ。そして強靭なタフさもある。仲間の為ならば何でも受け入れるという言い張れる程の信念――強い魔物達が配下になるのも頷ける。
「それでこれからはどうするんだ?」
「そうだな。ヴェドラウイルスを飲んだ使者をもっと送り込む必要があるな」
「対策が打たれていたらどうするんだ? 例えば幻幽蝶とか」
「幻幽蝶か。あの話は本当なのか? ヴェドラウイルスに対抗できる成分と、どんな幻覚や幻惑を治すことができるというのは」
「本当だそうだぞ?」
「それだと少しマズいな。どうやら幻幽蝶をナリユキ・タテワキが依頼した冒険者パーティーが見つけたそうなんだ」
「何!?」
コードが驚くのも無理は無い。幻幽蝶は私ですら見たことが無い神聖な生物。数百年に一度しか姿を現さないと言われているのにそれを捕まるということは、相当な探索能力を持っている。
「まあ問題はない。対策は考えている」
私はミク・アサギ達にやられた兵士の回復を一通り終えると廊下を歩いていた。
「ご苦労だったなメリーザ」
「いえ、とんでもないございませんマカロフ卿」
「ただ――」
そう言ったマカロフ卿の顔は剣幕なものだった。
「ナリユキ・タテワキに肩を持ったのは気に食わん」
マカロフ卿はまだ私が反抗したことを根に持っているようだった。それもそうだ。実はあれがマカロフ卿に対する初めての対抗だったからだ。いつも賛同してきたこの私に歯向かわれるとは夢にも思わなかったのだろう――それに私達は……。
「今後、妙な動きはするなよ。コードを危険な目に遭わせたくはないからな」
「はい」
私がそう言うとふんと鼻を鳴らして振り返り、葉巻を吸いながら兵士達が横たわっている方へとマカロフ卿は歩いて行った。
すると黒いローブに身を包み、金色の蛇柄の仮面を付けた見知らぬ何者かが私の右側を横切った。男性か女性かも分からないが私が知っている人では無かった。
「Q様こちらへ」
「ああ」
1人の兵士がそう言うとQと呼ばれる男は兵士に連れられて何処かへ行った。私の知らない来客でQという名前――ナリユキ・タテワキが言っていたヴェドラウイルスがマーズベルで発生した元凶だ。
私は、異常聴覚で10m先のQと呼ばれる男と兵士の声を拾うおうとしたが、特段何かを喋っている様子はなかった。
「仕方ない」
私はQの後を付けることにした。入口のエントランスを抜けて螺旋階段を登って行く――間違いない。兵士はコード専用の客室へ案内するつもりだ。
隣に部屋があるのでそこから異常聴覚を使って盗み聞きしよう。
私は、兵士がQをコードの部屋へ案内したのを異常聴覚で話し声とドアが開いた音が聞こえると、コード専用の客室の左隣にある客室へと入った。
精神を統一させてコードとQの話し声に集中させる。
「大変な目にあったようだな」
「まあな。一体いつ潜入されていたのか知らんが、ナリユキ・タテワキの側近であるミク・アサギとオストロン連邦国の青龍がいた」
「青龍? あの青龍か?」
「そうだ。生ける伝説青龍。流石に元Z級が相手ではワイズをぶつけても勝てない」
ふうと。大きく息を吐いた。いつもの如く煙草を吸いながら喋っているのだろう。
「それは運がなかったな。しかし、アヌビスという魔物が味方についたと聞いたが?」
「戦闘値7,000の化物だな。そいつはたまたま席を外していた。マカロフが言うには調べものをするために手を貸してくれているだけだそうだ。外出は自由にしていいという許可を出している」
「裏切られる可能性は無いのか?」
「そうなったら全力で抵抗するしかない。元々、7,000という圧倒的な戦闘値を持つ魔物と対峙して生き残っているマカロフ達は大したものだ。本当ならばその時点で命を奪われてもおかしくない」
「成程な」
「前置きはさておきアレの効き目はどうなんだ?」
アレ? というのは恐らくヴェドラウイルスの事だ。
「正直なところどうなっているかは分からない。マーズベルの対応が早くてな」
「それだと何の為にお金をかけてアレを撒いたのか分からんぞ!?」
「こっちはこっちの問題だ。別にアンタの金で撒いた訳ではないだろう? あくまで我々とアンタの目的が重ね合わさっただけだからな」
Qの言葉にコードはぬううと唸っていた。どうやら、コードが出資をしてヴェドラウイルスを撒いたということではない事は分かった。と、言う事はマーズベルは2つの勢力から狙われているという事になる。当然と言えば当然だ。最近のマーズベル共和国の収益は右肩上がりだ。農作物も、魔族のベリトが生成している武器の評判もいいらしい。また、マーズベルは大きく変わって、人々が楽しめるような国になっていると聞く。そして、女神と呼ばれているミク・アサギが統括する医療施設は腕のいい森妖精が多く、手足がもげようとも元通りにできる実力者が数十人いると聞く。非の打ち所がない完璧な国だ。それを統べるナリユキ・タテワキという人物もまた若いながら凄い器の持ち主だ。そして強靭なタフさもある。仲間の為ならば何でも受け入れるという言い張れる程の信念――強い魔物達が配下になるのも頷ける。
「それでこれからはどうするんだ?」
「そうだな。ヴェドラウイルスを飲んだ使者をもっと送り込む必要があるな」
「対策が打たれていたらどうするんだ? 例えば幻幽蝶とか」
「幻幽蝶か。あの話は本当なのか? ヴェドラウイルスに対抗できる成分と、どんな幻覚や幻惑を治すことができるというのは」
「本当だそうだぞ?」
「それだと少しマズいな。どうやら幻幽蝶をナリユキ・タテワキが依頼した冒険者パーティーが見つけたそうなんだ」
「何!?」
コードが驚くのも無理は無い。幻幽蝶は私ですら見たことが無い神聖な生物。数百年に一度しか姿を現さないと言われているのにそれを捕まるということは、相当な探索能力を持っている。
「まあ問題はない。対策は考えている」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
326
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる