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毒舌は解毒不可能です
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「申し訳ありませんが、僕は暇ではないのですよ……あなたと違って。そもそもあなたに僕の名を呼ぶ事を許したつもりはありません。その上おかしな愛称で呼ばないでください」
ラウラの媚びた態度に眉を顰めるも、女性を手荒く扱うことは異に反するのだろう。予想外にそっとラウラの腕を外すが、その声音は恐ろしいほどに冷たかった。
「……殿下。姉を追い出してまで召し上げた女性です。きちんと手綱を握っていただけませんか? それとも何もしなくても乗せさせてくれる、他人に手綱を付けて貰ってお膳立てされた名馬しか知らない殿下には、駄馬に手綱は付けられませんか? ああすみません、ちゃんと荷運びするだけ本物の駄馬の方が優秀ですね。一緒にして駄馬に申し訳ない」
「ひっ……ヒドいよリック君!」
「貴様……っ! ラウラに向かって!!」
ラウラを駄馬扱いしたヘンリックの毒舌に血の気の多いランベルトが怒り狂い掴み掛かろうとするが、最近ラウラに纏わりついてばかりで鍛練を怠っている為動きが鈍い。あっさり躱され、ランベルトの方が床に転がる。無様な姿を見て、ヘンリックはフン、と小馬鹿にした様に鼻を鳴らした。
「呼ぶな、と言ったにも関わらず理解できない頭に酷いと言われても、まったく心に響きませんね。こんな頭が花畑で顔だけ女の何処が良かったのですか? 姉に濡れ衣を着せてまで」
「……濡れ衣だと?」
濡れ衣とはラウラが襲われた時の事か。確かにクラウディアは身に覚えがないと言っていた。そもそもが、罪を突きつけるのならクラウディアの言う通り暴漢の自供にどれだけ信憑性があるのかを検証しなければならなかったのだが、この二週間の忙しさにすっかり頭から抜けおちていた。
「姉は、流石にもう御存知だと思いますが、もう数年前より婚約の継続に対して消極的でした。破棄でも解消でも問題なかった。それなのに嫉妬に狂ってお花畑女に嫌がらせ?襲わせる? ……あり得ませんね。清々してますよ」
「嘘だ……」
確かに物足りなさを感じたてはいたが、クラウディアは王家に嫁ぐ令嬢としてはなんの過不足はないのは理解していた。それだけ王太子妃となるべく努力を重ねていたのだ。それが全て水泡に帰したにも関わらず清々した、などあるが筈ない。
「嘘? 何をもって何を嘘と? 何一つ証拠もないのに疑うなどまだ懲りていないのですか?」
「く、クラウディアの心の内を、例え弟であろうと全て把握など出来る筈もない! 口ではそう言いながらも絶対に後悔している筈だ! そ、そうだ。お前からクラウディアに伝えろ! クラウディアにお前の態度次第では役員の解任も、婚約破棄も取り消してやると!」
「ハルト様!? ……そんな……っ」
取り敢えず謝罪を、と少しは神妙な事を考えていたに関わらず、ヘンリックの挑発的な態度に、いつもの我が出てしまったエーベルハルトの頭から譲歩の文字が吹き飛んでしまった。クラウディアと婚約破棄し、自分を妃にしてくれるものだとばかり思っていたラウラが慌ててエーベルハルトへ取り縋るが、ラウラへの思いがこの二週間で霧散してしまったエーベルハルトに荒々しく振り払われ思わず呆然としてしまう。
息荒く、クラウディアへの伝言を申し付けるエーベルハルトに、ヘンリックは冷たい眼差しを向けたままだ。そして一言で一刀両断した。
ラウラの媚びた態度に眉を顰めるも、女性を手荒く扱うことは異に反するのだろう。予想外にそっとラウラの腕を外すが、その声音は恐ろしいほどに冷たかった。
「……殿下。姉を追い出してまで召し上げた女性です。きちんと手綱を握っていただけませんか? それとも何もしなくても乗せさせてくれる、他人に手綱を付けて貰ってお膳立てされた名馬しか知らない殿下には、駄馬に手綱は付けられませんか? ああすみません、ちゃんと荷運びするだけ本物の駄馬の方が優秀ですね。一緒にして駄馬に申し訳ない」
「ひっ……ヒドいよリック君!」
「貴様……っ! ラウラに向かって!!」
ラウラを駄馬扱いしたヘンリックの毒舌に血の気の多いランベルトが怒り狂い掴み掛かろうとするが、最近ラウラに纏わりついてばかりで鍛練を怠っている為動きが鈍い。あっさり躱され、ランベルトの方が床に転がる。無様な姿を見て、ヘンリックはフン、と小馬鹿にした様に鼻を鳴らした。
「呼ぶな、と言ったにも関わらず理解できない頭に酷いと言われても、まったく心に響きませんね。こんな頭が花畑で顔だけ女の何処が良かったのですか? 姉に濡れ衣を着せてまで」
「……濡れ衣だと?」
濡れ衣とはラウラが襲われた時の事か。確かにクラウディアは身に覚えがないと言っていた。そもそもが、罪を突きつけるのならクラウディアの言う通り暴漢の自供にどれだけ信憑性があるのかを検証しなければならなかったのだが、この二週間の忙しさにすっかり頭から抜けおちていた。
「姉は、流石にもう御存知だと思いますが、もう数年前より婚約の継続に対して消極的でした。破棄でも解消でも問題なかった。それなのに嫉妬に狂ってお花畑女に嫌がらせ?襲わせる? ……あり得ませんね。清々してますよ」
「嘘だ……」
確かに物足りなさを感じたてはいたが、クラウディアは王家に嫁ぐ令嬢としてはなんの過不足はないのは理解していた。それだけ王太子妃となるべく努力を重ねていたのだ。それが全て水泡に帰したにも関わらず清々した、などあるが筈ない。
「嘘? 何をもって何を嘘と? 何一つ証拠もないのに疑うなどまだ懲りていないのですか?」
「く、クラウディアの心の内を、例え弟であろうと全て把握など出来る筈もない! 口ではそう言いながらも絶対に後悔している筈だ! そ、そうだ。お前からクラウディアに伝えろ! クラウディアにお前の態度次第では役員の解任も、婚約破棄も取り消してやると!」
「ハルト様!? ……そんな……っ」
取り敢えず謝罪を、と少しは神妙な事を考えていたに関わらず、ヘンリックの挑発的な態度に、いつもの我が出てしまったエーベルハルトの頭から譲歩の文字が吹き飛んでしまった。クラウディアと婚約破棄し、自分を妃にしてくれるものだとばかり思っていたラウラが慌ててエーベルハルトへ取り縋るが、ラウラへの思いがこの二週間で霧散してしまったエーベルハルトに荒々しく振り払われ思わず呆然としてしまう。
息荒く、クラウディアへの伝言を申し付けるエーベルハルトに、ヘンリックは冷たい眼差しを向けたままだ。そして一言で一刀両断した。
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