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彼女の事情そのいち
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少し間が開いてしまいました。完結はさせるつもりですので、もう少しだけお付き合い下さい。
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「わたくし、皇妃殿下に頼まれたからこそこの場におりますの。 お話がそれだけでしたら下がらせていただきますわ」
「えっ。お、お待ちください!」
彼女らの年齢であれば、普通こういった場には夫や婚約者を伴って参加するものだが、エスコートが父や兄であれば行き遅れと喧伝しているようなものだ。見世物にも晒し者にもなりたくはない。
イライラした目つきの悪い令嬢が帰ろうとするのを、クルトが慌てて引き止める 。
「あら。お互い嫌々なのはおわかりなのでは? このままお話したところで進展などございませんわ。わたくしには構わず、そちらのお二方とお話下さい。ごめんあそばせ」
「あ……」
そう言って目付きの悪い令嬢は立ち去った。
「あのぉ、じゃあぁ、わたしもぉ、行っていいですよねぇ? ねぇ?」
「え、あ」
すると今度はぼんやりとした表情の令嬢までのんびりと、しかし許可を求める体であるにも拘わらず有無を言わさぬ視線で離席を求めるではないか。
「でわぁ、失礼しまぁすぅ」
焦るクルトに構わず許可を出す前に、義理は果たしたとばかりに、こちらの令嬢も口調とは裏腹に足早に立ち去った。残ったのはやり取りを面白そうに見ていた令嬢だけ。
「ふふふ。皇妃殿下とエーベルハルト殿下には申し訳ありませんが、彼女達では無理ですわね。王妃の座になんて欠片も興味ありませんもの」
「……どういうことだ?」
残った令嬢ーー侯爵令嬢のアンネリーセは閉じた扇を口に当てながらにこりと微笑むと、消えた令嬢達の方へ、チラリと視線を向けた。
アンネリーセ曰く、最初の目付きの悪い令嬢はクラウディアが嫁いでくるまでは、皇妃最有力だったらしい。家柄も貴族令嬢としての力量も申し分なく、もしあと一年皇帝が独身のままであったら、おそらく彼女が皇妃になっていたと思われた。
しかし、実は彼女は密かに思いを交わす相手が居た。とある男爵家の次男という地位的には冴えないが、才気ある若者だという。だがどんなに才があろうと愛があろうと、皇妃の座を狙う侯爵が認めるも筈もない。それでも障害があるほど愛は燃え上がるというもの。時折隠れて逢い引きを繰り返していた様だ。
そんな時侯爵令嬢は、皇帝が隣国の令嬢を皇妃に迎えるべく連れ帰ったと聞いた。このままクラウディアが皇妃となれば、皇妃候補として売れ残っていた自分は、父に安売りされ何処かへ嫁がされるだろう。そうなる前にと彼女は最後の賭けに出た。皇帝に直談判したのだ。自分を側妃にして欲しいと。
単純に地位が欲しかった訳ではない。男爵令息と添い遂げられる下地が欲しかったのだ。この国では上位貴族が側妃を娶るのはさほど珍しい事ではない。一旦側妃として皇宮に上がり、そこで暮らす間に男爵令息には功をたててもらい伯爵くらいに昇爵すれば、報奨として側妃を下賜となってもおかしくない。皇帝の命であれば侯爵文句は言うまい。もしその案を認めていただけるのなら、皇宮での皇妃を全力でもってサポートする。そう提案したのだが。
結果から言うとリュシオンはこの令嬢の案を飲んだ。彼女の父はエールデンでもそこそこの実権を持っている。いくら皇帝の力が大きかろうと一人で国を治めることは不可能だ。ましてクラウディアが皇妃として立つ為に、自分の力が及ばない範囲ーー女性同士のアレコレをまとめてくれるなら、と思ったからだった。
しかし、だ。現在も彼女は侯爵令嬢のままだ。何故ならリュシオンがクラウディアに側妃の話を言い出せぬまま忘れてしまったからだった。なにせクラウディア以外の妻を娶る話をするのだ。クラウディアを溺愛しているリュシオンは、きちんと筋立てして話をしなければ、クラウディアがショックを受けて実家に帰ってしまうのではないか、と恐れたのだ。大国の皇帝にあるまじきヘタレ振りだ。
「いつになったら側妃として迎えてくれるのかと待っていたのに、やっと皇妃殿下から話が来たと思えば、まさかの隣国の王太子との見合いですもの。苛々もしますわよね」
正直アンネリーセは、あの侯爵令嬢の考えは甘過ぎる、と、思っていた。なにせ男爵令息が昇爵出来ると考えていたからだ。エールデンでは先代皇帝の時代から小競り合い程度の紛争はあれど功を立てられそうな戦争は起きていない。どれだけ才気があろうと、戦争以外で昇爵出来る程の功を立てるのは難しいのだ。
