とある婚約破棄の顛末

瀬織董李

文字の大きさ
11 / 24

出会いは五年前です

しおりを挟む
「………………は?」

 あまりの衝撃からか、エーベルハルトら五人は口を開けたまま呆然としている。それを面白そうにヘンリックは見ていたが、やがて真っ先に我に返ったユリウスの絶叫に嫌そうに顔を顰めた。

「そ、そんな事がある筈がない!! 国主の婚姻が周辺諸国に知らされていないなど……ましてや我が国の令嬢とだぞ!?」

「そ、そうだ!! 王太子である私が知らない筈無いだろう!! いい加減な事を言って騙そうなどと不敬だぞ!!」

「騙してもいませんし、いい加減な事を言った訳でもないのですが。……まあ、普通は信じられないでしょうね」

 軽く肩を竦め、呟く様に答えるヘンリックは、嘘を言っているようには見えない。それでもエーベルハルトは信じられなかった。ほんの二週間前まで自分の婚約者だった女性が、他国の国主に嫁いでいるなどと。

「始まりは五年前です。覚えていらっしゃいませんか? まだ皇太子だったエールデンのリュシオン陛下が、国王陛下の在位十周年記念式典の来賓として招かれていた事を」

 ヘンリックにそう問われて、エーベルハルトは頭の片隅から記憶を呼び起こす。確かに五年前の式典では王太子としてクラウディアとともに挨拶をした記憶がある。エーベルハルトより三歳年上である事を加味しても、あの時点の立ち振舞いは遥かにリュシオンの方が優れている様にみえて、悔しい思いをしたのを覚えている。

「驚いた事に、式典が終わった翌日、リュシオン陛下が何の前触れもなく我が公爵家へ訪ねて来られました。そこで彼は姉へ求婚したのです。一目惚れをしたのだ、そう言って」

「一目惚れだと?」

「そうです。普通ならあり得ませんね。皇族が一目惚れで、しかも婚約者のいる相手に求婚するなど。無論リュシオン陛下も最初は思いを打ち明けるつもりなどなかった様ですが、国王陛下や父に姉の事を聞いたときどちらかが婚約の条件を漏らしたようなのですよ。リュシオン陛下は式典での貴方の様子から思ったのでしょう。おそらくエーベルハルト殿下はいつか姉との婚約を解消しようとするだろう、と」

 確かに公式行事では王太子であるエーベルハルトは、必ず婚約者のクラウディアをエスコートしろと言われていたにも関わらず、一通り挨拶を終えると義務は果たしたとばかりに直ぐ様クラウディアを放置して友人と談笑していたのは皆知っている。だが、それを会ったばかりの他国の皇族に見透かされた事に羞恥を覚え、誤魔化すように声を張り上げた。

「だ、だとしてもだ! 婚約者の居る身でありながら求婚を受けたなど、不貞行為ではないか!」

「……その他人の話をきちんと聞かない、聞いてもすぐ忘れてしまう癖は早々に直した方が身のためですよ」

「なんだと!?」

「僕は姉がそこで求婚をされた、とは言いましたが、受けたとは一言も言っていませんが? 当然姉は断りましたよ。どんなにつれなくされても姉は貴方、エーベルハルト殿下の婚約者でしたから。当たり前でしょう?」

 姉は貴方とは違うんですよ? そう言外に滲ませた表情のヘンリックに、エーベルハルトが言葉に詰まる。言い返したくても思い付かないからだ。

「求婚された。断った。普通はそこで終わりです。しかし、リュシオン陛下は余程姉を気に入ったのでしょう。姉が殿下と結婚式を挙げ、正式に王太子妃となるまでは諦めない、そう言われました。これからその日が来るまでは毎年姉の誕生日に結婚を申し込む、と」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

貴方に側室を決める権利はございません

章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。 思い付きによるショートショート。 国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。

断罪茶番で命拾いした王子

章槻雅希
ファンタジー
アルファーロ公爵嫡女エルネスタは卒業記念パーティで婚約者の第三王子パスクワルから婚約破棄された。そのことにエルネスタは安堵する。これでパスクワルの命は守られたと。 5年前、有り得ないほどの非常識さと無礼さで王命による婚約が決まった。それに両親祖父母をはじめとした一族は怒り狂った。父公爵は王命を受けるにあたってとんでもない条件を突きつけていた。『第三王子は婚姻後すぐに病に倒れ、数年後に病死するかもしれないが、それでも良いのなら』と。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

当然だったのかもしれない~問わず語り~

章槻雅希
ファンタジー
 学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。  そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇? 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。

kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。

婚約破棄の代償

ファンタジー
王太子妃の立場に向いていないと婚約破棄を告げるルフェーヴル・エリシア公爵令嬢。 婚約者であるオルフェリス・ルシアンはあっさりと承諾したが……。 ※複数のサイトに投稿しております。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...