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出会いは五年前です
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「………………は?」
あまりの衝撃からか、エーベルハルトら五人は口を開けたまま呆然としている。それを面白そうにヘンリックは見ていたが、やがて真っ先に我に返ったユリウスの絶叫に嫌そうに顔を顰めた。
「そ、そんな事がある筈がない!! 国主の婚姻が周辺諸国に知らされていないなど……ましてや我が国の令嬢とだぞ!?」
「そ、そうだ!! 王太子である私が知らない筈無いだろう!! いい加減な事を言って騙そうなどと不敬だぞ!!」
「騙してもいませんし、いい加減な事を言った訳でもないのですが。……まあ、普通は信じられないでしょうね」
軽く肩を竦め、呟く様に答えるヘンリックは、嘘を言っているようには見えない。それでもエーベルハルトは信じられなかった。ほんの二週間前まで自分の婚約者だった女性が、他国の国主に嫁いでいるなどと。
「始まりは五年前です。覚えていらっしゃいませんか? まだ皇太子だったエールデンのリュシオン陛下が、国王陛下の在位十周年記念式典の来賓として招かれていた事を」
ヘンリックにそう問われて、エーベルハルトは頭の片隅から記憶を呼び起こす。確かに五年前の式典では王太子としてクラウディアとともに挨拶をした記憶がある。エーベルハルトより三歳年上である事を加味しても、あの時点の立ち振舞いは遥かにリュシオンの方が優れている様にみえて、悔しい思いをしたのを覚えている。
「驚いた事に、式典が終わった翌日、リュシオン陛下が何の前触れもなく我が公爵家へ訪ねて来られました。そこで彼は姉へ求婚したのです。一目惚れをしたのだ、そう言って」
「一目惚れだと?」
「そうです。普通ならあり得ませんね。皇族が一目惚れで、しかも婚約者のいる相手に求婚するなど。無論リュシオン陛下も最初は思いを打ち明けるつもりなどなかった様ですが、国王陛下や父に姉の事を聞いたときどちらかが婚約の条件を漏らしたようなのですよ。リュシオン陛下は式典での貴方の様子から思ったのでしょう。おそらくエーベルハルト殿下はいつか姉との婚約を解消しようとするだろう、と」
確かに公式行事では王太子であるエーベルハルトは、必ず婚約者のクラウディアをエスコートしろと言われていたにも関わらず、一通り挨拶を終えると義務は果たしたとばかりに直ぐ様クラウディアを放置して友人と談笑していたのは皆知っている。だが、それを会ったばかりの他国の皇族に見透かされた事に羞恥を覚え、誤魔化すように声を張り上げた。
「だ、だとしてもだ! 婚約者の居る身でありながら求婚を受けたなど、不貞行為ではないか!」
「……その他人の話をきちんと聞かない、聞いてもすぐ忘れてしまう癖は早々に直した方が身のためですよ」
「なんだと!?」
「僕は姉がそこで求婚をされた、とは言いましたが、受けたとは一言も言っていませんが? 当然姉は断りましたよ。どんなにつれなくされても姉は貴方、エーベルハルト殿下の婚約者でしたから。当たり前でしょう?」
姉は貴方とは違うんですよ? そう言外に滲ませた表情のヘンリックに、エーベルハルトが言葉に詰まる。言い返したくても思い付かないからだ。
「求婚された。断った。普通はそこで終わりです。しかし、リュシオン陛下は余程姉を気に入ったのでしょう。姉が殿下と結婚式を挙げ、正式に王太子妃となるまでは諦めない、そう言われました。これからその日が来るまでは毎年姉の誕生日に結婚を申し込む、と」
あまりの衝撃からか、エーベルハルトら五人は口を開けたまま呆然としている。それを面白そうにヘンリックは見ていたが、やがて真っ先に我に返ったユリウスの絶叫に嫌そうに顔を顰めた。
「そ、そんな事がある筈がない!! 国主の婚姻が周辺諸国に知らされていないなど……ましてや我が国の令嬢とだぞ!?」
「そ、そうだ!! 王太子である私が知らない筈無いだろう!! いい加減な事を言って騙そうなどと不敬だぞ!!」
「騙してもいませんし、いい加減な事を言った訳でもないのですが。……まあ、普通は信じられないでしょうね」
軽く肩を竦め、呟く様に答えるヘンリックは、嘘を言っているようには見えない。それでもエーベルハルトは信じられなかった。ほんの二週間前まで自分の婚約者だった女性が、他国の国主に嫁いでいるなどと。
「始まりは五年前です。覚えていらっしゃいませんか? まだ皇太子だったエールデンのリュシオン陛下が、国王陛下の在位十周年記念式典の来賓として招かれていた事を」
ヘンリックにそう問われて、エーベルハルトは頭の片隅から記憶を呼び起こす。確かに五年前の式典では王太子としてクラウディアとともに挨拶をした記憶がある。エーベルハルトより三歳年上である事を加味しても、あの時点の立ち振舞いは遥かにリュシオンの方が優れている様にみえて、悔しい思いをしたのを覚えている。
「驚いた事に、式典が終わった翌日、リュシオン陛下が何の前触れもなく我が公爵家へ訪ねて来られました。そこで彼は姉へ求婚したのです。一目惚れをしたのだ、そう言って」
「一目惚れだと?」
「そうです。普通ならあり得ませんね。皇族が一目惚れで、しかも婚約者のいる相手に求婚するなど。無論リュシオン陛下も最初は思いを打ち明けるつもりなどなかった様ですが、国王陛下や父に姉の事を聞いたときどちらかが婚約の条件を漏らしたようなのですよ。リュシオン陛下は式典での貴方の様子から思ったのでしょう。おそらくエーベルハルト殿下はいつか姉との婚約を解消しようとするだろう、と」
確かに公式行事では王太子であるエーベルハルトは、必ず婚約者のクラウディアをエスコートしろと言われていたにも関わらず、一通り挨拶を終えると義務は果たしたとばかりに直ぐ様クラウディアを放置して友人と談笑していたのは皆知っている。だが、それを会ったばかりの他国の皇族に見透かされた事に羞恥を覚え、誤魔化すように声を張り上げた。
「だ、だとしてもだ! 婚約者の居る身でありながら求婚を受けたなど、不貞行為ではないか!」
「……その他人の話をきちんと聞かない、聞いてもすぐ忘れてしまう癖は早々に直した方が身のためですよ」
「なんだと!?」
「僕は姉がそこで求婚をされた、とは言いましたが、受けたとは一言も言っていませんが? 当然姉は断りましたよ。どんなにつれなくされても姉は貴方、エーベルハルト殿下の婚約者でしたから。当たり前でしょう?」
姉は貴方とは違うんですよ? そう言外に滲ませた表情のヘンリックに、エーベルハルトが言葉に詰まる。言い返したくても思い付かないからだ。
「求婚された。断った。普通はそこで終わりです。しかし、リュシオン陛下は余程姉を気に入ったのでしょう。姉が殿下と結婚式を挙げ、正式に王太子妃となるまでは諦めない、そう言われました。これからその日が来るまでは毎年姉の誕生日に結婚を申し込む、と」
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