とある婚約破棄の顛末

瀬織董李

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滔々と語ります

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「五年の間、時折届く手紙のやり取りを除けば二人の交流は姉の誕生日だけでした。どこかの誰かと違って公務でお忙しいリュシオン陛下でしたから、それでも精一杯だったのでしょうが、毎年姉の誕生日に贈り物をわざわざ持参してくださっていたのですよ。姉の好きなマムを花束にして差し出しながら跪き、求婚する様はまるで歌劇のようでしたね」

 クラウディアは婚約者の居る女性だ。あからさまに愛を囁けば拒否されるのは目に見えている。なにせ魔道研究の成果を王家が独占したいが為に婚約者となった身だ。他国の皇族相手に下手に交流を深めれば、国の監視が強まり手紙すら送れなくなってしまうだろう。

「ああ、『文のやりとりなど浮気ではないか!』などという低俗な事は言わないでくださいね。リュシオン陛下への手紙は、王宮にて監査の上で送っていましたし、無論姉への手紙も王宮経由で届いていました。書かれた内容に問題があったことは一度もありませんよ」

 機密保持の為という名目でクラウディアの書く手紙は厳しく検閲されていた。疑われるのは不本意なので、魔道研究に関わる文章は勿論、お互い好意を匂わせるような文章も書かれた事は無い。せいぜいが好きな食べ物や好きな花、日々に感じたこと、学園での行事ーーその程度だ。

 だが、エーベルハルトに素っ気なくされていたクラウディアにとっては、たとえその程度の内容でもささくれた心が癒される内容だった。婚約者がいる以上、他の男性と親しく話すことも無く、せいぜいが側近三人組とだ。彼らはエーベルハルトにならってクラウディアを見下していた。クラウディアが公爵令嬢であるにも関わらずだ。

 婚約者と取り巻きに冷遇されている彼女に進んで近付く女性も、将来の王太子妃に便宜を図ってもらおうと思った親に言われて仕方なく、といった輩ばかりで、クラウディア個人に親しく付き合う友人は一人も居なかった。

 そんな中で貰う手紙から感じられるリュシオンの人柄に次第にクラウディアは惹かれていった。なおざりにされているにも拘わらず、婚約者の学園におけるサポートと、王太子妃となるための教育に忙しいクラウディアの心の支えにいつしかなると同時に、エーベルハルトへの親愛が消え失せていった。もしエーベルハルトが婚約解消に向けて動くのなら、即時に受け入れようと思うくらいには。

「ちなみに贈り物も毎年エールデンの書籍で、アクセサリーやドレスを贈られた事は一度もありません。誰か達と違って・・・・・・・ね。ああ、当家への来訪理由は友人となった僕との交流でしたから、非公式ではありますが密入国ではありませんので。最大の目的が姉への求婚でしたが、僕との交流も嘘ではありませんし。僕は友人というより将来の義弟扱いでしたけどね。そうそう、リュシオン陛下が姉に求婚している、というのを隠していた事に対して罰を与えるのでしたらご自由に。皆、姉の現状を踏まえ、罰を覚悟でリュシオン陛下を迎え入れていましたので」

「……そこまでなのか……」

「そこまでですよ。十年間の殿下の姉に対する態度には公爵家の皆が怒りを覚えていましたから。……殿下は退学直前に学園に通っていた頃の姉のスケジュールを御存知ですか? 朝は授業開始一時間前には登校し、授業には参加せず昼休みが終るまで生徒会室で執務、午後の授業が始まった頃王宮へ向かう馬車の中で軽食を取り、到着後は夜まで王太子妃としての教育、休日であれば朝から一日中です。終えて家に着く頃には夕食の時間などとうに過ぎているので一人で食事。三ヶ月の間ずっとです。一体そこの男爵令嬢とやらに危害を加える暇がいつあったのかこちらが教えていただきたいくらいですね。なにせ少しでも空き時間があれば、魔道具の製作かリュシオン陛下に頂いた本を読んでいたものですから。……あれ? 可笑しいなあ?一体婚約者との交流は何時あったんでしょうね?」
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