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噂を広げろⅦ

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 リリーが加わった次の日。

「リリーちゃんが言っていたよ、無料で色々と魔物の情報を教えてくれるんだろ? それにアンタは究極の阻害者アルティメット・ジャマーっていうスキルを持っているから相当な手練れと折り紙つきだったのさ」

 ここにきて初めて、ミクちゃんが集客でているのに、俺が全然集客出来ないのか分かった。そもそも究極の阻害者アルティメット・ジャマーというスキルの存在を知らないんだ。

「ああそうだ。期間限定だから今のうちだぞ」

「そうか。じゃあ早速頼む。町にもし何かあった時に抵抗したいしな」

 そう言って席についたのは50代の商人だ。リリーって相当信頼高いんだなとか思いながら俺はこの人の記憶の中を覗いた。商人って事は――。やっぱりだ。ディアン公爵に物凄く感謝している。事件の関心度はあるから、とりあえずスペード侯爵家の人間が犯人ではないという情報を流しておこう。

「大丈夫ですよ」

「おお! 本当に色々な魔物の情報がある! 天元さんありがとう! 絶対に本とか書いた方がいいよ! これだけの魔物を倒している人は世界規模でもそうはいない。天元さんが書かなければ俺が書くよ」

 そう言って商人は微笑んでいた。

「確かにそうだな。考えておくよ」

「絶対にいい本作れるよ。本当に助かったありがとう」

 商人はそう言って席を立った。そして次は冒険者だ――。とそんな感じで俺の前は大行列だった。よくよく考えれば両手を使ってできるんじゃないか? 今は待っている人がいるから、とりあえず午前中は1人ずつ捌く。

 そうしていると午前中はリリーのお陰で150人程動員することができた。そのなかでディアン公爵が真犯人という事を教えること出来たのが3人だった。案の定、この3人はもっと情報が知りたいと言ってきた。

「リリーのお陰で、午前中だけで150人か――凄いな」

「感謝されるほどじゃない」

「いや、評判ってのは本当に大事だなと。何で上手くいかないんだと思ったら、皆究極の阻害者アルティメット・ジャマー知らないんだな」

「そうよ。カルカラは他国と違って、戦える人はそれほどいないもの。究極の阻害者アルティメット・ジャマーってスキルが知らなくて当然よ」

「どおりで昨日まで駄目だったわけだ」

「そんなに気を落とす必要はない。私が聞いたところ、お店の看板も分かりやすくて評判いいし」

 リリーの言葉に「そうか」とクールにいなしたが、内心俺はめちゃくちゃ嬉しかった。

「買って来たよ~」

 ミクちゃんがそう紙袋を見せながらこっちに向かって来た。そうして置かれたのはカレーやナンといった食べ物だった。

「食べる前に確認したことがあるんだけどいいか?」

「いいよ」

「何かしら?」

「2人同時にスキル使えるのかなって」

 俺がそう言うとミクちゃんは「確かに!」と手をポンと叩いた。

「それができたら1日に960人捌くことができるね!」

「そうなんだよ。今までは1人ずつやっていたから2人同時にやるなんて概念無かったからな」

「では早速試してくれ」

「ああ」

 ミクちゃんとリリーが頭を預けてくれたので、両手に共有する知性と記憶を送り込む感覚で知性・記憶の略奪と献上メーティスをいつも通り発動した。すると、俺の両手は金色に光っていた。

「できた! 後は2人にちゃんと俺が共有したい情報がいくかどうか――」

 2人の頭に軽く手を置いて、ヴェドラウイルスに関する医療の知識を分け与えた。勿論、この情報にはアーツさんが元々持っていた情報も入っている。

「いいぞ」

「凄い――ヴェドラウイルスに関する医学の知識が流れ込んできた」

「私の知らない情報も何気にあった。ありがとう!」

 リリーは驚き、ミクちゃんはシンプルに俺に感謝をしてきた。

「これで2人同時にできることが証明された。午前中のような人数が続けば早めに切り上げることができるな!」

「そうだね」

 俺とミクちゃんはそう喜んでいたが、リリーだけは何か別の事を考えているようだった。

「どうした?」

「そういえば今なら無料って言っていたから、有料にするのかな? って考えて」

「う~ん。原則無料って言っていたからな。それにダイヤ侯爵から許可取っていないしな」

「取ったほうがいいわよ。天元さんの情報は銀貨10枚は少なくともあるわ」

「じゃあ、それは今晩考えるか。でもまあ商売に来た訳ではないからな~」

「変なところで頑固なのね」

 リリーは俺の顔をじっと見てそう言って来た。

「正直な所、お金を貰っているのに事件に関する情報を混ぜるのはな~」

「それを言われるとそうね」

「まあ別にそれは後で考えようよ。今はご飯を食べよう! 冷めちゃうよ」

 と、ミクちゃんがカレーとナンを置いてくれた。が――俺の分のナンは勿論無い。だって糖質高いもん。流石にいらない。

 そういった調子で1日、1日と忙しい日々を過ごした。曜日によって人が多かったり少なかったりとしたけど、2人同時にできると知ってから目標の日数を14日にして、約半月この【授け屋】を行った結果。ディアン公爵の情報を共有できたのが、115人という結果を残すことができた。

 噂も徐々に広がり、町ではサイスト・クローバー侯爵の事件には真犯人がいるという話で持ち切りになっていた。カルカラの上の連中もこの噂には無視ができなくなり、スペード侯爵家の人間を仮解放という形で、スペード侯爵家の家のなかでなら自由に行動しても良いという許可は下りたらしい。しかし、そんな情報を流したのはどこの誰だ! と一部の人間が騒ぎを立てている。俺達の元に辿り着くのも時間の問題だろう。

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