イルマの東へ

月河未羽

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第3章  旅の仲間

1. 山賊

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 アベルは身震いを感じて目を覚ました。毛布もかぶらずに眠ってしまい、髪はつゆで濡れ、体じゅうが冷たく湿っぽい。

 あたりには、まだ柔らかい早朝の光がうっすらと射している。今、何時頃だろう。

 ぼうっとした頭で首をめぐらしてみると、木が少ない場所にいる。視線の先の道というか、地面は切れていた。そこまで歩いて行ってみると、高いところにいることが分かった。ここは丘の上だ。

 太陽はまだ山脈の稜線りょうせんから低いところにある。東はあっちか。

 アベルが目覚めた空き地へ戻ると、リマールも起きていて地面に呆然ぼうぜんと座り込んでいた。

 二人は少しのあいだ、言葉もなく顔を見合った。互いに、昨日の出来事を考えていた。

 自分たちはある意味、冒険をしている・・・と思った。刺客しかくの目をかいくぐり、険しい道を突き進みながら目的地へたどり着き、使命を果たす。なんか・・・あらためて考えると、途方とほうもなく疲れるような話に思えた。精神的にも肉体的にも。

 深々とため息をついて気持ちを切り替えたリマールは、「とりあえず、朝ご飯を食べよう。昨日もぎ取った木の実を・・・」と言いながら荷物に手を伸ばした。
 そしてリュックの口を開けた瞬間、目をまたたいて歓声かんせいを響かせた。
やわらかいパンとチーズが入ってる!」

 それを聞いたアベルも飛びついて、リュックの中をのぞきこんだ。
 確かにある。美味しそうな丸いパンが四つと、チーズの塊が。
「奥さんが入れてくれたんだ。」

 二人はパンを二つ残して、チーズを半分こし、あとはむしゃむしゃと頬張ほおばった。

 そうして思いがけない嬉しい朝食を済ませた二人は、昨夜、無理に押し曲がってきた方へ向かい、森の道に戻った。

 今どこにいるのか分からず、とりあえずは東へ向かってその道を歩いていった。

 やっと立札たてふだを発見して、今日の目的地であるたきの場所(中途半端ちゅうとはんぱなツリーハウスのある所)を確認したあとは、わざと道をはずれて、何とか歩ける獣道けものみちのようなものを、森の道と平行して進んだ。途中、運よく水辺みずべに出たので、そこで飲み水を補給した。

 しばらくすると、やぶが減って歩きやすくなった。この辺りは細い木が多かったが、それでも、灌木かんぼくや丈の高い植物がしげっているのに比べれば視界は良くなり、木々の間から少し低い位置にある森の道も時々確認できた。ただ逆に言うと、自分たちの姿も見えるようになったということなので、歩くのが楽になった分、二人は気を引きしめた。

 そのおかげか、ある時、かすかな気配に気づくことができた。

 それはまさに、注意していなければ分からないような、密やかな物音だった。今、自分たちは道ではないところを歩いている。だから、いい方に考えれば、それは休憩をとろうと道を外れて休んでいるだけの通行人か、ただの木こり。だがこの時の二人は、待ち伏せられている・・・という強い予感を覚えた。何やらたくらんでいるような、ひそひそ話も聞き取れたからだ。それが、自分たちが動きを止めたと同時に、あわてて口を閉じた感じだった。とにかく嫌な予感しかしない。あの前方の木立こだちや茂みの陰、そこが怪しい・・・。

 もし刺客しかくなら、ここで逃げ出しても、逃げ切れる自信はなかった・・・が、悩んでいる間にやってみるしかないだろう。そんな会話をアベルとリマールは目で交わすと、リマールが左手を見た。
 そちらには岩場と茂みがあり、そこは光があまり射しておらず暗かった。上手くいけば姿をくらませるかもしれない。 
 了解というように、アベルもうなずいた。 

 そして一緒に背中を返した二人は、不意をつく動きとともに進路を変え、全速力で駆けだしたのである。

「ちくしょう!」
「気づかれた!」
「追え!」

 そんな怒鳴どなり声が聞こえて振り返ってみると、男が五人。今や怪しい気配は堂々と姿を現して、追いかけてきた。
 その姿は灰色と黒ではなかった。あれは刺客じゃない。 

 薄汚うすぎたない恰好の荒々しい男たち・・・山賊さんぞくだ。 

 刺客しかくじゃなくて良かった・・・って、いやいや、これはこれでいけない! 奴らは、おいはぎ。命を取られるのは二の次でも、身ぐるみ剥がされてしまう! 最悪、例の薬さえ奪われなければいいが、でも、やっぱりちょっと困る!

 そう思い、できる限りの抵抗はしようと、二人はとにかく脇目もふらずに突っ走った。

 するとそのうち、不意に薄暗い川沿いに出た。どこか近くから滝の轟音ごうおんが聞こえる。
 これはもしかすると、偶然ぐうぜん、目的地への近道を行っているのでは。アベルもリマールもそう思った。

 しかし、今はそれどころではない。まずはこの窮地きゅうちを切り抜けなければ。 

 行く方向には大きな岩がごろごろし、木の根がはびこっている。二人はその川沿いの道の無い岩場を、飛び跳ねながらひたすら逃げた。足元はすべりやすかったが、二人とも上手くバランスをとることができた。

 山の自然の中で暮らしていた二人にとっては、この足場の悪さはたいした問題ではなかった。それで二人は、後ろの野蛮やばんな男たちを振り切るために、わざとそんな場所を走っている。

 しかし、岩場からまた茂みの方へ曲がろうとしたところで、とうとう足の速い一人に行く手をはばまれてしまった。連中れんちゅうもさすがにけわしい足場にはそうとう慣れているらしい。

 もはやこれまでと立ち止った二人は、五人のならず者にあっという間に囲まれて、逃げ道を絶たれた。

 そこでアベルは、ハッと気づいた。慌てて手を動かし、外套がいとうをぎゅっと掻き寄せる。
 とっさにペンダントのくさりかくしたのだ。

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