イルマの東へ

月河未羽

文字の大きさ
49 / 70
第5章  試 練

2. とり憑かれたリマール

しおりを挟む



 レイサーは夜空を見上げた。黒い葉越しに見える月は、うっすらと霧がかってもやもやしている。連れはみな、すっかり眠り込んだようだった。気分が悪いと言っていたラキアも。

 レイサーは、ラキアのひたいにそっと手を当ててみた。特に熱いとは感じない。夕食はあまり食べれていなかったが、熱は出ないようだ。彼はそのまま、仲間たちの寝顔を眺めた。とはいえ、一寸いっすん先が分かる程度の暗がりでは、よく見ることはできないが。

 そうしてじっとしていると、姉アヴェレーゼに言われた言葉が思い出された。

〝何としても守ってあげたくなるでしょう。〟

 するとがらにもなく、気づけばしみじみと考えていた。
 今まで孤独でやってきた。護衛を務めたことだってある。だが、誰かを守るために戦う・・・思えば、こんな気持ちでは初めてだな。

 そして彼は、その時はきっと来ると思っていた。それも近いうちに。あと数日で王都までたどり着けるところまで来ている。関所で密偵に狙われたことで、奴らの組織は、自分たちが今この森にいることを分かってるはずだ。森は果てしなく思えるほど広大でも、目的地に近づけば行動範囲は否応いやおうなく限られてくる。明日か・・・それとも明後日・・・恐らく先回りしている刺客たちの包囲網を突破せずには、先へは行けないだろう。

 次にレイサーは、木につないでいる従者のことを気にした。そして立ち上がり、オリファトロスの近くへ行って様子をみた。いったい何に・・・と考えながら、レイサーは馬首をなでてなだめる。ずっとどこか落ち着きがないのは、どうもおびえている感じなのである。いつもは気が強く、堂々とした奴なのに。だが、馬という動物は非常に耳がいいため、もともと臆病だという。

 レイサーは、じっと耳を澄ましてみた。夜行性の獣の鳴き声も、それらがたてる物音の何も、自分には分からない。不気味なほど静かな夜。

 一方、アイオロスとアズバロンには、これといった異変はみられなかった。オリファトロスの聴覚がずば抜けて優れているのか。それとも、音以外の何かを感じているのか。嫌な予感か・・・なら、悟るのは無理だ。

 レイサーは、眠っている者たちのそばへ戻った。

 その時、リマールが身じろいだ。寝返りをうつだけかと思ったが、むくりと背中を起こして、少し呆然としているようだった。辺りは真っ暗でも、目が慣れているレイサーには分かった。

「どうかしたか。」
 声をかけたが返事はない。寝ぼけているのか? と思い、それ以上は黙って様子をうかがった。

 そして、ぎょっとなった。

 リマールが、自分で自分の首を絞めだしたのだ・・・!

「お前、何やって・・・!」

 リマールに飛びついたレイサーは、慌てて腕をつかんで止めさせた。ところがリマールはまだ目覚めず、夢にうなされるように抵抗してくる。そして、自分自身を苦しめようとする。リマールはなかなかに腕力がある。それを上回る力がレイサーにはあるので阻止するのは難しくないが、この状況でいつまでも気づかないなど、これはおかしい・・・!

「え、なに・・・ケンカ?」

 アベルの声がした。
 ラキアも起きている。

 思わず上げたレイサーの声で、二人とも目が覚めたようだ。そして姿がよく見えない中では、もみ合っているように見えるらしい。

「そんなわけないだろ、リマールが・・・!」

 すると、ラキアが震える声で言った。
「人じゃない・・・これ・・・なに?」

 レイサーは、そんなラキアの視線を追った。リマールの方を向いてはいるが、どうやらリマールを見ていない。そうか、ラキアは霊能力者。何かに取り憑かれているということか。だが、人じゃない? じゃあ、いったい何に。そして、レイサーは思った。ラキア、今こそ、お前が役立つ時なんじゃないか?

 ところが、ラキアはひどく困惑していた。

 実はラキアは、悪霊や怨霊や、怨念といった種類のものを追い払ったり、浄化したこともなければ、見たことすらないからだ。住んでいるのどかな村以外の場所へ、あまり行ったことがなかったから。そして霊能力者がそのような類のものの気配を感じると、体が反応して異変を起こす。ラキアの祖父や父親は経験を積み慣れているので、体がじゅうぶん耐えられるまでに免疫めんえきがついているが、初めて体験したラキアではもろに影響を受けてしまう。

 それでも解決方法を、自分ができることを使って、今、この場で見出さなければならない。体の不調と怖いのを我慢して、ラキアは一生懸命に考えた。

 あれでもない、これでもない・・・そうだ、光! 光の精霊がきくかも!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...