命の対価

桜庭 葉菜

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夏期講習 1

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 文化祭から3日。

 俺は今、その時と同じ教室で静かにペンを走らせている。

 あれから2日間は全員強制登校で、片付け作業に明け暮れた。

 それから休む暇なく3日目。

 今日からの1週間は夏期の数学講習だ。

 裕貴と雅也はこの講習を受けないと言っていたのでもちろんここにはいない。

 ここにいるのは同じ学年の、少なくとも1度は見た事のある顔ぶれ。

 それなのに2人がいないだけで何となく寂しい空間となっている。

「じゃあ今日はここまで。明日次のページの答え合わせからやるから、各自終わらせておくように」

 そう言って、不愛想な若い男の先生が教室を去る。

 教え方はすごくわかりやすいが、単調に喋る彼の声は昼過ぎのこの時間とは相性が悪い。

 先生が去り、柔らかくなった教室の空気の中で、俺は伸びをする。

 体をひねり、辺りを見回すと、約半分の生徒が眠気の限界で力尽きていた。

 ……俺もそのうち、そっち側に行ってしまうかもしれない。

「お疲れさま」

 まだ半分だらしない恰好をしている俺に声がかかる。

「あ、おつかれ」

 佐倉雛子さん。

 どうやら同じ講習を受けていたらしい。

 今の今まで全く気が付かなかった。

「文化祭、楽しかったね」

「そうだね」

 佐倉さんがさりげなく前の席に座り、こっちを向いた。

「あれからすぐに片付けで、それが終わったら夏期講習……この高校の夏休みってほんと、あっという間だよね」

「確かに、去年もこんな感じだった」

 次の講習に向かう人、抜けてきた部活に戻る人、帰宅する人。

 みんながそれぞれの動きをする中、次第にこの教室が俺たち2人だけになった。

「佐々木くんはこの後用事ないの?」

 佐倉さんの言葉で思い出す。

「あ、部活」

 朝からそのために学校へ来たのに、この1時間ですっかり忘れてしまった。

「そっか、サッカー部……だったよね? 大変なんだね」

「まぁ、楽しいけどね」

 雅也も裕貴もいるから、というのは心の中だけに留めた。

「じゃあ部活頑張ってね」

 佐倉さんが立ち上がり、荷物を手早くまとめて行ってしまった──と思ったらドアの外からひょっこりとこちらを覗いて。

「明日の講習も頑張ろうね」

 最後にそう一言。

 俺が何かを答える間もなく、佐倉さんの姿は見えなくなった。

 1人になってしまった教室。

 たった今職員室での操作によってクーラーが消されたせいか、俺の体はすっかり夏の暑さを取り戻していた。

 それから俺は炎天下の中での練習を何とかこなし、1日を終えた。

 それから次の日。

 相変わらずの天気の中、俺たちは朝から練習に励み、昼過ぎには再びあの教室で睡魔と戦った。

「はいじゃあ今日はここまで。終わらなかった人は明日までにやってくるように」

 先生のその一言が終わると教室の何ヶ所かから安堵のため息が聞こえる。

 ──今日も乗りきった。

 口には出さないが俺も例外ではなく、寝ないようにと使っていた全神経が一気に緩んだ。

「消しゴム、落としたよ」
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