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創世の裏切り者Ⅰ
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「それは私に謝られても――。ただ、気持ちは受け取っておきます」
「ありがとうございます」
そうスペンサー公爵はお礼を述べてきた。
「それにしても、自分の味方や国が黒龍の手によって亡びかけていたのに、ミロクが動かなかったのは何故ですか? 私の認識違いでなければ、地上、魔界、地下世界の頂点に立つのはミロクだと思っています。ミロクの力があれば黒龍を倒せたのではないでしょうか? こうなる前に――」
俺の率直な疑問だった。平和を維持する事が目的であれば黒龍を倒しに現れても可笑しくない筈なのに。
「ミロク様は地下世界にいました。地下世界は特殊な力が働いている為、地上の情報を地下世界から入手するのは困難だったのです」
「地下世界に何故?」
俺がそう問いかけるとスペンサー公爵は一呼吸置いた後、俺の目を真っ直ぐ見てきた。
「コヴィー・S・ウィズダムです」
「またか――」
俺は思わず頭を抱えた。まさかの展開だ。それにミロクが直々に奴を探していたとは――。
「探している理由は?」
「彼は元々創世の幹部でした。元々のコードネームはCです。彼は我々創世を裏切ったのです」
「C――確かジャックが言っていた人物――」
アマミヤはそう呟いていた。
「どんな裏切りをしたのですか?」
「同じ創世の大幹部のウリエル様を私欲の為に殺害したのです」
「大幹部? 私欲の為?」
「大幹部はミロク様を崇拝しているZ級の幹部の事です。ウリエル様のユニークスキルを奪う為、コヴィー・S・ウィズダムはウリエル様を殺害したのです」
ミロクを囲むZ級か――一体どれほど強いのだろうか――。つうか、創世ってZ級が五人――いや、コヴィー・S・ウィズダムを入れると六人もいたのか。
「それでコヴィー・S・ウィズダムを追っている訳ですね?」
「その通りです。対象の相手を殺す事で、ユニークスキルと力を獲得できるスキルです。恐ろしいのは神のスキルですら殺害に成功さえすれば確実にユニークスキルを獲得できる事です。覚醒しているスキルであれば、覚醒した状態で入手する事ができます。持っているスキルは生殺与奪です。我々ですら彼の居場所を突き止める事ができませんので、恐らくですが奈落神の特性でしょう」
「成程。ウリエルから奪ったユニークスキルは何なんですか?」
「ウリエル様から奪ったユニークスキルは、叡智ノ王です。このスキルはナリユキ閣下の知性・記憶の略奪と献上と似た部分がありますが、このユニークスキルは言語能力が無い魔物にも知恵を与える事ができます。知恵が無い場合は言語能力を習得できます。しかし、コヴィー・S・ウィズダムが本当に欲しかったのはそのスキルでは無いとされています」
「一体何が目的だったんですか?」
「ウリエル様が持っていたアクティブスキルだと思います。神火と神光というアクティブスキルがあるのですが、神火が黒龍のように、どんな物でも燃やし尽くすことが可能になるのです。恐らく、黒龍を生殺与奪で奪う時に、黒龍に暴れられるのを危惧して手に入れたことが考えられます」
「そうでしたか」
俺がそう返事をすると「はい」と深刻な表情を浮かべたスペンサー公爵。
「もし、宜しければ一度ミロク様にお会いしてみますか?」
「え?」
「はい?」
俺とアマミヤは思わず腑抜けた声を出してしまった。
「本気で言っていますか?」
「勿論です。ミロク様はナリユキ閣下に非常に興味を持っておられます。我々が協力すれば裏切り者のコヴィー・S・ウィズダムを倒す事ができますので、アリシア様の森羅万象の力を取り戻す必要もありません」
「――ちょっと待ってください。私達が創世に関する情報をどこまで手に入れているのか知っているのですか?」
「勿論です。ミロク様は全てお見通しです」
「――こわっ」
俺がそう呟くと「ミロク様は神様なので」とスペンサー公爵は呟いた。
「戦う事にはなりませんよね?」
「ミロク様は嘘をつきません。例えナリユキ閣下達がミロク様に攻撃をしても、ミロク様は攻撃をしないでしょう」
スペンサー公爵が嘘をついているようには思えなかった。けれども、あっさり敵が言っている事を信用していいのか?
