命の対価

桜庭 葉菜

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告白 3

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 俺の言葉があんなに怒っていた裕貴の目を丸くさせた。

 こいつはこの一瞬で察したんだ。

 俺が泣かせたかった訳では無いこと。

 そして、もし自分が俺と同じ立場になったら何も出来ないと。

 だから俺のこともこれ以上責められなくなったんだ。

 自分で口に出しておきながら、卑怯な言葉だった気がする。

 でも、俺だって何も出来なかった。

「そんなことない」

「君は悪くない」

 簡単で何1つ響かないであろうそんな言葉なんて言えるはずなくて。

 佐倉さんはあの事故から今日まで、どんな気持ちで過ごしていたんだろう。

 俺に話しかける時、俺に笑顔を向ける時。

 一体、何を思っていたんだろう。

 あの涙は今までどれ程の辛さに耐えてきた末のものなのだろう。

 俺には何1つわからなかった。

「わりぃ……」

 裕貴の腕、表情、全てから力が抜け落ちた。

 こいつだって好きで俺の事を掴んだわけじゃない。

 なのに、

「俺も悪かった」

 その一言が音となることはなかった。

 色々な感情が頭の中でグチャグチャになり、それが喉元までいっぱいに押し下がっているみたいで。

 俺の声の通り道はそれによって完全に塞がれていた。

 再び口を噤んだ俺に、裕貴は再び怒ることなどなかった。

 そして来た時よりも重くゆったりとした足音を立て、目の前を去っていった。

 2度も1人取り残された教室。

 外に見えるやけに綺麗すぎる夕焼けと、もうすっかり蒸されきった居心地の悪いこの場所と。

 たった窓ひとつで区切られただけのまるで別の世界のようなこの風景が、俺をさらに苛立たせていった。
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