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第5章 試 練
7. 暗殺兵団との戦い
しおりを挟むしばらく行くと、背の高い藪がまた次第に減ってきて、ずいぶん視界が良くなった。早く進めるが敵からも見つけられやすく、気持ちが落ち着かない場所。しかも、今通っている所についてだけ言えば、木が生えていない! ここはずいぶん昔に朽ち果てた、何か巨大な建物の跡地だ。その証拠に、崩れた石の壁や階段がわずかに残っている。だが前方遠くの木立の間は暗くなっている。きっと、そこからはまた草木が密生しているからだろう。早くそこまで、身を隠せる場所へ行かないと。
彼らは、地面を這う植物に足をとられそうになりながら、雑草で埋め尽くされた低い叢を踏み倒して急いだ。
すると不意に、アベルが足を止めて振り向いた。
角笛の音が聞こえたのだ。
他の者たちも立ち止った。そして視線をさ迷わせた。
不吉な音は別の方角からも吹き鳴らされている。森を反響して響いてくる。
「急げ!」
レイサーはラキアの手を引いて駆けだした。とにかく、まずはこの目につきやすい跡地を抜けなければ!
しかし、もはや森のそこらじゅうに散らばってアベルを探し回っていた敵が、後ろだけでなく横の雑木林からもいっきに集まってくるのが分かった。角笛に続いて騒がしい蹄の音、叫び声、そして敵の姿が目に映った。
向こうは馬で追いかけてくる。対して、こっちは自分の足。こんな開けた場所では、すぐに捕まってしまう。すでにもう、そこまで来ている。考える間もなく迫り来る。
そうして逃げるうちに、この広大な跡地の中でも木がある場所に出た。木には何か大きな実が生っている。恐らく庭だったところだ。
走りながらある考えに悩んでいたアベルは、ここでついに決心して、背中から弓を外した。そして矢をつがえて立ち止り、クルリッ! と振り向いたのである。
「近寄るな!」
アベルはめいいっぱい強がって叫んだ。
「撃つぞ!」
レイサーもリマールも、そしてラキアも驚いて足を止めた。
馬に乗った刺客が数名、慌てて手綱を引いた。もう捕まる! というところまで迫っていた、最も近い五人の兵士たち。横から向かってきた敵の方はまだ距離があったが、この様子に気付いて同じく動きを止めた。
状況としては、一人の射手に多くの標的。一度に襲いかかれば、彼の弓は封じられる。だが、誰かはやられる。その一人に誰もなりたくないようだ。
ほとんど気休めで持ってきた武器が、抜群の効果を発揮してくれた。飛び道具はかなりの脅威らしい。レイサーやリマールには突拍子もない行動のように思われたが、結果、いい判断でタイミングだった。
レイサーは、リマールとラキアを下がるように促して、アベルと共にゆっくりと後ずさった。
このままもう少し進めば、そこに見えているまた密になった雑木林へ入ることができる。
ためらいながら距離を置いている刺客のうち、二、三人が目配せをして、恐る恐る馬を一歩進ませた。
「動くな! 」
弓を斜め上に向けたアベルは、刺客たちの後ろの木の枝に向けて矢を放った。
「見ろ、これは警告だ!」
その直後、すとんと上から落ちてきた大きな丸い木の実が、音をたてて地面に転がった。
思わず言われた通りに注目した敵の誰も彼もが、目をみはり言葉を失っている様子。
「動けば急所を狙う。」
アベルは次の矢を仕掛けた。
「その弓、人に向けて撃ったことは?」
一歩一歩と仲間を連れて下がりながら、レイサーは囁き声できいてみた。
アベルは強張った顔でレイサーを見た。目が恐怖でいってしまっている。
「人を殺したことはあるか。」
別人のように勇ましかったアベルの声は、急に元に戻った。
「あ、ありません。だいたいは木の実を採ったり、狼や熊。」
アベルは震える声で弱々しく答えた。
だよな・・・と肩を落として、レイサーは剣を引き抜く。
案の定、アベルの虚勢はそのうち見抜かれてしまい、目の前では、我に返ったように次々と馬から飛び降りている敵が続出しているのである。アベルが実は戦いを知らない・・・と分かったとたん、剣を振りかざして、何人もが勢いよく走り寄ってくる。
「じゃあ、ちょっと衝撃的だろうが我慢しろよ。俺一人で片付けるから。」
レイサーは背筋を伸ばして前へ出た。
彼は、久々に操る剣の感触を確かめるように、それを右に左に軽く振った。その姿は、仲間たちの目に素晴らしく頼もしく、堂々として見えた。恐れを知らぬ勇者、まさにそんな感じだ。敵は多方面から群がってくるのに、その鋭い灰青色の瞳で冷静に見つめ、少しも動じていない。
そして・・・。
レイサーは突然、闘志に火がついたように足元を蹴り、最初の敵と戦った。ほとんど一人ずつというわけにはいかなかった。レイサーが鮮やかに剣を振るった次の瞬間、バタバタと倒れた敵は三人。
すごい・・・!
