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第1章
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夏休みに入り、沙樹は毎日のように出かけていた。こんなことは今までなかったことだった。由紀子はそんな沙樹の様子を嬉しく思った。
(やっと子供らしくなった)
出かけていく沙樹の後ろ姿を見てほほ笑む。そして奥の畳の部屋へと入る。朝から掃除をして仏壇ふたつをキレイにする。
「大きくなりましたよ」
沙樹の母親の仏壇に手を合わせると、由紀子は笑った。
由紀子は沙樹の母親の代わりに沙樹を立派に育ててやるという思いがあった。だけど周りから色々と言われる沙樹は子供らしく成長することはなく、同年代の友達はいなかった。いつも輝にくっ付いて歩いて輝の友達と遊んでることが多かった。そのメンバーがあのBRなのだから由紀子は不思議な感覚になっていた。
高校生になった沙樹を心配はする。だけど友達と遊びに行くことが出来るようになったことに嬉しくて、特別に誰と行くのかとは聞かなかった。
◇◇◇◇◇
「結子!」
待ち合わせ場所した場所は駅前のカフェ。この街でもおしゃれなカフェはある。都心に近い場所だからなのかもしれない。そのカフェには結子がいて、沙樹を待っていた。
周りから見たそのふたりが一緒にいるのは不思議な光景だろう。
「待った?」
「全然」
ニカッと笑う結子にほっとする。
席に座る沙樹を目で追った結子は、いつもの笑顔でいつものようにおしゃべりを始めた。
「今日は柳先輩に会えないよ~」
柳はサッカー部の練習の為、学校で走り回っているのだ。
「もうすぐ合宿だって」
「合宿ってどこ行くんだろうね」
「あーなんか海の方って言ってたよ」
残念そうな顔をしている結子は恋する乙女だった。そんな結子を見てじれったいと感じる。
(柳先輩も早く言えばいいのに)
沙樹はそう思うが、沙樹から結子になにか言うことはしない。
「沙樹。なんかあったでしょ」
結子は人のことになるとよく分かるらしく、沙樹が崇弘と何かあったと当ててしまうのだ。
「なんで分かるの?」
「そんな顔してれば分かるよ」
結子の顔を見てびっくりした沙樹は、ポツリポツリと話し出した。結子はそんな沙樹の話を相槌を打ちながら聞いていた。
結子と沙樹の関係は昔からそうしてきたように、自然だった。そのことに沙樹は気付いてもいなく、毎日、ドキドキしながら過ごしていた。些細なことでも結子は喜んでくれたし、怒ってもくれる。今も崇弘に対して怒ってる。
「なに、それっ!」
結子は崇弘が沙樹に取った行動に怒っていて、沙樹の為に色々と言ってる。
「私たちが気に入らないの!?」
「そんなことはないと思う……」
自信がないからか、だんだんと声が小さくなっていく。
「それは会ったことないからじゃない?」
沙樹の後ろから声がかかる。振り返ると凪がニコニコと立っていた。
「あ……、先輩。聞いてました?」
「うん」
ほんわかとした雰囲気の凪は、結子の隣に座った。
「誰だって知らない人のことは分からないでしょ。沙樹の彼もそうなんじゃない?会ったことない人に沙樹を取られた感覚なのよ、きっと」
オーダーを取りに来た店員にアイスティーを注文した凪は、沙樹を見て笑った。
(なに……?)
