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最終章 決戦

【六十四】失念(弥助)

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『弥助、一体どうしたのじゃ!!』

憔悴しきったお華と千鶴を連れて、城跡を守っていた小太郎殿の元へと戻った。

「小太郎殿、敵は半分程は殲滅して参りましたが少し状況が変わったのです…お千代殿が殺されました…それを悟った二人がこの状態で…」

『な、なに?お千代殿が……』

暫し言葉を無くしてしまった小太郎殿…
しかし、こうしている間にも安倍晴明は此方へと近づいてきている…とにかく立て直して迎え撃たなくてはヤツの思うつぼ…

「とにかく、二人を才蔵師匠の元へ連れて行き弥生を呼びます。」

『…弥助殿、私は大丈夫です…。お千代様の仇を取らなければ死んでも死にきれませぬ…』

『…私もだ、お主らの足を引っ張るつもりはない。私達はお千代様の意志を受け継ぐくノ一としての誇りがあるからな。』

お千代殿の変わり果てた亡骸を囲むように抱きしめた二人は、自らを奮い立たせるように声をあげた。城を奪われた俺達と、主人を奪われた二人。想いは同じところにある。彼女達の意志を尊重しなければいけないと思った。

『よし!とにかく、ヤツを倒す!話はそれからということじゃな!弥助よ?終わったら酒をたんまりと飲ませるのじゃよ?』

小太郎殿の、場を和ませる一言に小さな笑いが起こる。そうだ、とにかく終わらせよう!五人で城壁の上に並び安倍晴明の動向に目を光らせる。遠くの方から聞こえていた馬の蹄の音が徐々に近づいてきた。

「きたな、奴は式神を使い場を混乱させてくる故、皆の者気を引き締めていこうではないか!行くぞ、左京!!」

小太郎殿達に城跡での守りを再びお願いし、左京と共に城跡へと続く門の前で待ち構える。先程とは違い、式神を出すことも攻撃を仕掛けて来る事も無く残った兵を引き連れ、落ち着いた様子で到着した安倍晴明の一軍に嫌な予感がした。

『おやおや、また貴殿達ですか。先程は兵を減らされて少し焦りましたが、まぁ想定の範囲内です。それよりも…せっかく見逃して差し上げたというのに、どうやら貴殿達は頭が足りないみたいですね?左京、貴殿は何か大事な事を忘れているようだ。』

はっとした表情を浮かべ左京が走り出す。
しかし、走り出すよりも先に安倍晴明は何やら呪文を唱えながら式神を放った。その刹那、左京の動きは止まり”や、やめろやめろーーー”という苦しそうな声を上げながらその場にバタンと倒れてしまった。

「さ、左京…?」

『ははははは、残念でしたね弥助…確か佐助の息子でしたか?左京はもう、貴殿と共に戦ってくれる事はないでしょう。さて、左京を相手にしながらこの忍び達をどこまで相手に出来ますかね?私が手をくだすまでもない。貴殿を殺めた後に残るのは老耄た老兵と女だけ。ようやくこの国が私の手に入るのです。』

しまった…長らく姫様と行動を共にしておったことで抑えられていた左京の中のもう一人の人格が呼び起こされてしまった…初めて右京と戦った時は奴も姫様を抱えておった故、全力ではなかったはず。俺に左京を抑えることができるのか?まだ倒れているうちに、少しでも敵の数を減らしておかなければ勝ち目はない。

「笑止、俺もなめられたものだな。猿飛と霧隠の血を引く最強の剣を止められるものなら止めてみろ!いくぞ、三日月!!」

刀を抜き攻撃を仕掛けに行くと、安倍晴明を護るように構えていた忍び達が一斉に飛びかかってきた。減らしたとは言え流石にこの数を一人で相手にするのは難しいがやるしかない!晴明が放ってきた式神を葬りつつ、護衛の忍びを少しずつ片付けていく。

『ふはははは、何やら楽しそうなことをしている奴がおるの?ワシも混ぜてくれぬか?』

剣を抜く声が聞こえ、此方へと全速力で走ってくる左京、いや右京の姿があった。右京は俺に斬りかかってくると思い身構えていたが、何故か今まで俺が倒していた敵の方へと行き、容赦なく切りつけている。何が起こったのだ?

『う、右京よ、何をしているのですか?貴殿の敵はそこの弥助のみ。ここにいる奴らと力を合わせて倒しなさい!』

右京の突然の行動に、流石の安倍晴明も慌てた様子で声を荒らげていた。

『はぁ?我は我のやりたいようにやる。我が戦いたいのはその弥助とやらのみ。邪魔をするやつがいなければ二人でゆっくり戦いを楽しめる故、雑魚共には死んでもらっておるだけだ。邪魔立てするようであれば、お前も切り捨てるぞ?』

よくわからないが、こちらにとっては好都合。暴走した右京のお陰で護衛は残すところ十名を切っていた。
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