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第六章 真相

【五十六】最愛(佐助)

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ここに立ち寄るのは、弥助と弥生を連れてきた時が最後か。暁国に現れたという、才蔵と城主の正体を確かめる為、足を運んだ洞窟。きっと現れたのが本物の才蔵であるのならば、絶対にここに隠れているという自信があった。

『おや?幽霊でも見たような顔をして、どうしたのじゃ?佐助よ。この通り、手も足もある故怖がる必要はないぞ?』

「はは、三日月は持っておらぬ様だが、確かにお主は才蔵のようだな。面と向かって会うのは二人を連れてきたあの時以来か。お互い歳をとったものだ。」

洞窟の中に入らせないように陣取り世間話を始めた才蔵だが、その表情には余裕がないように見受けられる。

『なに、三日月は若い世代に受け継いだだけ。晩年のじじいが持っておくには勿体ない代物じゃしな。それよりも、こんな所に何をしにきたのじゃ?もう、子を育てろと言われても老耄には無理じゃぞ?』

「相変わらずよく喋る奴だな、思い出話をしに来たわけではないことはお主も分かっておるはず。早速ではあるが、城主とやらに会わせてもらおうか?」

城主と言う言葉を聞き、目の色が変わった才蔵。

『お主の中にはまだ、母親の亡霊が住み着いておるようだな…ワシがあの時引き止めて入ればこんな事にはならなかったかもしれぬと思うと悔やんでも悔やみきれぬ…。話し合いで解決するのは諦めるとするが、この洞窟にお主が入れるのはワシが死んだ時。お主の闇はワシが責任をもって受け止め葬り去ってやる!』

身構えた才蔵を見て、もしも小太郎の所へ一緒に弟子入りしていたのなら、拙者の未来は今とは違うものになっていたのか?才蔵と同じように、仲間に囲まれて部下から慕われる人生を送っていたのか?別の道を歩み出してから幾度となく頭を過ぎった考えが思いだされる。

しかしあの日、母上を殺めた時から拙者の人生は茨の道のみを歩むことに決まっていた。幸せを掴もうとした時に決まって現れる母上の亡霊は息子だけが幸せになろうとする事を徹底的に邪魔してきた。弥助と弥生の母親の事もそうだ…こんな呪われた自分を無条件に愛し大切に思ってくれていたというのに…才蔵に会ったことであの女の顔が脳裏に過ぎった。

我が生涯で唯一愛した女…
それは才蔵の実の姉だった。

その事を才蔵はきっと知らない…
才蔵の姉上は、才蔵より早くに家を出てとある集落で暮らしていた。始めたばかりの請負任務が上手くいかず、道端で倒れ野垂れ死にそうになっていた所に現れた美しくそして気の強いおなご。

『貴方、忍びでしょ?こんな所で寝転ぶなんて狙ってくれと言ってるようなものね。情けない。私の弟も同じくらいの歳だから少し気になったのよね。忍びの世界で弱いのは罪でしかないの、悔しかったら誰よりも強くなりなさい。』

これが死にかけている人間に放つ言葉なのか?水を差し出しながら言われた突然の強い言葉に怒りを覚え、朦朧としていた意識は冴え渡り起き上がることができた。

『なんだ、起きれるんじゃないの、汚い所だけど私の家に泊まっていきなさい。』

それが、お量との出会いだった。
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