敵を斬ったということ以外は、何をしたのか分からなかった。まさに電光石火の早業。アベルもリマールも、今のレイサーの剣捌きに鳥肌が立った。こんなに強かったんだっ。
敵もここまでの実力を予想していかったようで、その誰もが驚愕と困惑を露にしている。
しかし、多勢に無勢もいいところ。ここには一対何人か分からないほどの刺客が集まっている。いくら剣豪にだって相手にできる数にも限度ってものがある。
アベルは覚悟を決めた。
手助けしないと!
男が一人、足を引きつらせて倒れた。
レイサーが驚いて斜め後ろに首を向けると、筈を手放した直後のポーズで固まっているアベルがいる。
「撃ったのか。」
アベルは目を閉じてガクガクとうなずいた。
「いい腕だ。死なない部位でいいから頑張って狙ってくれ。援護を頼む。」
アベルはひどい動悸に打ち勝ち、しっかりと狙ってびゅんびゅんと矢を放った。
それは敵の腕や足を見事に痛めつけたが、やがて全て使い果たしてしまった。
何人もの敵を地面にうずくまらせることはできた・・・が、尻込みしていたほかの敵も気付いて、わっとばかりに駆け寄ってくる。
レイサーが一人で何人も相手をしている隙に、不意に身を躍らせた新たな一人が、アベルに向かって剣を振り上げた。
ガキンッ!
ほとんど奇跡的に、リマールの短剣がそれを受け止めていた。リマールは自分でも驚きだったが、山で自然と鍛えられた腕力が互角に張り合えている。だが戦い方を知らない。長くはもたない。
一方この間、ラキアは少し後ろで両手の指を組み合わせていた。ただ、呪術の構えではなく、ただおろおろと神に祈っているだけ。精神を集中させることができないこんな状況では、情けのないことに何の役にも立たない。しかし幸いなことには、ラキアを手にかけようとする最低な敵が、ひとまずこの中にはいないようであることだった。
ついにリマールも支えきれなくなり、短剣が横へ滑り落ちた。サッと身をかわし、アベルもそこにはもういなかったので、振り下ろされた敵の刃は虚しく空間を切り裂いた。すぐに体勢を立て直したその敵は、アベルを見つけてまた剣を構えた。
アベルは グイッ! と上着を引っ張られて横へよろめいた。同時に、今度目の前に現れたのはレイサーだ。アベルがそうと気付いた時には、彼は既にその敵を斬り伏せていた。
「先に行け!あとは俺に任せろ!」
「でも・・・!」
「この人数ならやれる。そうだ、例の場所で落ち合おう。」
アベルとリマールは顔を見合い、思いきると、ラキアを連れてレイサーの背後から離れた。
それから間もなくして、レイサーは、急にまた敵の数が増えたことにハッと気付いた。
援兵だ・・・!
右からも左からも、ひっきりなしに襲いかかってくる。味方同士で剣がぶつからないようわずかな間隔だけが空く。一人を片付ければ、もう順番を決めているかのようにすぐに次が仕掛けてくる。息つく間もない。
ある時、右腕に焼けつくような痛みが走った。斬られた・・・!
ほんの一瞬だったが気をとられてしまい、見逃さない敵の襲撃が、次は左腿を傷つけてきた。深く剣を突き刺され、膝が震えて体をうまく支えきれない。
そのあとは、自分の戦いに対する全てがいっきに崩れていった。そこへ背後から蹴り倒され、もうボロボロで立ち上がることもできないのに、さらに三人がかりで頭や肩、それに背中を押さえつけられたのである。
そうして、腹這いのまま荒い息をついているだけのレイサーは、乱暴に両腕をつかみ取られ、そのまま腰の辺りへ回された手首をきつく縛られてしまった。
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