ぽんこつ悪役令嬢な君が溺愛《す》き──腹黒殿下は愛が重いのに届かない──

久遠真己

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第一章 バネッサ・リッシュモンは、婚約破棄に怒り怯える悪役令嬢である

第二十二話 従者達、バカップル達を引き剥がす

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「とりま、あのお二人を引き剥がしましょ」

「かしこまりました。方法はいかがいたしましょうか」

「何でもいいっすよ。あの二人きり、らぶらぶムードに割って入る度胸と技量さえあれば」

「度胸なら持ち合わせております。あの悪役令嬢付きの第一メイドですので」

「すっごい納得したっす。殿下の方はお任せください」

「貴方でしたら、技量も持ち合わせていらっしゃいますもんね」


 従者達は意気投合して、互いに頷きあった。
 抜き足差し足で、それぞれの主に近寄る。


「殿下、ちょっといいですか?」

「バネッサ様、よろしいでしょうか?」


 腰を低くして問いかけるさまは従者の鑑だ。


「今はバネッサと話していて忙しいんですが」

「マリーは黙っておいてくださいませ」


 もっとも今の主達に言葉は届かないが。

 すげない態度に従者はイラッとした。端的に言えば、こんなに殿下のこと考えてるのに! とむかついたのだ。

 なので、後ろから殿下を引っ張った。手を繋ぎ合っていたので、その動きにバネッサもつられてしまう。


「お嬢様はこちらです」


 マリーが前に倒れそうだった彼女を支える。空気のように柔らかく抱き留めると、ソファの隅に押し込んだ。

「待ってください?! 今いいところなのですよ?!」

「はいはい、そうですね」


 メイドは世迷い言を適当に流して、二人を引き剥がした。


「いったい何のつもりですか」

「殿下の頭の中がハッピーハッピーになってるんで、釘を刺そうとしています」

「不名誉な言い草を止めてください、バネッサに愚かだと思われたくないんです」

「公爵令嬢には聞こえてませんよ、ほら」


 従者が振り返れば、バネッサはメイドに威嚇しているところだった。
 しゃーーーー!! と桜色の爪を立てているところは、猫のようだ。


「バネッサ、やはり愛らしい………」

 
 客観的に見たら問題行動である。にもかかわらず婚約者の痴態を見て、殿下は頬を緩めた。この男、すぐに本題を忘れる。


「あーーもうーー! 殿下、バネッサ様が関わると、ほんとにアホになりますよね!」

「一国の王子に告げる言葉ではありません、不敬が過ぎますよ」

「この際、不敬とか関係ないっす。殿下がバネッサ様に愛を伝えられたのは誰のおかげですか??」


 従者は語気を強める。ぐいっと声音に厳しさを乗せたのだ。


「それは………、………君のおかげです………」


 聡い殿下は夢が覚めたように、身体を小さくする。


「そうですよね。この忠臣が進言を行ったからですよね」

「感謝しても、感謝しきれません………」

「はい、お礼は後から頂戴します。それより、今俺が言いたいことがあります」


 殿下の顔に指を突き付け、堂々と宣言した。


「今日はこれで十分でしょ。あの件は内密にして、ひとまず帰りましょ!」
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