そもそもが、側妃として皇宮に上がったにも拘わらずいつまでも皇帝の手がつかない状態でいることが続けば肩身の狭い思いをするというのに。
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「わたくし、皇妃殿下に頼まれたからこそこの場におりますの。 お話がそれだけでしたら下がらせていただきますわ」
「えっ。お、お待ちください!」
彼女らの年齢であれば、普通こういった場には夫や婚約者を伴って参加するものだが、エスコートが父や兄であれば行き遅れと喧伝しているようなものだ。見世物にも晒し者にもなりたくはない。
イライラした目つきの悪い令嬢が帰ろうとするのを、クルトが慌てて引き止める 。
「あら。お互い嫌々なのはおわかりなのでは? このままお話したところで進展などございませんわ。わたくしには構わず、そちらのお二方とお話下さい。ごめんあそばせ」
「あ……」
そう言って目付きの悪い令嬢は立ち去った。
「あのぉ、じゃあぁ、わたしもぉ、行っていいですよねぇ? ねぇ?」
「え、あ」
すると今度はぼんやりとした表情の令嬢までのんびりと、しかし許可を求める体であるにも拘わらず有無を言わさぬ視線で離席を求めるではないか。
「でわぁ、失礼しまぁすぅ」
焦るクルトに構わず許可を出す前に、義理は果たしたとばかりに、こちらの令嬢も口調とは裏腹に足早に立ち去った。残ったのはやり取りを面白そうに見ていた令嬢だけ。
「ふふふ。皇妃殿下とエーベルハルト殿下には申し訳ありませんが、彼女達では無理ですわね。王妃の座になんて欠片も興味ありませんもの」
「……どういうことだ?」
残った令嬢ーー侯爵令嬢のアンネリーセは閉じた扇を口に当てながらにこりと微笑むと、消えた令嬢達の方へ、チラリと視線を向けた。
アンネリーセ曰く、最初の目付きの悪い令嬢はクラウディアが嫁いでくるまでは、皇妃最有力だったらしい。家柄も貴族令嬢としての力量も申し分なく、もしあと一年皇帝が独身のままであったら、おそらく彼女が皇妃になっていたと思われた。
しかし、実は彼女は密かに思いを交わす相手が居た。とある男爵家の次男という地位的には冴えないが、才気ある若者だという。だがどんなに才があろうと愛があろうと、皇妃の座を狙う侯爵が認めるも筈もない。それでも障害があるほど愛は燃え上がるというもの。時折隠れて逢い引きを繰り返していた様だ。
そんな時侯爵令嬢は、皇帝が隣国の令嬢を皇妃に迎えるべく連れ帰ったと聞いた。このままクラウディアが皇妃となれば、皇妃候補として売れ残っていた自分は、父に安売りされ何処かへ嫁がされるだろう。そうなる前にと彼女は最後の賭けに出た。皇帝に直談判したのだ。自分を側妃にして欲しいと。
単純に地位が欲しかった訳ではない。男爵令息と添い遂げられる下地が欲しかったのだ。この国では上位貴族が側妃を娶るのはさほど珍しい事ではない。一旦側妃として皇宮に上がり、そこで暮らす間に男爵令息には功をたててもらい伯爵くらいに昇爵すれば、報奨として側妃を下賜となってもおかしくない。皇帝の命であれば侯爵文句は言うまい。もしその案を認めていただけるのなら、皇宮での皇妃を全力でもってサポートする。そう提案したのだが。
結果から言うとリュシオンはこの令嬢の案を飲んだ。彼女の父はエールデンでもそこそこの実権を持っている。いくら皇帝の力が大きかろうと一人で国を治めることは不可能だ。ましてクラウディアが皇妃として立つ為に、自分の力が及ばない範囲ーー女性同士のアレコレをまとめてくれるなら、と思ったからだった。
しかし、だ。現在も彼女は侯爵令嬢のままだ。何故ならリュシオンがクラウディアに側妃の話を言い出せぬまま忘れてしまったからだった。なにせクラウディア以外の妻を娶る話をするのだ。クラウディアを溺愛しているリュシオンは、きちんと筋立てして話をしなければ、クラウディアがショックを受けて実家に帰ってしまうのではないか、と恐れたのだ。大国の皇帝にあるまじきヘタレ振りだ。
「いつになったら側妃として迎えてくれるのかと待っていたのに、やっと皇妃殿下から話が来たと思えば、まさかの隣国の王太子との見合いですもの。苛々もしますわよね」
正直アンネリーセは、あの侯爵令嬢の考えは甘過ぎる、と、思っていた。なにせ男爵令息が昇爵出来ると考えていたからだ。エールデンでは先代皇帝の時代から小競り合い程度の紛争はあれど功を立てられそうな戦争は起きていない。どれだけ才気があろうと、戦争以外で昇爵出来る程の功を立てるのは難しいのだ。
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