とある婚約破棄の顛末

瀬織董李

文字の大きさ
23 / 24

彼女の事情そのいち

しおりを挟む
少し間が開いてしまいました。完結はさせるつもりですので、もう少しだけお付き合い下さい。

---------------------------------




「わたくし、皇妃殿下に頼まれたからこそこの場におりますの。 お話がそれだけでしたら下がらせていただきますわ」

「えっ。お、お待ちください!」

 彼女らの年齢であれば、普通こういった場には夫や婚約者を伴って参加するものだが、エスコートが父や兄であれば行き遅れと喧伝しているようなものだ。見世物にも晒し者にもなりたくはない。

 イライラした目つきの悪い令嬢が帰ろうとするのを、クルトが慌てて引き止める 。

「あら。お互い嫌々なのはおわかりなのでは? このままお話したところで進展などございませんわ。わたくしには構わず、そちらのお二方とお話下さい。ごめんあそばせ」

「あ……」

 そう言って目付きの悪い令嬢は立ち去った。

「あのぉ、じゃあぁ、わたしもぉ、行っていいですよねぇ? ねぇ?」

「え、あ」

 すると今度はぼんやりとした表情の令嬢までのんびりと、しかし許可を求める体であるにも拘わらず有無を言わさぬ視線で離席を求めるではないか。

「でわぁ、失礼しまぁすぅ」

 焦るクルトに構わず許可を出す前に、義理は果たしたとばかりに、こちらの令嬢も口調とは裏腹に足早に立ち去った。残ったのはやり取りを面白そうに見ていた令嬢だけ。

「ふふふ。皇妃殿下とエーベルハルト殿下には申し訳ありませんが、彼女達では無理ですわね。王妃の座になんて欠片も興味ありませんもの」

「……どういうことだ?」

 残った令嬢ーー侯爵令嬢のアンネリーセは閉じた扇を口に当てながらにこりと微笑むと、消えた令嬢達の方へ、チラリと視線を向けた。

 アンネリーセ曰く、最初の目付きの悪い令嬢はクラウディアが嫁いでくるまでは、皇妃最有力だったらしい。家柄も貴族令嬢としての力量も申し分なく、もしあと一年皇帝が独身のままであったら、おそらく彼女が皇妃になっていたと思われた。

 しかし、実は彼女は密かに思いを交わす相手が居た。とある男爵家の次男という地位的には冴えないが、才気ある若者だという。だがどんなに才があろうと愛があろうと、皇妃の座を狙う侯爵が認めるも筈もない。それでも障害があるほど愛は燃え上がるというもの。時折隠れて逢い引きを繰り返していた様だ。

 そんな時侯爵令嬢は、皇帝が隣国の令嬢を皇妃に迎えるべく連れ帰ったと聞いた。このままクラウディアが皇妃となれば、皇妃候補として売れ残っていた自分は、父に安売りされ何処かへ嫁がされるだろう。そうなる前にと彼女は最後の賭けに出た。皇帝に直談判したのだ。自分を側妃にして欲しいと。

 単純に地位が欲しかった訳ではない。男爵令息と添い遂げられる下地が欲しかったのだ。この国では上位貴族が側妃を娶るのはさほど珍しい事ではない。一旦側妃として皇宮に上がり、そこで暮らす間に男爵令息には功をたててもらい伯爵くらいに昇爵すれば、報奨として側妃を下賜となってもおかしくない。皇帝の命であれば侯爵文句は言うまい。もしその案を認めていただけるのなら、皇宮での皇妃を全力でもってサポートする。そう提案したのだが。

 結果から言うとリュシオンはこの令嬢の案を飲んだ。彼女の父はエールデンでもそこそこの実権を持っている。いくら皇帝の力が大きかろうと一人で国を治めることは不可能だ。ましてクラウディアが皇妃として立つ為に、自分の力が及ばない範囲ーー女性同士のアレコレをまとめてくれるなら、と思ったからだった。

 しかし、だ。現在も彼女は侯爵令嬢のままだ。何故ならリュシオンがクラウディアに側妃の話を言い出せぬまま忘れてしまったからだった。なにせクラウディア以外の妻を娶る話をするのだ。クラウディアを溺愛しているリュシオンは、きちんと筋立てして話をしなければ、クラウディアがショックを受けて実家に帰ってしまうのではないか、と恐れたのだ。大国の皇帝にあるまじきヘタレ振りだ。

「いつになったら側妃として迎えてくれるのかと待っていたのに、やっと皇妃殿下から話が来たと思えば、まさかの隣国の王太子との見合いですもの。苛々もしますわよね」

 正直アンネリーセは、あの侯爵令嬢の考えは甘過ぎる、と、思っていた。なにせ男爵令息が昇爵出来ると考えていたからだ。エールデンでは先代皇帝の時代から小競り合い程度の紛争はあれど功を立てられそうな戦争は起きていない。どれだけ才気があろうと、戦争以外で昇爵出来る程の功を立てるのは難しいのだ。

 そもそもが、側妃として皇宮に上がったにも拘わらずいつまでも皇帝の手がつかない状態でいることが続けば肩身の狭い思いをするというのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。

kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

お后たちの宮廷革命

章槻雅希
ファンタジー
今は亡き前皇帝・現皇帝、そして現皇太子。 帝国では3代続けて夜会での婚約破棄劇場が開催された。 勿論、ピンク頭(物理的にも中身的にも)の毒婦とそれに誑かされた盆暗男たちによる、冤罪の断罪茶番劇はすぐに破綻する。 そして、3代続いた茶番劇に憂いを抱いた帝国上層部は思い切った政策転換を行なうことを決めたのだ。 盆暗男にゃ任せておけねぇ! 先代皇帝・現皇帝・現皇太子の代わりに政務に携わる皇太后・皇后・皇太子妃候補はついに宮廷革命に乗り出したのである。 勢いで書いたので、設定にも全体的にも甘いところがかなりあります。歴史や政治を調べてもいません。真面目に書こうとすれば色々ツッコミどころは満載だと思いますので、軽い気持ちでお読みください。 完結予約投稿済み、全8話。毎日2回更新。 小説家になろう・pixivにも投稿。

あなたを愛する心は珠の中

れもんぴーる
恋愛
侯爵令嬢のアリエルは仲の良い婚約者セドリックと、両親と幸せに暮らしていたが、父の事故死をきっかけに次々と不幸に見舞われる。 母は行方不明、侯爵家は叔父が継承し、セドリックまで留学生と仲良くし、学院の中でも四面楚歌。 アリエルの味方は侍従兼護衛のクロウだけになってしまった。 傷ついた心を癒すために、神秘の国ドラゴナ神国に行くが、そこでアリエルはシャルルという王族に出会い、衝撃の事実を知る。 ドラゴナ神国王家の一族と判明したアリエルだったが、ある事件がきっかけでアリエルのセドリックを想う気持ちは、珠の中に封じ込められた。 記憶を失ったアリエルに縋りつくセドリックだが、アリエルは婚約解消を望む。 アリエルを襲った様々な不幸は偶然なのか?アリエルを大切に思うシャルルとクロウが動き出す。 アリエルは珠に封じられた恋心を忘れたまま新しい恋に向かうのか。それとも恋心を取り戻すのか。 *なろう様、カクヨム様にも投稿を予定しております

真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手

ラララキヲ
ファンタジー
 卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。  反論する婚約者の侯爵令嬢。  そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。 そこへ……… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。 ◇なろうにも上げてます。

婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました

天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」  婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。  婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。  私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。  もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。

処理中です...