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2.なんで今頃?

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 母さんが元々働きに出ないといけなかったのは、男爵が後妻に迎えた女がとんでもない浪費家で、家を傾けた為だったらしい。男爵は後妻に頭が上がらず、前妻の娘であった母さんは追い出されるように奉公に出ていたのだそうだ。うーん、母さんには女難の相でもあったのかな。多分返事は勝手にその後妻が出したんだろう。母さんは帰るところを無くしてしまった。

 そんな中、行くところがないならうちで働けばいいよと言ってくれたのがこの宿の女将さんだった。女将さんも丁度二人目の子供を産んだばかりで、母さんが子供産んだら一緒に面倒見てあげるからキリキリ働きな! と冗談めかして母さんを励ましたそうだ。

 ここは王都から三つくらい離れた街にある女将さんの亡くなったご両親が始めた宿で、女将さんの旦那さん……親父さんは冒険者ギルドの受付をしていて昼間は居ない。従業員は子守兼で働いていた通いのマーサねえさん一人だけだったから、繁盛期は隅まで手が回らない事も度々あったようで、泊まっている間に母さんの為人をみて働いてもらっても大丈夫だろうと判断したのだろう。客商売なのに客の荷物に手を出すような人間は雇えないからね。

 ここで私は産まれた。母さん女将さんマーサねえさんの三人に面倒見てもらいながら育った。マーサねえさんが結婚して出ていき、 悲しいことに二年前母さんが感冒を拗らせ呆気なく死んでしまったけれど、女将さんの息子二人と一緒に宿の仕事を手伝いながら今に至るという訳だ。父親の事が気にならなかった事も無いけど、礼儀作法に厳しかった母さんの様子から、もしかして父親も貴族のなのかなあと、それなのに母一人下町で働くなんて訳アリなんだろうなあ、と空気を読んで詳しく聞いたことは無かった。伯爵様の庶子だとは思わなかったけど。

 そして、私が十三歳になった今何故父親が迎えに来たのかというと、正妻が居なくなったからだそうだ。子供の前だからとぼかして話してくれたけど、まあぶっちゃけ不貞を理由に離縁したからの様だ。

 後から詳しく聞いた話によると、正妻は娘と息子の二人を儲けたので義務は果たしたと若い愛人を囲っていたんだそうだ。格上が実家だし自分も不貞を犯してるせいで父親は何も言えなかったらしいのだが、ある時正妻の一番のお気に入りになった愛人が、なんととある公爵令嬢の婚約者だったとかで、婚約破棄騒動に巻き込まれ余波でガッツリ慰謝料を請求されたのだそうだ。

 格上の公爵家に睨まれたら敵わんと、不承不承の体裁内心は狂喜乱舞で離縁し、実家に追い返したそうだ。ただ、恐ろしいのが一緒に娘も追い出されたらしい事だ。なんと母親と一緒になって愛人と淫らな関係になってたらしい。マジで倫理観どうなってんの? 貴族ではよくある事なの? と聞いたら凄まじい勢いで否定されたから、単に母娘が貞淑じゃ無かっただけの様だ。
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