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第6章 祝 福
2. 王都に潜む闇
しおりを挟むリマールは、人混みの中を早歩きで進みながら考えていた。
アベルは大丈夫だろうか・・・大丈夫、きっと。 僕があんなおかしな行動をとれば、レイサーやエドリック隊長は気づいて、あいつを調べるはずだ。あいつ・・・あの衛兵の男。なぜか、本能で怪しいと感じた。裏切り者や、密偵であろうとなかろうと、二人に警戒させることはできただろう。
薬はこのまま、直接、一人で届けよう。先に宮殿に行って、いきなり王に会うのは無理でも、ルファイアス騎士にはきっと会える。彼は王宮まで護衛すると言ってくれていた。この王都にいるんだ。王に会いたいと言えば間に何人も関わってくるけど、彼になら、きっと比較的簡単に会わせてもらえる。薬は彼に、直接渡そう。とにかく、王宮まで無事にたどり着けさえすれば、ほぼ安全だ。
そう予定を立てたリマールは、危険から遠ざかった気分でいた。人が多い場所にいると落ち着けた。繁華街は、笑顔と明るい声であふれている。そんな平和を感じる中では、さしあたり安全だと思った。
ところがしばらくして、目に映る街の情景は、関心が持てないものとなった。穏やかな空気は殺気に似た不快なものに変わり、自分の甘い考えにハッと気づかされた。
急に冴えわたった感覚が、異様な足音、そして気配を拾い上げたのだ。
リマールはそれを疑わなかった。恐らく、この旅の中で、危険を察知する能力が自然と鍛えられたためだろう。
彼は人混みを複雑に縫って歩きながら、背後に注意を払った。気のせいではない・・・という不安が、どんどん強くなっていく。
きっと・・・やはり・・・間違いない! つけられている!
リマールは、可能な限り徐々に速度をあげていった。
こうして人が多い場所にいれば身は守れる。でも、接触されて、人気の無いところへ上手く連れ込まれてしまうことも考えられる。まさか、突然刺されるなんてことは! それから強引に荷物を奪い去る。そんな向こう見ずな泥棒みたいなこと、するだろうか。いや、無いとは言いきれない。ひとまず、薬をどこかへ隠さないと! 奴らの目を盗んで、いったん、どこかへ。
リマールは仕方なく、ある時、シュッと路地裏へ入った。人通りはほとんど無い。危険な場所だ。でも、大通りにいては誰にも気づかれずに隠すことはできない。リマールは、恐る恐る後ろを振り返った。ついて来る者はいない。よし、奴らの不意をつくことができたようだ。早く、今のうちに隠さないと。
リマールは、路地裏の迷路のような細い分かれ道をいくつか曲がった。店舗の裏に、いろんなものが置かれている。そして、あれだ! 自分の身長と同じくらい、高く積み上げられた木箱を見つけた。きっと中は空だろう。リマールは、やっと最適な隠し場所を見つけたと思い、薬の小瓶が入った巾着を、ベルト通しから急いで外しにかかった。そして、また後ろを見た。前後、誰もいない。店舗の中からはガヤガヤと物音や声が聞こえるけど、この路地裏には近くに人の気配はない。今だ!
リマールは、リュックも肩から下ろすと、最上段に積まれた大きな空箱の中へ、二つ一緒に投げ込んだ。
そのあと急いで走り去った。
これで、もし自分が捕まっても、すぐに薬を取られることはない。でも、どうしよう・・・隠し場所を知っているのは僕だけだ。あの木箱の店の主人に・・・いや、ダメだ。若い人の方が信頼できる。そうだ、あの店に行って、誰か関係ないお客に、ルファイアス騎士を呼んで来てもらおう。もし店の人があのリュックに気づいたら、自分のだと言わなければならないし、あの店で様子を窺いながら待とう。
否応なく大事な薬を手放したリマールだったが、そうして考えがまとまると、早く大通りに出たい一心で光を探した。幸い、すぐに喧噪が耳に届き、路地に差し込む明るい光が前方に見えた。
ところが、ホッとしたのもつかの間、大きな影がその光を遮った。人影が二体、突然、行く手から走り寄って来る。やつらだ!
リマールはぞっとすると同時に反応し、素早く踵を返した。しかし、駆け出すことはできなかった。後ろからも、追っ手が一人現れたのだ。
間もなく、リマールは乱暴に肩をつかまれて壁際へ追いつめられた。三人の男に逃げ道をふさがれている。順ぐりにその顔や姿を見ていくと、兵士の恰好をしている者も、凶悪そうな人相の者もいない。みな、ただの一般の臣民という感じだった。だが、厳しい表情をそろえてリマールのすぐ周りに立ち、目つきには何か変えがたい信念・・・異端者のそれのような・・・が宿っているように見えた。
この男たち、ガゼルの宿泊街にいたのと同じく、ベルニア国の支持者だ。この王都にも潜んでいるなんて。
そうと確信したリマールは、大通りの通行人に助けを求めるように声を上げて言った。だが繁華街はとても賑やかだ。気づいてもらえるか。
「薬が欲しいなら、僕は持っていないぞっ。」
「では、なぜ逃げた。」
リマールの真正面にいる男が言った。
「あいつ(衛兵)を引き付けるためだ。追いかけてきたのは、あんたらだったけど。好きなだけ調べろよ。なんなら、全部脱いだっていい。」
妙だと思いながらも、男たちは寄ってたかってリマールの上着を探り、無造作にシャツをまくり上げ、肌着ごと脱がせた・・・が、その通りで何も出てはこない。あれっ! そういえば、こいつ、リュックもどこへやった !? 完全な手ぶらだ!
「お前、さては途中でどこかに置いてきたな。どこだ、さあ言え! 少しずつ体を斬り刻まれたくなければ。」
真正面にいる男は、勢いよく自分のベストを開いたかと思うと、内ポケットからナイフを抜いて脅しかけてきた。鋭い刃が、リマールの左頬にあてがわれる。男の声は苛立ち焦っていて、冷静とはいえなかった。傷つけるくらいなら、こいつらは本当にやる・・・と分かって、リマールはごくりと息を呑み込んだ。
「そこで何をしている!」
斬りつけられる寸前、ナイフがサッと下ろされ、リマールも、そして男たちもみな、一斉に声がした方を見た。
馬に乗った人影が、この路地の出入口付近で立ち止り、こちらに顔を向けている。
「おいはぎか? しかも王都でそのような愚行を働くとは、恥を知れ!」
逆光でほとんどシルエットだったが、その雰囲気と声でリマールには分かった。
そして、出せるだけの大声で叫んだ。
「ルファイアス騎士!」と。
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