ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第1章 異能力の目覚め

第8話 悪童橋爪

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二人が橋爪の悪の影により負傷したことでシャクンタラーの戦力は大幅に削がれた。

これでは北条の稲妻もまともには打てまい。

囮役と技の大半を指揮する団長が負傷したことで策は尽きたのだ。

しかしながらあまりに杜撰な策に、逆に何故いままでこの策のみで勝ててきたのかは甚だ疑問であるが、それだけレベルAは高威力の異能を生むので己の力に過信していたのだ。

そのことに今更気づいたところで遅い。
しかしながら、この状況を打開する策を模索するしかないのだ。
北条は負傷した仲間に目を向ける。


「亜里沙…………大丈夫?」

「う、うん。がんばるよ。ここで負けたら悲惨なことになるから。」

「そうね。やりましょう。」

なんとか紫電の異能で身体能力を向上した北条が二人を連れて橋爪から一旦距離を取る。

エレキネシスの異能で何故素早く動けるようになるのかは分からない。無論、植木にも理解しかねる。もちろん、本人にも分からない。

一息つき北条は仲間の状況を確認する。

亜里沙の片足は未だ青黒く変色しており、彼女の足の上では影が蠢き、まるで蛇のように這っている。そうして影は彼女の太ももにまで達しようとしていた。

亜里沙はやせ我慢で大丈夫だと北条に言ったことは、彼女の苦悶の表情を見れば分かる。

己を鼓舞し、北条は橋爪を睨みつける。

「団長…………やりま…………いいわ。亜里沙。行くわよ。」

痛みからか団長が白目をむきながら気絶していることを視認した北条は、気を引き締め橋爪に突撃する。

橋爪は気持ちの悪い笑みでもって北条を迎え撃つ。

「さーて、ねぇちゃんよぉ。遊ぼうか!!!」

またしても、橋爪の悪の影がシャクンタラーの面々を襲う。

北条は一度、味方がやられるのを目にしていたことから上手く避けており、亜里沙は瞬間移動により橋爪の背中を取る。

「うう……………………は!?ぐえっ!!」

北条と亜里沙を素通りした悪の影はすべて後ろで倒れている植木の腹に直撃する。

しかし、満身創痍である二人はそのことに気づかない。

腹に一撃食らった植木は目を覚ます。

「ほ……………北条………待て。亜里沙…………駄目だ。よけられ…………ぐえっ!!」

またしても植木の腹に一撃入るが彼女たちはよけることで精いっぱいであり、彼のピンチには気づかない。

「…………あり…………さ。避けるな。受け止めろよ!!!こっちにくるからあ!!うえっ!!ぐえっ!!……………………ごめんごめん。嘘嘘。だからごめん。本当にこっちにそれを飛ばすのやめて!!ぐえっ!!」

今の彼の様子をシャクンタラー本部の人間が見ていたらどうなるのかは想像に難くない。本部で偉そうに高級な椅子に腰かけ、恰好付けてタバコを吹かしている彼の姿はそこにはなかった。

攻撃をすべて受け入れる釈迦の心を持った懐の広い男なのかもしれない。いや、彼の白目のアホずらを見てそのように考える人間はいないだろう。

シャクンタラー団長植木は人知れず、負けて地に伏した。

 

 

 

「逃げ回っていても意味ねぇぞ!!時間の問題だぜ!?」

人知れずトップが倒れていても、二人の部下の窮地は続く。一人倒れているだけの案山子同然の男はさておき、二人の少女は己のすべての力でもって悪童と対峙するのだ。

橋爪の脅しに気を取られ、委縮した亜里沙の動きが少し鈍る。

悪の影が彼女の背後へと迫る。しかし、北条がその影を紫電で一直線に狙い撃ちし、回避する。

「チッ。やっぱりお前からやったほうがいいな?なあ?ねぇちゃんよぉ?」

橋爪は北条に狙いを定める。

「気持ちの悪い顔でこっち見るな!!可愛い美少年になって出直してきなさい!!」

北条は紫電を放つ。

しかし、影は橋爪の前方に集まり、紫電は防がれる。

それにしてもあの影は思った以上に厄介だ。一度触れれば、感染し青黒く変色し始めて受けた人間を侵食し続ける。

それに奴の手足の様に自由自在に動くため、攻守ともに即座に対応できる。

これでは奴の隙をつくのも難しい。

なにか良い手はないのか?

