イルマの東へ

月河未羽

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第3章  旅の仲間

2. 金目のものを

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 そこにいる全員、息があがっていた。

 アベルもリマールも、はあはあと呼吸を乱して前後左右と周りの男たちを見た。

 無精ぶしょうひげを生やした男、顔に大きな傷のある男、がっちりとして筋骨きんこつたくましい男、肌が黒くて背の低い男、足が速い男は一番若そうだった。たぶん30歳前後。みな型崩れのひどいシャツやズボンを着て、あぶらぎった顔はほこりや砂でくすんでいる。見るからに乱暴で下品そうなやからだったが、腰にある長剣や短剣などの武器だけは上等なものに見えた。盗んだやつかな。

「てこずらせやがって・・・。」
 足の速い若い男がジロッとにらみつけてきて、それからこんな質問をしてきた。
「で、なんでまた・・・道じゃないところを歩いてた?」

 いつもなら、普通に歩きやすい道を行く通行人を、横から突然現れて襲いかかる・・・というのが手口である一味いちみにとっては、わざわざ歩きにくいところからやってきた二人が理解できない様子。

「関係ない。」と、アベルはぼそっと答えた。

 それが一味の親分には聞こえた。無精ひげの男だ。男は、若いその子分が少し横へずれたところへ出て、二人の真正面に立った。

「ああ、そうだな。関係ない。どうでもいいことだ。俺たちは用が済んだら行く。」

 男は、ずいぶん落ち着いた声でそう言った。ひどい行いも冷徹れいてつに実行できそうな感じだった。それを目の前にしているアベルも、もちろん怖い気持ちはある・・・が、不思議なことに、このならず者たちが思ったほど恐ろしいものには見えなかった。もっと怖い集団に狙われているせいだろう。

 しかし相手は山賊さんぞく。本当ならホッとしていられるようなものではないし、現に、親分はやはり表情一つ変えずに要求してきた。

「それじゃあ、金目の物を全部出せ。」と。

 アベルは背中に弓と矢を、リマールは腰に短剣を備えている。しかし二人共、人を相手に戦ったことなどない。いざという時の覚悟はしているが、この場合は違う。この男達が欲しいのは命でも薬でもなく金になるもの。それなら手放しても何とかなる。もう、逆らわない方が賢明けんめいだ。

 男達の方でも二人の武器には何の恐れもせず、完全に見くびっていた。親分の合図で左右にいる子分が動き、アベルから弓矢を、そしてリマールからは短剣を取り上げ、気に入らないというように離れた場所へ放り投げた。

 アベルは弓がこわれないか心配で目で追ったが、密生みっせいしている植物がうまくクッションになってくれた。

「これでお前たちは完全に無力だ。さあ、さっさと出せ。」
 親分が無情な顔つきでさらにおどしかける。

 二人は顔を見合い、また目で話し合うと、がね全部を無抵抗むていこうのうちに差し出した。道中どうちゅうずっと野宿のじゅくして、食べるものを自然の中から探さないと・・・。

「よしよし。」

 親分も無精ひげにおおわれた口をにやりと動かし、右手を出した。その上に、二人の財布さいふが重ねて置かれた。ずし・・・っと重い。思わず戸惑とまどうほどの意外な手応てごたえだった。

「おお・・・これは。」

 何のかざり気もなく素朴そぼくそうな二人の少年をまじまじと眺めた親分は、それから先に一人で中身を確認して満足そうな笑みを浮かべ、色黒いろぐろ低身長ていしんちょうの子分にその財布をあずけた。

 中身が知りたくて仕方が無かったその子分も、早速さっそく 財布を開けたがむしろ絶句。
 同様にいやしく寄ってきた他の男たちは、とたんに目の色を変えた。

 二人のためにルファイアスが持ってきた路銀ろぎんは、金銭感覚がいくらかズレている者達が用意したもので、目を疑うような大金だ。それを二人は、この旅のために渡されたのだからと、全て所持していた。

 それを眺めて、山賊たちは口々に楽しそうな声を響かせている。

「驚いた。すげえ持ってるじゃねえか。」
「実は貴族の御曹司おんぞうしか?」

 この間、アベルはそわそわと落ち着かなかった。さあ、もういいだろ。早く消えてくれよ・・・と。そう祈りながら、さりげなく上着の首回りをさらにきつくした。そして、子分がみな財布に吸い寄せられて前へ移動したので、逃げるように自分から少し後ずさりした。

 ところが。

「ほら、ほかのも。」
 と、親分がとらえるような視線を向けてきた。

「え・・・。」
「全部って言ったろ。」 

 見られてた・・・!?
 アベルは冷や汗をかき、顔が青ざめる思いがした。

 それでも、「もう何もない。」と、とても小さな声で言い返した。

「何も・・・?装身具そうしんぐがあるだろう。」

 バレてる・・・ペンダントのことを言ってるんだ。アベルは、いよいよ心臓の音が分かるほどあせって悩んだが、こんな状況でもまだ手放す気にはなれなかった。

 でも・・・やっぱりこれを渡すわけには・・・きっと、僕が誰だか分からなくなってしまう。これは、信頼できる人の助けを借りるために必要なものなんだ。それに、そう王家の宝。

 アベルは、リマールに横目を向けた。
 リマールもまた、どうにもできずにただ見つめ返した。

「ああ、じれってえな。」
 親分がずいと身を乗り出し、軽く腕を伸ばしてきた。

さわるなっ。」
 それをとっさに払いけたアベルは、ムキになって大声で言った。
「もう渡せるものはない!」 
「やる気かっ。」
 今度はしっかりと腕を伸ばして、親分はアベルの上着を強く引っ張った。

 首回りがあらわになり、金色のくさりがはっきりと見えた。

「ほら、その首に掛けてる光ってるのを寄越よこせ。」

「止めろ、金はもうじゅうぶん渡しただろっ。」と、珍しくリマールもカッとなって、親分の太い毛むくじゃらの腕につかみかかる。 

 リマールのその手を、次はわきにいる傷の男が握りしめた。
「俺たちはこれで生きてんだ。取れるもんはしぼり取る。」
「間違ったことをえらそうに言うなっ。」と、リマール。 

 驚いたことに、リマールは言う時は言う。その意外ないさましさに、アベルはおびえながらも少し混乱した。親友から急にお兄さんのような存在に見えた。実際、歳は二つ上だ。だがそれに影響されて、アベル自身もかなり頑張って抵抗した。

 そうして、複数人のみ合いになった。山賊たちの手がアベルの服を引っ張り、ペンダントを無理やり奪おうとする。その手を振りもごうとアベルは激しく体を揺らし、リマールは、ならず者たちの汚い手をアベルから引き剥がそうとする。財布を受け取った男だけがその外にいた。盗品とうひんの担当者は今、両手がふさがっているらしい。

 そんな最中さなか筋骨隆々きんこつりゅうりゅうのたくましい男が、思い出したようにキラリと光るものを見せつけてきた。マヌケにも武器を持っていることをしばらく忘れていたようだ。親分以下、その一味全員が。

 アベルもリマールも、ぎょっとして固まった・・・そこへ。

「俺んの近所で何さわいでんだ。」

 やぶの向こうから、不機嫌ふきげんするどい声が聞こえた。

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