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第5章 試 練
8. 謎の騎兵たち
しおりを挟むあれから三人は、馬が通れないような険しい道を逃げてきた。敵もみな馬を置いたまま追いかけてきたが、上手く振りきることができた。
さっき見た男たちの全てが、灰色と黒の軍服や防具を身に着けていた。全員がベルニア国の兵士だ。
確かに彼は強かった。とても強かった・・・期待以上に。だけど、あんなに戦い慣れた敵に囲まれて・・・無事でいられるとは思えない。きっと死ぬつもりで逃がしてくれた。レイサー・・・ほんとは優しくて、最高の用心棒だった。
「でも、例の場所ってどこだろう。」
勝手に絶望しているアベルを、リマールの声が現実に引き戻し、希望を示してくれた。
アベルはうつむいていた顔を上げて、声もなく親友を見つめた。
リマールは全くあきらめていない。
「なに?」
「な、何でもない。」
アベルは一人不吉なことを考えていたのが恥ずかしかった。
「もしかして・・・レイサーがやられると思ってた?」
「・・・だって。」
「あそこにいた敵の全員が、レイサー一人に襲いかかったわけじゃないよ。何人かは僕たちを追いかけてきた。ほかにもいるはずだ。レイサーは、それを阻もうと頑張ってくれていたけど。」
そうだよ・・・と、アベルはハッとした。死ぬつもりなら、落ち合おうなんて言うはずない。彼はやれると言いきって、自信に満ちていた。
「だから僕たちは、追いかけてくる敵に見つからないように、レイサーとの待ち合わせ場所まで行かなくちゃいけない。アベル、どこか心当たりある?」
アベルは黙って考えた。すると、そう悩まないうちに思い当たった。
「・・・もしかして。」
この時、目に浮かんでいたのは、月明かりに照らされたレイサーの神秘的な横顔。
「きっと、あそこだ。月・・・。」
そう、共通して印象的な場所といえば、昨夜一緒に下弦の月を眺めた川辺の岩場。今日は雨宿りをしたせいであまり先へは進めなかったので、それほど時間をかけずに戻れる。あそこには周りに藪やナノハナが生い茂っていた。身を潜めて待つことができる。
アベルは、リマールとラキアに真夜中の出来事を話した。それを聞いた二人も、そこに違いないと強く確信できたので、今朝いたその場所まで戻ることになった。
しかしそこで、三人ともがほぼ同時に気づいた。
でも、ここはどこだ?
とにかく逃げ切ることにとらわれていたので、方向など考えていなかった。周囲を見渡してみれば、どこも木々と茂みが連続する風景。だがヒントはある。吊り橋を渡り、広い跡地を通り抜けた。
まだ太陽が沈むまでには時間がある。敵に見つかる危険を考え、よく注意しながらリマールが素早く高木に登って、それらの目印を探した。枝を掻き分けると、跡地はすぐに見つかった。道のある所も分かった。その道を目でたどると吊り橋に続いていて、谷底に下りられそうな細い分かれ道が伸びている。ナノハナ畑は川沿いにあった。その川と谷を流れる川がすぐにつながるだろうということで、吊り橋を渡らず、谷を下りた川沿いに戻る選択をした。川幅が狭いので、下からなら、向こう岸へは川の中を横切るか、岩を伝って行けるはずだ。
その道を選んだのには、もう一つ考えがあった。下見だ。追いかけられて分かった。北か南へ大きく遠回りしてでも、一旦、この森から出た方がいい。今は、もはや大街道より危険かもしれない。だが、森の中はどこも敵だらけだ。ならば、谷間の道はどうだろうと。
フェルドーランの森を東側と西側に大きく二分している谷は、場所によって幅が極端に狭くなったり広がったりしているが、全体的にはずいぶん細い峡谷といえる。
その崖の道を誰にも見つからずに下りることができた三人は、今度は道の無い川沿いを歩き始めた。
川辺の木々が長い枝を広げているおかげで、その道は身を隠すのに適していた。ただ陰鬱で、水はけの悪いぬかるみや、たっぷりと水滴をつけたシダに覆われている、じめじめした所。一度など、どうにも進めない藪に阻まれ、葦の茂みが邪魔をする冷たい川に入るのを余儀なくされた。
そんな、げんなりしたり、ついイラッとしてしまうような場所だ。その時、アベルはラキアが濡れないように抱いてあげたい気持ちになったが、生い茂る葦のせいでかえって危険と判断し、気持ちをおさえて口にはしなかった。そのラキアは、意外にも文句一つ漏らさずに、どこでも黙ってついてきた。カチカチのパンには、あんなに不平たらたらだったのに。
しばらく行くと、川が左方向へ分かれた。森の中には小川がたくさん流れている。だがアベルもリマールも、これに沿って行けば目的地に着けると確信していたので、まずはちょうどよい岩場を渡って対岸へ移動した。
そして、ほら! イライラを我慢した甲斐あって、やがて見えてきたのは一夜を過ごしたナノハナ畑。よかった! 道は不快なものだったが、思った通りそう時間をかけずに戻ってくることができた。
さて、谷間の道はだいたい把握できた。正直、もう通りたくないし、ちょっと困難はある。そこを夜に行くとなると尚更だ。でも、あんなにいた敵の気配は、ここまで全くなかった。無理をしてこそ、窮地を切り抜けられるというもの。
さあ、あとはナノハナ畑でレイサーを待って・・・!
三人は、茂みの中にサッとしゃがみ込んだ。
近くではなかったが、向こう岸の道がある方を、馬に乗った人影が走り過ぎて行った。一人ではなかった。恐らく、三、四人。みな騎乗していた。
「今のは・・・?」
不可解そうにアベルが言った。
「まだこっち側にも敵が・・・。」
リマールはそれを、ほとんど目に留めることができなかった。
「でも、見えたのは灰色と黒じゃなかった気がする。」
アベルが不可解だと思ったのは、だからだ。さらに直感では、嫌な感じがしなかった。
すると、ラキアも言った。
「追いかけてた・・・ように見えた。」
「何を?」と、アベル。
追われているのは自分たちなのに?
「どっちにしろ、安心はできないよ。」
リマールが用心深い声を出した。
「ナノハナ畑に来るかな。」
アベルが言った。
「じゅうぶんに考えられる。」
「このあいだにもレイサーが戻ってきたら・・・?」
「とにかく、一度、ここから離れよう。もし落ち合い場所の近くで姿を見られたら勘づかれる。」
リマールの言葉で三人はもう一度川沿いを戻り、夜、この道を使うことを思って、川からも離れた。再び森の雑木林を慎重に進み、ひとまず適当な茂みに隠れた。
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