奴を一撃で仕留める最高の手は。

「…………う…………うう。」

その時、亜里沙の動きが止まり、地に膝をつく。

彼女にとりついた悪の影はもう彼女の首元まで到達しており、彼女の首から下は青黒く変色していた。

亜里沙は苦しそうに肩を揺らして、息も絶え絶えにそこに倒れこむ。

「おお。やっとか。…………まあ、お前は耐えた方だよ。ん?」

その時、橋爪は首をかしげて、亜里沙の顔をまじまじと見る。

「お前。宮 沙代里(みや さより)に似ているな。まあいい。子供に興味はねぇんだ。」

亜里沙はそのまま気絶し地に倒れている。そこにのっそりと橋爪は近づいていき、手を振り上げる。そしてそのまま亜里沙目掛けて振り下ろす。

亜里沙のような小さな女の子に容赦なく手を上げる。
まさに外道の鑑のような男である。

しかし、その手を地面から挙げるも、彼女の姿はない。

なんとか間一髪のところで北条が救いだしたのだ。

亜里沙は悪の影の影響による痛みで気絶している。

紫電による身体向上により亜里沙を救えはしたが、状況は悪化したままだ。これは本当に最悪の事態だ。

私以外が皆、あいつ一人にやられた。

このまま一騎打ちをしたところで勝てる見込みはない。

逃げようにも、彼らをつれて逃げることはむつかしいだろう。

「ちょっとヤバイわね…………どうしたら。」

橋爪はこちらに身構えると、悪の影を北条に向けて伸ばす。

北条は亜里沙を抱きかかえたまま、その攻撃を避けるのみであり防戦一方になってしまう。

不利になったこの戦いの行方は想像しなくてもわかる。北条の体力が尽きて、奴の悪の影に飲まれるのが目に見えて分かるのだ。

万策尽きたとうなだれる北条を見て、満足げに彼女を見下ろす橋爪。
髪が彼女の顔を隠すように垂れ下がり、戦いを放棄したように感じられる。

「さて、そろそろ終わりにするか?」

しかし、彼女の目はまだ死んではいない。

亜里沙を地に寝かせると、そのまま自らの手に紫電を纏う。

「くそ…………最後に一発当ててやる!!!」

北条は一気に加速し、橋爪に肉薄すると手を橋爪の腹に当てる。

虚を突かれた橋爪は悪の影で彼女を阻止できなかったのだ。そのまま、北条は手から紫電を一気に放つ。

電場の発生に北条の黒髪が逆立ち、ピリピリとした刺激が肌を襲う。橋爪の体は筋肉により守られているが、この高電圧に耐えうるのは無理だろうと、そのまま北条は最大出力でもってけたたましい音とともに橋爪の腹に向かって紫電を解き放つ。

しかし、橋爪は未だ笑みを絶やさず、彼女を上から見下ろし、ゆっくりと集まってきた影は北条を覆っていった。

彼女の姿が見えなくなるまで影が集まり、ドーム状の黒い牢が出来たとき、彼女の紫電の発動を裏付ける電磁波音も聞こえなくなる。

静かに影は何層にも重なっていき、橋爪の醜い笑みを最後に彼女の視界は閉ざされた。

彼女の全力の攻撃は全て悪の影に阻まれたのだ。

そうして彼女の健闘虚しくこの戦いは幕を閉じた。

 

 

 

橋爪はそのまま気絶した北条を自分の部屋に連れて行こうとしていたところ、隣に気配を感じ振り向く。

「なんだ。お前かよ。吉井。」

橋爪の横に急に現れたのは黒縁眼鏡を光らせる好青年であった。短い髪にスーツを着込んでいる。

落ち着いた雰囲気を持つ彼とは対極にいるであろう橋爪はやはり彼のことが少し苦手であった。

それに彼は橋爪よりも強力な異能の使い手であるため従順になってしまうのがこの橋爪という男であった。

しかし、悪い男を演じきるために喧嘩口調で話しかけるところを見ると彼が幼稚な性格であることが分かる。

「橋爪。仕事は終わったな?ならば早くレベルAの異能者の捕獲に向かうぞ。」

「チッ。女と遊んでる時間もねぇのかよ?」

「ない。早く向かうんだ。もう突き止めている。市立北山高校の生徒だ。」

「なるほど。あそこか。あそこには確か南とかいうクソたらしがいたな。あいつのせいで何人の女に振られたか。ちょうどいい。あいつも殺してやろう。」

「仕事を片付けるならなにをしてもいい。とにかく早く向かうぞ。」

こうして二人のファウストは西京たちがいる市立北山高校に向かった。

 
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