「何故、我々に会いたいと思っているんですか?」
アマミヤがスペンサー公爵にそう質問を投げた。
「理由は簡単です。転生して一年にも満たない人間が、マーズベルを統治し黒龍を討伐したからです。ミロク様はナリユキ閣下に感謝をしていると仰っておりました。まずは会ってお礼がしたいとの事です」
「どうしますか? 閣下」
アマミヤが俺にそう問いかけてきた。俺からすれば創世がやってきた行いを到底許すことはできない事が一つだけある。あのマルーン共和国のケトルの森にあった研究施設だ。あそこでは身寄りのない子供がたくさん収監され、魔物と混合させる人体実験が行われていた。あれが人類の進化の為? 馬鹿げた話は止めてくれ。あれを許す理由がない。
「お会いしましょう。その前にスペンサー公爵に聞きたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」
「はい」
「人間と魔物の人体実験はどう思いますか?」
「私はあの実験は反対派ですよ。ただ、これはウリエル様が合意した事なのです。あの方は我々では想像できないような叡智を持っている方でした。ウリエル様が仰っていたのは、人類の更なる躍進の為に必要な事なのです。ただ、この実験を提案したのはコヴィー・S・ウィズダムでしたが――」
とスペンサー公爵は苦笑を浮かべていた。本当にろくでもない爺だな。
「ありがとうございます」
そうスペンサー公爵はお礼を述べてきた。
「それにしても、自分の味方や国が黒龍の手によって亡びかけていたのに、ミロクが動かなかったのは何故ですか? 私の認識違いでなければ、地上、魔界、地下世界の頂点に立つのはミロクだと思っています。ミロクの力があれば黒龍を倒せたのではないでしょうか? こうなる前に――」
俺の率直な疑問だった。平和を維持する事が目的であれば黒龍を倒しに現れても可笑しくない筈なのに。
「ミロク様は地下世界にいました。地下世界は特殊な力が働いている為、地上の情報を地下世界から入手するのは困難だったのです」
「地下世界に何故?」
俺がそう問いかけるとスペンサー公爵は一呼吸置いた後、俺の目を真っ直ぐ見てきた。
「コヴィー・S・ウィズダムです」
「またか――」
俺は思わず頭を抱えた。まさかの展開だ。それにミロクが直々に奴を探していたとは――。
「探している理由は?」
「彼は元々創世の幹部でした。元々のコードネームはCです。彼は我々創世を裏切ったのです」
「C――確かジャックが言っていた人物――」
アマミヤはそう呟いていた。
「どんな裏切りをしたのですか?」
「同じ創世の大幹部のウリエル様を私欲の為に殺害したのです」
「大幹部? 私欲の為?」
「大幹部はミロク様を崇拝しているZ級の幹部の事です。ウリエル様のユニークスキルを奪う為、コヴィー・S・ウィズダムはウリエル様を殺害したのです」
ミロクを囲むZ級か――一体どれほど強いのだろうか――。つうか、創世ってZ級が五人――いや、コヴィー・S・ウィズダムを入れると六人もいたのか。
「それでコヴィー・S・ウィズダムを追っている訳ですね?」
「その通りです。対象の相手を殺す事で、ユニークスキルと力を獲得できるスキルです。恐ろしいのは神のスキルですら殺害に成功さえすれば確実にユニークスキルを獲得できる事です。覚醒しているスキルであれば、覚醒した状態で入手する事ができます。持っているスキルは生殺与奪です。我々ですら彼の居場所を突き止める事ができませんので、恐らくですが奈落神の特性でしょう」
「成程。ウリエルから奪ったユニークスキルは何なんですか?」
「ウリエル様から奪ったユニークスキルは、叡智ノ王です。このスキルはナリユキ閣下の知性・記憶の略奪と献上と似た部分がありますが、このユニークスキルは言語能力が無い魔物にも知恵を与える事ができます。知恵が無い場合は言語能力を習得できます。しかし、コヴィー・S・ウィズダムが本当に欲しかったのはそのスキルでは無いとされています」
「一体何が目的だったんですか?」
「ウリエル様が持っていたアクティブスキルだと思います。神火と神光というアクティブスキルがあるのですが、神火が黒龍のように、どんな物でも燃やし尽くすことが可能になるのです。恐らく、黒龍を生殺与奪で奪う時に、黒龍に暴れられるのを危惧して手に入れたことが考えられます」
「そうでしたか」
俺がそう返事をすると「はい」と深刻な表情を浮かべたスペンサー公爵。
「もし、宜しければ一度ミロク様にお会いしてみますか?」
「え?」
「はい?」
俺とアマミヤは思わず腑抜けた声を出してしまった。
「本気で言っていますか?」
「勿論です。ミロク様はナリユキ閣下に非常に興味を持っておられます。我々が協力すれば裏切り者のコヴィー・S・ウィズダムを倒す事ができますので、アリシア様の森羅万象の力を取り戻す必要もありません」
「――ちょっと待ってください。私達が創世に関する情報をどこまで手に入れているのか知っているのですか?」
「勿論です。ミロク様は全てお見通しです」
「――こわっ」
俺がそう呟くと「ミロク様は神様なので」とスペンサー公爵は呟いた。
「戦う事にはなりませんよね?」
「ミロク様は嘘をつきません。例えナリユキ閣下達がミロク様に攻撃をしても、ミロク様は攻撃をしないでしょう」
スペンサー公爵が嘘をついているようには思えなかった。けれども、あっさり敵が言っている事を信用していいのか?
「何故、我々に会いたいと思っているんですか?」
アマミヤがスペンサー公爵にそう質問を投げた。
「理由は簡単です。転生して一年にも満たない人間が、マーズベルを統治し黒龍を討伐したからです。ミロク様はナリユキ閣下に感謝をしていると仰っておりました。まずは会ってお礼がしたいとの事です」
「どうしますか? 閣下」
アマミヤが俺にそう問いかけてきた。俺からすれば創世がやってきた行いを到底許すことはできない事が一つだけある。あのマルーン共和国のケトルの森にあった研究施設だ。あそこでは身寄りのない子供がたくさん収監され、魔物と混合させる人体実験が行われていた。あれが人類の進化の為? 馬鹿げた話は止めてくれ。あれを許す理由がない。
「お会いしましょう。その前にスペンサー公爵に聞きたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」
「はい」
「人間と魔物の人体実験はどう思いますか?」
「私はあの実験は反対派ですよ。ただ、これはウリエル様が合意した事なのです。あの方は我々では想像できないような叡智を持っている方でした。ウリエル様が仰っていたのは、人類の更なる躍進の為に必要な事なのです。ただ、この実験を提案したのはコヴィー・S・ウィズダムでしたが――」
とスペンサー公爵は苦笑を浮かべていた。本当にろくでもない爺だな。
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