凪に見られ笑顔を向けられた沙樹は、その意味が分からなかった。
「彼はきっと独占欲が強いのね」
「独占欲……?」
「そう。いつも沙樹を傍に置いておきたい。誰にも触れさせたくない」
「そう……なのかな」
氷で薄まったオレンジジュースを見つめる沙樹は、崇弘の心が読み取れなかった。崇弘に独占欲があるとは思ってもいなく、寧ろ自分にはあると思っていたのだ。
「私たちが沙樹の彼に会って安心してもらうしかないかもね」
「あ──……」
それはどうやっても無理な話だ。結子たちを崇弘に会わせるのはリスクが大きい。しかも凪はBRのファンだ。そんな凪に兄はあのBRのAKIRAだと言ったらどんなに驚くか……。驚くどころじゃないだろう。
「私、会ってみたいな」
笑う凪に沙樹は困った。
「先輩~、沙樹は見せたくないんですよー」
横から結子が言った。話せない沙樹の代わりに結子が答えたのだ。会わせることは出来ないと。
「ま、いつかは会ってみたいね」
凪は沙樹に笑ってアイスティーをひとくち飲んだ。
(やっと子供らしくなった)
出かけていく沙樹の後ろ姿を見てほほ笑む。そして奥の畳の部屋へと入る。朝から掃除をして仏壇ふたつをキレイにする。
「大きくなりましたよ」
沙樹の母親の仏壇に手を合わせると、由紀子は笑った。
由紀子は沙樹の母親の代わりに沙樹を立派に育ててやるという思いがあった。だけど周りから色々と言われる沙樹は子供らしく成長することはなく、同年代の友達はいなかった。いつも輝にくっ付いて歩いて輝の友達と遊んでることが多かった。そのメンバーがあのBRなのだから由紀子は不思議な感覚になっていた。
高校生になった沙樹を心配はする。だけど友達と遊びに行くことが出来るようになったことに嬉しくて、特別に誰と行くのかとは聞かなかった。
◇◇◇◇◇
「結子!」
待ち合わせ場所した場所は駅前のカフェ。この街でもおしゃれなカフェはある。都心に近い場所だからなのかもしれない。そのカフェには結子がいて、沙樹を待っていた。
周りから見たそのふたりが一緒にいるのは不思議な光景だろう。
「待った?」
「全然」
ニカッと笑う結子にほっとする。
席に座る沙樹を目で追った結子は、いつもの笑顔でいつものようにおしゃべりを始めた。
「今日は柳先輩に会えないよ~」
柳はサッカー部の練習の為、学校で走り回っているのだ。
「もうすぐ合宿だって」
「合宿ってどこ行くんだろうね」
「あーなんか海の方って言ってたよ」
残念そうな顔をしている結子は恋する乙女だった。そんな結子を見てじれったいと感じる。
(柳先輩も早く言えばいいのに)
沙樹はそう思うが、沙樹から結子になにか言うことはしない。
「沙樹。なんかあったでしょ」
結子は人のことになるとよく分かるらしく、沙樹が崇弘と何かあったと当ててしまうのだ。
「なんで分かるの?」
「そんな顔してれば分かるよ」
結子の顔を見てびっくりした沙樹は、ポツリポツリと話し出した。結子はそんな沙樹の話を相槌を打ちながら聞いていた。
結子と沙樹の関係は昔からそうしてきたように、自然だった。そのことに沙樹は気付いてもいなく、毎日、ドキドキしながら過ごしていた。些細なことでも結子は喜んでくれたし、怒ってもくれる。今も崇弘に対して怒ってる。
「なに、それっ!」
結子は崇弘が沙樹に取った行動に怒っていて、沙樹の為に色々と言ってる。
「私たちが気に入らないの!?」
「そんなことはないと思う……」
自信がないからか、だんだんと声が小さくなっていく。
「それは会ったことないからじゃない?」
沙樹の後ろから声がかかる。振り返ると凪がニコニコと立っていた。
「あ……、先輩。聞いてました?」
「うん」
ほんわかとした雰囲気の凪は、結子の隣に座った。
「誰だって知らない人のことは分からないでしょ。沙樹の彼もそうなんじゃない?会ったことない人に沙樹を取られた感覚なのよ、きっと」
オーダーを取りに来た店員にアイスティーを注文した凪は、沙樹を見て笑った。
(なに……?)
凪に見られ笑顔を向けられた沙樹は、その意味が分からなかった。
「彼はきっと独占欲が強いのね」
「独占欲……?」
「そう。いつも沙樹を傍に置いておきたい。誰にも触れさせたくない」
「そう……なのかな」
氷で薄まったオレンジジュースを見つめる沙樹は、崇弘の心が読み取れなかった。崇弘に独占欲があるとは思ってもいなく、寧ろ自分にはあると思っていたのだ。
「私たちが沙樹の彼に会って安心してもらうしかないかもね」
「あ──……」
それはどうやっても無理な話だ。結子たちを崇弘に会わせるのはリスクが大きい。しかも凪はBRのファンだ。そんな凪に兄はあのBRのAKIRAだと言ったらどんなに驚くか……。驚くどころじゃないだろう。
「私、会ってみたいな」
笑う凪に沙樹は困った。
「先輩~、沙樹は見せたくないんですよー」
横から結子が言った。話せない沙樹の代わりに結子が答えたのだ。会わせることは出来ないと。
「ま、いつかは会ってみたいね」
凪は沙樹に笑ってアイスティーをひとくち飲んだ。
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