計画的ルームシェアの罠

高木凛

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計画的ルームシェアの始まり

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白い壁に日当たりの良いリビング、狭すぎず大きすぎないソファーに実家よりも大きい薄型テレビ。
今日からここが自分の家になる。といっても一人ではなく二人だけれど。

「一人暮らしって聞いてたけど、何か広くない?」
「まあ気持ちな。でも学生じゃなくて、自分で稼いでるし、学生のときはさすがにもっと狭かったよ」

家主は一ノ瀬いちのせりょう。バリバリ働いている社会人である。居候というか、ルームシェアをすることになったのが日向ひなたみなとだ。
涼と湊は家が隣同士という、超がつくほどベタな幼馴染。年上である涼が高校卒業、大学進学とともに実家を離れて一人暮らしを始め、社会人になってからも家を出たままだ。それから数年経って今度は湊が大学生になったが、わざわざお金を使うことはないとありがたく実家から大学に通っていた。
しかし、高齢となった祖父母のため、両親は祖父母の住む田舎に行くことになり、湊自身はこれを機に一人暮らしを始めるかと思われた。そこに現れたのがこの幼馴染、一ノ瀬涼だった。部屋が余っているし、大学へも通いやすい。どの道そこから就職するにしても、就活するなら都心に近い方が便利だろう、と。
両親から引越しの話を聞いて「一人暮らしの準備かぁ……」と湊が考えていたら、既に涼から「いつからでも来て大丈夫」と話が進んでいると知らされた。どういうわけか、幼馴染の涼と湊より両親と涼の方が連絡を取り合っているらしい。湊本人が知らない間にトントン拍子で話が決まっていた。
迷惑じゃないかと聞けば、両親も懸念があったらしいが最終的には一人暮らしをさせるより、見知った保護者代わりになる大人と一緒の方が安心だとなったようだ。昔から涼への信頼度が高いことを考えればそうなのだろうが、大学生ともなればすっかり成人もしている。一人暮らし出来ると言い張るも、結局お金のことや勉強との両立を考えるとルームシェアでお世話になる方が良いという結論に至った。
湊自身、涼のところで住むのはどうかと最後まで悩んだ。学生の身分であれこれわがままを言える立場ではないし、生活のためにバイトばかりで勉強が疎かになっては意味がないというところを言われてしまうと頷かざるを得なかった。今でも他に方法はなかったのかと考えもする。でも両親と涼を前に、湊に勝ち目はなかった。
そして今日、ついに涼の家にやってきたのだった。

「それじゃあ今日から改めてよろしくな? お前の本分は勉強だから、他のことはあんま無理すんなよ」
「……わかってるって」
「もし気になるならできることはやってくれればいいし。家事とかさ」

涼はそういうが、なんとなく部屋は片付いていて、気をつけなければ湊が部屋を荒らしそうなものである。物自体も少なくて、整っている。少なくとも湊が知っている男友達の家でこんなにきれいな部屋に住んでいるのは見たことがない。学生と社会人の違いもあるかもしれないが。

(……ほんと、そういうとこがムカつく)

爽やかで自然な笑顔を浮かべながら余裕そうに言う涼に、湊は心の中で悪態をついた。涼のことだから両親を丸め込み、湊の経済状況や将来を「正論」という名の盾でこうなるように仕向けたのだろうと湊は考えていた。けれど逆らえるはずもなかった。まさに完敗。悔しさが募り、密かに毒づいている。そうと分かっていて、湊がこの理不尽なまでの「罠」に最終的に身を投じたのは、親に言われたからだけではない。
(絶対にしてやられたって思わせてやるんだから)
湊はずっと、涼のことが好きだった。何でもできてしまう完璧な幼馴染にムカついて、嫉妬して、でも一方で誰よりも憧れて、焦がれて、振り回されてきた。湊の目からみて、涼は湊のことを少し年の離れた、誂いがいのある弟としかみていない。自分ばかりが焦がれ、求めてしまう。涼が自分を、欲望ままに求めたらいいのに。そのために、涼との同居は逆転のチャンスでもあった。

「涼兄をびっくりさせるから」
「ふーん? じゃあ期待してるよ、湊」

頭を撫でようと伸ばされた手を、湊はひらりとかわす。予想外の動きだったのか、涼は一瞬止まったようにも見えたが、すぐさまにやりと笑った。

(見てろ。あんたが『弟』として可愛がっていられるのも、今のうちなんだからな!)

今日から始まるのは、ただの居候生活じゃない。一ノ瀬涼という難攻不落の城を、内側からじわじわと攻め落とす戦いだ。


鼻息荒く自室へと荷物を運び込む湊の背中を、涼がどんな瞳で見つめていたか。
「期待してるよ」と呟いたその声が、驚くほど低く、ひどく熱を孕んでいたことに、今の湊はまだ気づく由もなかった。
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