命の対価

桜庭 葉菜

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影 1

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「何も、来るわけないよな……」

 その日の夜、俺はスマホを見つめていた。

 鈴木さん……

 連絡なんて来るはずない。

 俺からなんて送ればいいのかも分からない。

「何のつもりだよ……」

 イラついた低い声をぶつける。

「いやぁ、大事な大事なキミが、何か悩み事かなぁとね」

 その相手はいつもの調子で、なんの前触れもなく後ろから現れた。

 こんな時までそんなヘラヘラとした態度を取られたら嫌でも当たりたくなる。

「ただ俺が悩んでても、いつもは来ないだろ?」

「……そうだねぇ」

 妙に歯切れが悪い。

 はぐらかされたり、上手いこと流されたりするのはいつもの事なのだが、なぜだか今日は違う。

 誤魔化すに誤魔化しきれないような……そんなものを感じる。

「お前は鈴木さんのことを知っている、そうだろ?」

「ボクはそんな女の子は知らないなぁ」

「誰も鈴木さんが女の子だとは言ってないけどな」

 今日の俺は冴えているらしい。

 俺は女の子のことは『さん』付けで呼ぶ。

 こいつももうそれは知っていると思うのだが、カマをかけるような言い方をされたことで思考が停止したのだろう。

 死神の奥の読めない不気味なほどの笑みを、俺が崩した。

 それだけで、少しは俺の怒りも収まった。

 と同時に、冷静さを取り戻す。

 これ以上死神を問い詰めるのはやめよう。

 またいい所ではぐらかされるのがオチだ。

 鈴木さんの事を、こいつは知っている。

 そして、この俺の悩みは恐らくこいつとの契約に関わるものなんだろう。

 これだけ収穫があれば十分だ。

 死神は何も言わず、気づいたら逃げるように消えていた。

 深く大きいため息をつく。

 こんなに立て続けに色々なことが起こり、それでもまた明日から変わらずに部活が始まる。

 俺はいつもより早い時間にベッドに入り、体を休めた。

 そしていつもと同じ時間に起き、今まで通り学校に向かう。

 休まり切っていない体を無理やりに動かし、変わらぬ練習をこなす。

 裕貴との関係も相変わらずだった。

 様々な雑念を考えないように、俺はいつも以上に集中して取り組んだ。

 そのせいか、今日の部活はなんだか早く感じられた。

「疲れた……」

 1人でボールを運びながら呟く。

 そのまま所定の場所まで運び終え、足を止める。

 まだ辺りが明るい中、ふと下を向いた俺は、自分の足元のものに驚愕した。

「え……」

 そこには夏とは思えないほど薄く、それでも確かに俺の形をした影があった。

「危ない!」
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