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第4章 旅の協力者
15. 月夜の祈り ― 最後の行程へ
しおりを挟む寝室の窓から、礼拝堂と思われる小さな建物が見えていた。
アリシア姫が退席してから、1時間以上はとっくに経っている。もうお祈りを終えただろうか。祭壇の前で膝をついて両手を組んでいる彼女の姿が、自然と目に浮かんだ。同時に、食堂で最後に見た城主の悲痛な顔を思い出した。
薬は必ず、何としても届けてみせる・・・アベルはよりいっそう強くそう胸に誓った。
そしてまた、窓の外に見えている礼拝堂を見つめる。
窓辺から離れたアベルは、廊下に出て、何となくそこへ向かっていた。
そして、何となく思いつきで行動してしまったので、誰にも断りを入れずに来てしまった。今、目の前には、白壁の礼拝堂が慎ましやかにたっている。その屋根の上には、白く輝く月がはっきりと浮かんでいる。「さあ、お祈りなさい。」というように、夜空から優しく見つめ下ろしてくる。
アベルは礼拝堂の前の段を上がって、扉に手をかけてみた。
鍵が開いている。勝手に中へ入ってみると、正面奥の祭壇の後ろは、縦長の窓になっていた。そこからまともに射し込む月明かりで、蝋燭が立っている燭台が三つ並んでいるのが見えた。
そのまま中央を歩いて祭壇へ向かい、三つとも蝋燭を点けた。
王アレンディルは、毎日自分のために祈ってくれたと聞いたアベル。今度は自分がお返しする番。
アベルは、祭壇から少し下がって両膝をついた。そしてゆっくりと目を閉じていき、心を込めて祈った。
兄王様の病気がすっかり治りますように・・・。
小鳥のさえずりが歌声のように響き渡る爽やかな朝。
アリシア姫や奥方と別れの挨拶を交わした一行は、城主エオリアスとアルヴェン騎士と一緒に、厩舎の方へ向かった。
まばらに草が生えている柔らかい土に覆われた庭には、厩舎から連れ出された三頭の馬がいた。
だけど・・・あれ・・・機嫌悪そうに、前脚を踏み鳴らして首を振り立てているのが一頭いる。かと思うと、馬丁が手綱を放せばスッと落ち着く。ナイフのように尖った馬だ、とアベルは思った。その毛の色は若干明るくも感じる黒で、部分的に褐色が見られる。普段は冷静で、戦う時には爆発的に荒々しくなる。そんなイメージをその馬に抱くと同時に、アベルは黒髪の剣士に目をやった。戦うところをまだ知らないから思うだけだけど・・・あの馬、誰かさんみたいだ。このまま、彼の戦う姿を見ることなく、王都へたどり着けますように。
そんなことを考え、祈っているアベルのそばでは、リマールもさすがに気になったようで、馬丁に話しかけていた。
「あの・・・おとなしいんじゃあ。」
「ああ、どうしても都合がつけられなくて。オリファトロスは気が荒いぶん身体能力が高く、なかなかの駿馬なんですけどね。二頭に分かれて乗りますか。」
「いいよ、俺が乗るから。」
言っている間に、レイサーは驚くほど身軽にその背にまたがると、手綱を締めてあっという間に御し、軽く走らせた。
パッカ、パカ・・・と、青鹿毛の駿馬はいきなり出来た主人に従い、軽快に馬場を駆け回っている。どうも認めた者しか乗せない馬を、華麗に乗りこなしている騎手は、神話に出て来る英雄のようだ。
レイサーは、ぽかんと口を開けて見つめてくる連れたちに馬を寄せた。
「何か言いたそうな顔だな。」
「だって、そこそこなんて腕じゃない。」と、アベル。
「以前は兄貴たちと一緒に騎士になる訓練を受けてたからな。ほら、ラキア。お前は俺の前に来い。」
「ええー・・・。」と不満そうに、ラキアはちらとアベルを一瞥した。
そのあと、アベルとリマールは、そこでレイサーとアルヴェンに乗馬の基本を教えてもらい、背の高いおとなしい馬をぐるぐると歩き回らせた。よく言うことを聞いてくれる従順な馬たちだった。どちらも毛の色は黒っぽい茶色だ。
目立たない色の馬ということも気にすると、中でも穏やかなのがこの二頭だけになり、レイサーの青鹿毛の馬は、体調が整っていて目立たず、今空いている・・・ということで選ばれたらしい。
ちなみ、アベルが乗ることになった馬はアズバロン。リマールの方は、アイオロスという名前だった。
召し使いが荷物を鞍につないでくれているあいだ、アベルとリマールはレイサーに言われて、より仲良くなろうと優しく馬首をなでた。本来、馬はとても警戒心が強くて、音に敏感な動物。ちゃんと姿が見えるように左側の目に近い位置に立ち、そうしながら穏やかに声をかけ続けてコミュニケーションをとった。
間もなく出発の準備が整った。
オリファトロスは、レイサーの言うことはよく聞いて、怖がるラキアを嫌がらずに乗せてくれた。それか、実は女好きのどちらか。
城主エオリアスは白馬に、アルヴェンも栗毛の馬に騎乗して、二人は見送るために大手門(正門)まで付き添ってくれた。
昨日、城主が帰城したあと上げられていた跳ね橋が下りていた。
長い石橋を渡りきって、城の方へ馬を回すと、城主とアルヴェンはまだ門の前にいる。高い塔の部屋の窓にも、アリシア姫と奥方が一緒になって手を振ってくれているのが見えた。
それに同じ仕草で応えた旅人たちは、フェルドーランの森の奥へと、常歩で馬を歩かせた。これから、いよいよ最後の行程に入る。
王都アンダレアは、この森を抜けた先にある。
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