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第1章

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「学校はどうだ?」
 リビングのソファーに座ってる輝にくっついてる沙樹に、そう聞いた輝。輝の方を見ないで「ん……」と気のない返事を返す。
「また友達作らないのか」
 今までの沙樹をよく知ってる輝は、呆れた顔をしている。兄としてとても心配している輝。もちろん、上のふたりの兄たちも心配している。
「あ、母さん」
 輝は沙樹こら離れて何かを渡しに行く。
「これ、柊兄さんに渡して」
 今度子供が産まれる柊のところにお祝い金を渡す。
「まだ渡さない方がいいんだろうけど、次いつ来れるか分からないから先に渡しておく」
「分かったわ。産まれたら渡しておく」
 母親はそれを戸棚にしまう。

「あ。今度ライブ終わったら、またタカが別荘行こうって言ってんだけど、沙樹連れていっていい?」
 母親にそう言うと黙って頷く。
 そうでもしないと沙樹は出掛けることはしない。
「沙樹。ライブ来る?」
「ん……。でも、行ったらバレない?」
「妹ってこと?大丈夫だよ。一般席だし」
 妹がいることを公表していれば、VIP席にするんだろうけど、沙樹の存在を隠しているからそうもいかない。
「一緒に行く友達いる?」
「友達いないもん」
「本当にひとりもいねぇのかよ」
「みんな変に噂してるから。関わりたくない」
 呆れてため息を吐く。
「考えすぎだよ」
 ポンと頭に手を乗せる。
「ならお母さんと行こうか」
 話を聞いていた母親が顔を出す。
「沙樹ちゃんひとりで行かせるわけにいかないし。お母さんの顔はバレてないでしょ」
「着物で来る気かよ。着物で来たら俺の母親だってバレそうだ」
「お母さんだって洋服くらいあるわよ」
 ここの母親は常に着物を着ている。呉服屋を営んでいるからかもしれないが。
 息子の輝でさえ、洋服を着ている姿は数えるくらいしか見たことないくらいだった。
「ライブ来るならチケット用意しておくから」
 沙樹にそう言うと笑った。



    ◇◇◇◇◇



 ライブ当日。
 高幡の母に連れられてライブ会場にいた沙樹。回りにはメンバーのコスプレした人たちや、派手な格好をした人たちがたくさんいた。
 中にはごく普通におしゃれをして来た人たちもいる。
 BRのファンは本当に様々な格好で会いに来ているのだ。
「初めてだわ。ライブに来るの」
 母親はそう言うと沙樹の隣を歩いた。

 会場入りすると、熱気は更に上がる。
 沙樹たちの席は2階席の真ん中。もっといい席を用意すると言われたが、目立つのも……と思って2階席にしてもらったのだ。
 隣にいる母親は、ステージ上にいる兄を心配そうに見つめていた。
(やっぱり、自分の子供の方がいいよね)
 沙樹の中にはそういう思いが隠れている。感謝はしている。幼い頃に亡くなった実母のことなど、思い出すことはもうないくらいの長い時間、一緒に過ごしてきたのだ。
 本当の母親よりも本当の母親として育ててくれた。
(分かってるけど、時々さみしい……)
 本当は愛人の子供なんて、傍に置いておきたくなかっただろうにと、心の奥で考えていた。

 兄たちの音が、会場全体を包み込む。ステージ上にいる兄たちを見てると別人のようで不思議だ。
 メンバーのことはずっと昔から知ってる。輝がよく沙樹を遊びに連れていってくれた。その場には崇弘や真司、零士がいる。そしてここにはいない元メンバーの湊。湊は輝の小学校の時からの親友だった。今は大学病院で研修医をしている。
 そのメンバーでいつも遊んでいた。
 だからステージ上の顔とのギャップがありすぎて笑えてしまう。

「かっこいい……」
 思わずそう口に出していた。
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