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第一章 バネッサ・リッシュモンは、婚約破棄に怒り怯える悪役令嬢である
第二十一話 従者達、将来を案じる
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――いや、殿下。結婚式の件、どうやって伝えるんすか??
これが手を取り合い、ソファで横並ぶバカップルを見た感想であった。
「………あの、マリーさん?」
従者は声を潜めて、正気でありそうな仲間に耳打ちする。
「………なんでしょうか」
優秀なメイドは意図を察して、声色を低くする。
「先にネタばらししちゃんですけど、うちの殿下、バネッサ様に伝えたいことがあって来たんですよ。謹慎中なのに、先走って」
「なるほど。冷静無比なあの方にしては、向こう見ずだと思っておりました」
「まじ、それな、なんですよね、それで話ってのが、………結婚式の段取りで………」
従者はもう単語を口に出すのもつらかった。
今初めて愛を告白した男が告げる内容じゃないからだ。
「けっこん、しき………、けっこんしき、ですか」
マリーも流石に言葉を詰まらせる。
何なら、彼女も「ついに………婚約破棄ですか………ないとはおもいますけど………」ぐらいには、主の進退を心配していたからだ。
「あの、………それは、マジ、なのですか?」
「真剣なんです、うちの殿下は真面目に突っ走っちゃっておられるところで………」
メイドも従者も疲れすぎて、口調が入れ替わる。
ソファから三歩退いたところで、暗雲が立ちこめていた。二人ともくたびれた気配をまとう。
それから、じとっとした目で敬愛すべき主達を見た。
「こうして、また殿下とお目にかかれて、バネッサは幸せなのです」
「僕も、気持ちは同じです。殿下として、気持ちを律していましたが、本当はすぐにでも会いに行きたかった」
「そんな風に思って頂けてたなんて………っ、わたくし、今なら幸せで死んでしまえそう………!」
「そんなこと言わないでください、君がいない世界でどう生きていけと言うんですか」
「はわ、はわッ、でんかが、殿下が、本物の殿下が、バネッサにあまーい囁きを、すきです、殿下、すきすき」
「甘いつもりはないのですが………、歯が浮くようなセリフは苦手です」
「これは、夢………? まぼろ………?」
通じ合っているようで、微妙にかみ合っていない会話を繰り広げている。
久しぶりの逢瀬で舞い上がっている、と結論づけられればよかった。
が、残念なことにこれが彼らの通常運転なのである。
むしろ、バネッサは殿下の愛を浴びて乙女モードであるし、殿下は積年の思いをぶっちゃけてハイになっている。
前者は目にハートが浮かんでいて話にならないし、後者は病みが見え隠れして怖い。
「この状況を打開できるのは、オレ達しかいないと思うんですよ」
「同意いたします、このような醜態、他には見せられません」
「っすから、マリーさんに、オレに協力してくれません?」
従者は、切れ目がちな金の目にしたたかさを光らせ、提案する。
メイドに向ける視線は張り詰めて、息が詰まりそうだ。
そんな男に対して、マリーは一言で答える。
「それが、お嬢様のためになるならば」
彼女もまた、口元に狡猾な笑みを浮かべて、迎え撃つのだ。
これが手を取り合い、ソファで横並ぶバカップルを見た感想であった。
「………あの、マリーさん?」
従者は声を潜めて、正気でありそうな仲間に耳打ちする。
「………なんでしょうか」
優秀なメイドは意図を察して、声色を低くする。
「先にネタばらししちゃんですけど、うちの殿下、バネッサ様に伝えたいことがあって来たんですよ。謹慎中なのに、先走って」
「なるほど。冷静無比なあの方にしては、向こう見ずだと思っておりました」
「まじ、それな、なんですよね、それで話ってのが、………結婚式の段取りで………」
従者はもう単語を口に出すのもつらかった。
今初めて愛を告白した男が告げる内容じゃないからだ。
「けっこん、しき………、けっこんしき、ですか」
マリーも流石に言葉を詰まらせる。
何なら、彼女も「ついに………婚約破棄ですか………ないとはおもいますけど………」ぐらいには、主の進退を心配していたからだ。
「あの、………それは、マジ、なのですか?」
「真剣なんです、うちの殿下は真面目に突っ走っちゃっておられるところで………」
メイドも従者も疲れすぎて、口調が入れ替わる。
ソファから三歩退いたところで、暗雲が立ちこめていた。二人ともくたびれた気配をまとう。
それから、じとっとした目で敬愛すべき主達を見た。
「こうして、また殿下とお目にかかれて、バネッサは幸せなのです」
「僕も、気持ちは同じです。殿下として、気持ちを律していましたが、本当はすぐにでも会いに行きたかった」
「そんな風に思って頂けてたなんて………っ、わたくし、今なら幸せで死んでしまえそう………!」
「そんなこと言わないでください、君がいない世界でどう生きていけと言うんですか」
「はわ、はわッ、でんかが、殿下が、本物の殿下が、バネッサにあまーい囁きを、すきです、殿下、すきすき」
「甘いつもりはないのですが………、歯が浮くようなセリフは苦手です」
「これは、夢………? まぼろ………?」
通じ合っているようで、微妙にかみ合っていない会話を繰り広げている。
久しぶりの逢瀬で舞い上がっている、と結論づけられればよかった。
が、残念なことにこれが彼らの通常運転なのである。
むしろ、バネッサは殿下の愛を浴びて乙女モードであるし、殿下は積年の思いをぶっちゃけてハイになっている。
前者は目にハートが浮かんでいて話にならないし、後者は病みが見え隠れして怖い。
「この状況を打開できるのは、オレ達しかいないと思うんですよ」
「同意いたします、このような醜態、他には見せられません」
「っすから、マリーさんに、オレに協力してくれません?」
従者は、切れ目がちな金の目にしたたかさを光らせ、提案する。
メイドに向ける視線は張り詰めて、息が詰まりそうだ。
そんな男に対して、マリーは一言で答える。
「それが、お嬢様のためになるならば」
彼女もまた、口元に狡猾な笑みを浮かべて、迎え撃つのだ。
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