とある婚約破棄の顛末

瀬織董李

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行きたくないけど来た

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ちょっと遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
年末年始は仕事(飲食店)で大忙しで書く暇が取れず間が空いてしまいました。
もうすこし話は続きますので、よろしかったらお付き合いくださいませ。


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 堅牢でありつつも細やかな意匠に彩られ、見るものに畏敬を抱かせる宮殿を馬車の小窓から眺めつつ、エーベルハルトは小さく溜め息を吐いた。そんな彼を見て対面に座る少年が小馬鹿にしたような顔で鼻を鳴らす。

「……なんだ。なにが言いたい」

「いいえ、なにも? 随分と感傷的だな、と思っただけです」

 エーベルハルトがクラウディアに婚約破棄を告げてから一年が経った。数日後、ここエールデンで皇帝リュシオンの結婚式が行われる。

『本当はお前の国なんか招待なんてしたくないけど、愛する妻の祖国だから仕方なく呼んでやるから来い』といういう意味合いが実に貴族的に書かれた結婚式の招待状が皇帝より直々に送られて来た。行きたくはなくとも父王に行けと言われれば行かざるを得ない。

 辛うじてエーベルハルトは廃嫡を逃れた。とはいえ単に現王の子息がエーベルハルトのみであった事が理由に過ぎない。誰もが納得出来る成果を残した訳はなかったのだから。側近三人は廃嫡され、それぞれ家は次男や長女が婿をとって跡を継ぐ事になった。故にエーベルハルトの側近からは外され、代わりの者を何人か宛がわれた。目の前に居る少年がそのうちの一人だ。

 クラウディアが去ってから、学園でのエーベルハルトの存在価値は底辺すれすれであった。エーベルハルト達が知らなかっただけで、クラウディアの魔道の才は学園で有名であり、畏敬の念を抱かれていたからだ。そのクラウディアを捨てて選んだのがあのラウラだ。エーベルハルトの対しての評価が落ちても仕方ないだろう。

 その為卒業を控え次期生徒会役員を選定し引き継がなければならない時期になっても、誰も引き受ける者が居なかった。彼らと僅かな関わりをもつ事すら嫌がられたのだ。エーベルハルトが王太子であるにも関わらずだ。仕方なく教師に頼み込んで紹介してもらい、渋々ではあったが引き受けてくれたのが彼、クルトだ。とある伯爵家の四男なので通常であれば王太子の側近になどなれる身分では無いが、在学中から既に優秀な文官になれるだろうと言われる程の成績だった事から、将来の宰相候補として教師のお墨付きで推薦されたのだ。普通に平文官志望だったので、本人にとっては不本意だった様だが。

「そろそろ本来であれば精霊祭の準備で忙しいっていうのに、こんなところにまで付き合わされた僕の方が溜め息を吐きたいくらいなんですけどね」

 毎年冬に行われる精霊祭は学園で行われる行事の中では大きい物だ。比較的冬が厳しい国々の、冬の精霊を祭る事で早く機嫌良く去ってもらおうという意味合いの祭で、楽しい事が好きだと言われている精霊の為に芝居をしたり、灯りをともしたランタンを手に歌いながら学園内を練り歩いたりと色々行われるので、スケジュールや人員を組むのはセンスと労力のいる仕事であった。
 クルトはエーベルハルトから生徒会長の座を引き継いでいる為、陣頭指揮を取る事になっていたのだが、側近としてエールデンへ同行しなければならなくなった為に、他の役員に任せなければならなかったのだ。一年とはいえ年下なのが辛いところだ。

 そういえば去年はどうしていたか、とふとエーベルハルトは振り返り色々と思い出してげんなりした。去年の精霊祭は、何故かラウラがやたらと張り切りエーベルハルトが止めるのも聞かず同調したユリウスと派手にいろいろとやらかした為、後で苦情の処理が大変だったからだ。ユリウスの低空飛行だった評価が完全に地に落ちたのはあの時だろう。

「ま、来てしまった以上ぐだぐだいっても仕方ありません。終わり次第直ぐにでも帰りたいところですが……。殿下が出席されるのは、結婚式と翌日の夜会でよろしかったですか?」

「ああ、そうだ」

「でしたら僕は夜会は出席しますので、それまでは王都であちこち視察に行ってきます。その間殿下はテキトーにお好きに過ごしててください。どうせ僕では支度の手伝いはできませんし」

「なっ!? それは……っ!?」

 式は三日後。それまで何も予定の無いエーベルハルトは、何をしていればいいのかわからなかったが、クルトが何かスケジュールを入れているのだろうと勝手に思っていた為その言葉に焦るが、当のクルトはそ知らぬ顔だ。

「いやぁ。まさか皇妃殿下が僕の事を覚えているとは思いませんでした。なにせ学年が違いますしね」

「……どういう事だ?」

「今回エーベルハルト殿下に同行する者の中に僕が居ると知って、皇妃殿下より直接手紙をいただいたのですよ。視察や交流会の参加許可を。生徒会の運営の事は心配ですが、魔道研究の最先端と言われるエールデンで色々と視察出来るなら何をおいても優先すべきでしょう! あ、別に付いてきたいというなら止めませんけど?」

「そ、そんな事はない! ……クソっ」

「下品ですよ殿下」

 部下が行く所へおまけの様に付いていったところで何も出来ない。本当に国の体面だけの為にここまで来させられたのだと改めて思い知らされ、思わず悪態をつくエーベルハルトだった。
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