12 / 47
夏期講習 1
しおりを挟む
文化祭から3日。
俺は今、その時と同じ教室で静かにペンを走らせている。
あれから2日間は全員強制登校で、片付け作業に明け暮れた。
それから休む暇なく3日目。
今日からの1週間は夏期の数学講習だ。
裕貴と雅也はこの講習を受けないと言っていたのでもちろんここにはいない。
ここにいるのは同じ学年の、少なくとも1度は見た事のある顔ぶれ。
それなのに2人がいないだけで何となく寂しい空間となっている。
「じゃあ今日はここまで。明日次のページの答え合わせからやるから、各自終わらせておくように」
そう言って、不愛想な若い男の先生が教室を去る。
教え方はすごくわかりやすいが、単調に喋る彼の声は昼過ぎのこの時間とは相性が悪い。
先生が去り、柔らかくなった教室の空気の中で、俺は伸びをする。
体をひねり、辺りを見回すと、約半分の生徒が眠気の限界で力尽きていた。
……俺もそのうち、そっち側に行ってしまうかもしれない。
「お疲れさま」
まだ半分だらしない恰好をしている俺に声がかかる。
「あ、おつかれ」
佐倉雛子さん。
どうやら同じ講習を受けていたらしい。
今の今まで全く気が付かなかった。
「文化祭、楽しかったね」
「そうだね」
佐倉さんがさりげなく前の席に座り、こっちを向いた。
「あれからすぐに片付けで、それが終わったら夏期講習……この高校の夏休みってほんと、あっという間だよね」
「確かに、去年もこんな感じだった」
次の講習に向かう人、抜けてきた部活に戻る人、帰宅する人。
みんながそれぞれの動きをする中、次第にこの教室が俺たち2人だけになった。
「佐々木くんはこの後用事ないの?」
佐倉さんの言葉で思い出す。
「あ、部活」
朝からそのために学校へ来たのに、この1時間ですっかり忘れてしまった。
「そっか、サッカー部……だったよね? 大変なんだね」
「まぁ、楽しいけどね」
雅也も裕貴もいるから、というのは心の中だけに留めた。
「じゃあ部活頑張ってね」
佐倉さんが立ち上がり、荷物を手早くまとめて行ってしまった──と思ったらドアの外からひょっこりとこちらを覗いて。
「明日の講習も頑張ろうね」
最後にそう一言。
俺が何かを答える間もなく、佐倉さんの姿は見えなくなった。
1人になってしまった教室。
たった今職員室での操作によってクーラーが消されたせいか、俺の体はすっかり夏の暑さを取り戻していた。
それから俺は炎天下の中での練習を何とかこなし、1日を終えた。
それから次の日。
相変わらずの天気の中、俺たちは朝から練習に励み、昼過ぎには再びあの教室で睡魔と戦った。
「はいじゃあ今日はここまで。終わらなかった人は明日までにやってくるように」
先生のその一言が終わると教室の何ヶ所かから安堵のため息が聞こえる。
──今日も乗りきった。
口には出さないが俺も例外ではなく、寝ないようにと使っていた全神経が一気に緩んだ。
「消しゴム、落としたよ」
俺は今、その時と同じ教室で静かにペンを走らせている。
あれから2日間は全員強制登校で、片付け作業に明け暮れた。
それから休む暇なく3日目。
今日からの1週間は夏期の数学講習だ。
裕貴と雅也はこの講習を受けないと言っていたのでもちろんここにはいない。
ここにいるのは同じ学年の、少なくとも1度は見た事のある顔ぶれ。
それなのに2人がいないだけで何となく寂しい空間となっている。
「じゃあ今日はここまで。明日次のページの答え合わせからやるから、各自終わらせておくように」
そう言って、不愛想な若い男の先生が教室を去る。
教え方はすごくわかりやすいが、単調に喋る彼の声は昼過ぎのこの時間とは相性が悪い。
先生が去り、柔らかくなった教室の空気の中で、俺は伸びをする。
体をひねり、辺りを見回すと、約半分の生徒が眠気の限界で力尽きていた。
……俺もそのうち、そっち側に行ってしまうかもしれない。
「お疲れさま」
まだ半分だらしない恰好をしている俺に声がかかる。
「あ、おつかれ」
佐倉雛子さん。
どうやら同じ講習を受けていたらしい。
今の今まで全く気が付かなかった。
「文化祭、楽しかったね」
「そうだね」
佐倉さんがさりげなく前の席に座り、こっちを向いた。
「あれからすぐに片付けで、それが終わったら夏期講習……この高校の夏休みってほんと、あっという間だよね」
「確かに、去年もこんな感じだった」
次の講習に向かう人、抜けてきた部活に戻る人、帰宅する人。
みんながそれぞれの動きをする中、次第にこの教室が俺たち2人だけになった。
「佐々木くんはこの後用事ないの?」
佐倉さんの言葉で思い出す。
「あ、部活」
朝からそのために学校へ来たのに、この1時間ですっかり忘れてしまった。
「そっか、サッカー部……だったよね? 大変なんだね」
「まぁ、楽しいけどね」
雅也も裕貴もいるから、というのは心の中だけに留めた。
「じゃあ部活頑張ってね」
佐倉さんが立ち上がり、荷物を手早くまとめて行ってしまった──と思ったらドアの外からひょっこりとこちらを覗いて。
「明日の講習も頑張ろうね」
最後にそう一言。
俺が何かを答える間もなく、佐倉さんの姿は見えなくなった。
1人になってしまった教室。
たった今職員室での操作によってクーラーが消されたせいか、俺の体はすっかり夏の暑さを取り戻していた。
それから俺は炎天下の中での練習を何とかこなし、1日を終えた。
それから次の日。
相変わらずの天気の中、俺たちは朝から練習に励み、昼過ぎには再びあの教室で睡魔と戦った。
「はいじゃあ今日はここまで。終わらなかった人は明日までにやってくるように」
先生のその一言が終わると教室の何ヶ所かから安堵のため息が聞こえる。
──今日も乗りきった。
口には出さないが俺も例外ではなく、寝ないようにと使っていた全神経が一気に緩んだ。
「消しゴム、落としたよ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
好きって伝えたかったんだ。
まいるん
恋愛
ごめんなさい。
あの時伝えてれば。素直になれていたら。
未来は変わったのだろうか。
ずっと後悔してる。
もしもう一度君に会えたら。
もしもう一度君と話せたら。
高校1年生のすいは、同い年で幼なじみの蓮のことが好きだけど、告白できずにいた。想いを伝えることはできるのか。2人は結ばれるのか。
幼なじみ同士の少し不思議で切ない物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる