15 / 47
水族館 2
しおりを挟む
もうすでに水族館にいるかのような構内を抜け、集合場所となっている噴水にたどり着くと、鈴木さんが先に待っていた。
まさかここにきて俺は遅刻してしまったのかと思いスマホを見ると、9時56分。
遅刻したわけではないが、なんだか微妙な気持ちだ。
画面に表示されている6が7に変わったタイミングで、俺はスマホをしまった。
その先で俺に気が付いた鈴木さんの顔がパッと明るくなったのが見えた。
「ごめん、遅くなって」
小走りで鈴木さんのもとに向かい、声をかける。
「いや、全然! 電車の乗り換えうまくいって、ほんの少し早く着いちゃっただけだよ」
そう言ってスカートを優しく翻し「行こう!」と先に歩き出す彼女。
「こと────」
一瞬吹き抜けた風の音にかき消されるほどの声。
自分の口から発せられたその音を思い出す。
──いや、俺気持ち悪すぎだろ。
何、考えてるんだ。
文化祭で出会っただけ。
周りの女子より、ほんの少し仲が良くなっただけ。
彼女とはただそれだけなのに、俺は鈴木さんの事を下の名前で呼ぼうとした、だなんて。
気持ち悪くなるほどの甘すぎるものを口の中に感じた。
その刹那、今朝の俺を睨みつける少女が頭をよぎった。
さっきまでの甘さと、今朝の何とも言えない苦さがゆっくりと交わってぐちゃぐちゃになっていく。
最近、本当にあの少女の夢を見ることが増えた。
「ねぇ、佐々木くん」
そう言ったのは鈴木さんでも少女でもなくて。
「佐倉、さん……?」
聞こえてくるのは間違いなく佐倉さんの声。
「ねぇ……こうちゃん」
なんで、佐倉さんがその呼び方を?
「佐々木くん?」
「……え」
目の前にいたのは鈴木さん。
じゃあ、さっきの声は?
どこまでが夢で、どこからが現実だ?
とにかく、鈴木さんがわざわざここまで戻ってきてくれているということは、俺は数秒動かなかったらしい。
「ごめん、ぼーっとしてた。行こう」
そう言って俺は先に歩き出し、夏のせいではない謎の汗を見せないようにした。
その時の俺は、後ろから感じる別の視線に気づいてはいたのだが、そこまで考える余裕は残っていなかった。
「ペンギンだー!」
鈴木さんが俺の隣ではしゃいでいる。
水槽のガラスにおでこがくっつきそうなほど顔を近づけ、これでもかと言うほどペンギンを見つめている。
その子供っぽい姿に俺の頬は緩んだ。
いつもは全然子供っぽさを感じなくて、かといって、大人っぽいわけではないが……なんというか、こういう一面もあるんだなという発見をした嬉しさもあった。
「あ、上行った! 見てみて!」
ペンギンから俺に目線を移した鈴木さん。
ペンギンではなく鈴木さんを見つめていた俺と、バッチリと目が合う。
「あ、えっと……」
俺は思いのほか平常運転で、むしろ取り乱したのは鈴木さんの方だった。
「どうしたの?」
小さな子供を見るように優しい笑顔を向けながら、声をかけた。
特に変なことをしたつもりはなかったのだが、俺を見ている鈴木さんの顔の赤みがみるみる増していく。
「つ、次いこう!」
「え、ペンギンはもういいの?」
俺の問いにはまともに答えてくれず、鈴木さんは先を歩き始めてしまった。
後姿から覗ける耳まで、ほんのり赤くなっていた理由を、俺が知ることはなかった。
まさかここにきて俺は遅刻してしまったのかと思いスマホを見ると、9時56分。
遅刻したわけではないが、なんだか微妙な気持ちだ。
画面に表示されている6が7に変わったタイミングで、俺はスマホをしまった。
その先で俺に気が付いた鈴木さんの顔がパッと明るくなったのが見えた。
「ごめん、遅くなって」
小走りで鈴木さんのもとに向かい、声をかける。
「いや、全然! 電車の乗り換えうまくいって、ほんの少し早く着いちゃっただけだよ」
そう言ってスカートを優しく翻し「行こう!」と先に歩き出す彼女。
「こと────」
一瞬吹き抜けた風の音にかき消されるほどの声。
自分の口から発せられたその音を思い出す。
──いや、俺気持ち悪すぎだろ。
何、考えてるんだ。
文化祭で出会っただけ。
周りの女子より、ほんの少し仲が良くなっただけ。
彼女とはただそれだけなのに、俺は鈴木さんの事を下の名前で呼ぼうとした、だなんて。
気持ち悪くなるほどの甘すぎるものを口の中に感じた。
その刹那、今朝の俺を睨みつける少女が頭をよぎった。
さっきまでの甘さと、今朝の何とも言えない苦さがゆっくりと交わってぐちゃぐちゃになっていく。
最近、本当にあの少女の夢を見ることが増えた。
「ねぇ、佐々木くん」
そう言ったのは鈴木さんでも少女でもなくて。
「佐倉、さん……?」
聞こえてくるのは間違いなく佐倉さんの声。
「ねぇ……こうちゃん」
なんで、佐倉さんがその呼び方を?
「佐々木くん?」
「……え」
目の前にいたのは鈴木さん。
じゃあ、さっきの声は?
どこまでが夢で、どこからが現実だ?
とにかく、鈴木さんがわざわざここまで戻ってきてくれているということは、俺は数秒動かなかったらしい。
「ごめん、ぼーっとしてた。行こう」
そう言って俺は先に歩き出し、夏のせいではない謎の汗を見せないようにした。
その時の俺は、後ろから感じる別の視線に気づいてはいたのだが、そこまで考える余裕は残っていなかった。
「ペンギンだー!」
鈴木さんが俺の隣ではしゃいでいる。
水槽のガラスにおでこがくっつきそうなほど顔を近づけ、これでもかと言うほどペンギンを見つめている。
その子供っぽい姿に俺の頬は緩んだ。
いつもは全然子供っぽさを感じなくて、かといって、大人っぽいわけではないが……なんというか、こういう一面もあるんだなという発見をした嬉しさもあった。
「あ、上行った! 見てみて!」
ペンギンから俺に目線を移した鈴木さん。
ペンギンではなく鈴木さんを見つめていた俺と、バッチリと目が合う。
「あ、えっと……」
俺は思いのほか平常運転で、むしろ取り乱したのは鈴木さんの方だった。
「どうしたの?」
小さな子供を見るように優しい笑顔を向けながら、声をかけた。
特に変なことをしたつもりはなかったのだが、俺を見ている鈴木さんの顔の赤みがみるみる増していく。
「つ、次いこう!」
「え、ペンギンはもういいの?」
俺の問いにはまともに答えてくれず、鈴木さんは先を歩き始めてしまった。
後姿から覗ける耳まで、ほんのり赤くなっていた理由を、俺が知ることはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
好きって伝えたかったんだ。
まいるん
恋愛
ごめんなさい。
あの時伝えてれば。素直になれていたら。
未来は変わったのだろうか。
ずっと後悔してる。
もしもう一度君に会えたら。
もしもう一度君と話せたら。
高校1年生のすいは、同い年で幼なじみの蓮のことが好きだけど、告白できずにいた。想いを伝えることはできるのか。2人は結ばれるのか。
幼なじみ同士の少し不思議で切ない物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる