ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第1章 異能力の目覚め

第7話 シャクンタラーのレベルA

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「瀬川。今、なんて言った?」

シャクンタラー団長の植木はタバコの煙を燻らせていたところ瀬川の言葉にその手をピタリと止めて問う。

瀬川は団長の声がいつもよりも低く聞こえて今しがた確認した情報の重要性を再度、自分に問いかける。そのため、自分に認識させるように一から現状について話す。

「ですから日吉さんの異能が消えました。それに続いてファウストの小田の異能も消えました。後二人、ファウストですかね?近くで異能が消えましたね。…………この短期間で四人もの異能が消えました。」

「その二名はなんだったんだ?俺は知らないぞ?」

「多分ですけど、レベルⅮ以下の下位異能者だったんでしょう。…………その後、一名の異能を検知しました。…………多分、テレキネシスですね。」

「レベルは?」

「日吉さんと同じレベルBです。」

「また高レベルの異能か。一体この町はどうなってる?」

「わかりません。しかし、僕たちの想像も及ばない異能の保有者がいますね。…………そう。あの世界を統べる異能の持ち主が。その人間のせいかもしれません。」

「そうか。」

瀬川とシャクンタラーの団長植木はため息をこぼす。

こんな短期間のうちに異能者の数が上下するようなことは今までなかったからだ。この異常事態に対する有効な対策が立てられないことも彼らを悩ます種だった。

なにより、テレキネシス日吉はレベルBということもあり対ファウストの特攻隊長を務めていた男だった。あれほどの男を打ち負かす男と、そんな奴よりもさらに強い異能を持つ奴がこの町にいるという事実が彼らを困惑させたのだ。

「……………………植木さん。」

「どうした?」

「ヤバイです。奴です。」

「なんだ?どうした?」

「奴がこの町に来ました。」

「奴だと?もしや悪童橋爪(はしづめ)か?」

「はい。…………そうですレベルSの橋爪です。あの謎の黒い気を纏う最凶最悪の男です。」

「そうか。仕方がない。…………これより、橋爪の討伐に向かう。…………今、手の空いているレベルAはいるか?」

「はい。テレポーター宮とエレキネシス北条の二人がいます。」

「よし、なら俺とその二人で悪童をやりに行く。」

「分かりました。すぐ連絡します。」

こうして水面下で未知の強さを誇るレベルS橋爪の討伐が進められていた。

橋爪は悪童と言われるだけあり、悪事の限りを尽くし、何度も警察の厄介になっている男である。異能が芽生える前から素行の悪さで有名な男であった。

暴行、窃盗は当たり前、女好きも相まって鬼畜の限りを尽くしてきた現高校生である。片耳にピアス穴を数え切れぬほど空けており、舌と下唇の下にもピアス穴がある。これでは何か飲料を口に含んだ時にその穴から出てくるのではないかと懸念されているが、そこは異能の力で防いでいる。

そんな彼につけられたあだ名が悪童である。

まさに彼を体現するに相応しい言葉にファウスト一同は感嘆の声を漏らした。むしろ本人が一番喜んでその名を背負って生きていくと言った。

そして、早くも集まったレベルAの異能者を連れて植木は橋爪へと接近する。

 

 

 

植木率いるシャクンタラーの面々が橋爪捜索のために町に入るころにはもう夕方になっていた。

植木は町に来る前から懸念していた点を北条に問いかける。

「北条。いいのか?今日は予定があったのだろう?」

「別にそこまで大した予定でもないので。…………ただその子には異能があると聞いたので会ってみたのですが、なんてことはありません。ただの中二病でした。」

「そうか。…………中二病?」

聞きなれない言葉に植木が首をひねる。

「なんて言ったら良いんでしょう?まあ、子供特有の妄想を信じていて、思春期を抜け出せていない子供のことです。」

「そうか。…………おっと悪い。キャッチが入った。瀬川だ。」

悪童の位置を掴んだといの報告の電話であり、植木たちはすぐさま橋爪のもとに急行する。

やはり瀬川の探知能力はレベルBだけあり役に立つ異能である。

瀬川のよこした情報の通り、町の人気のない森の中に橋爪はいた。

そこは野外活動施設であり、町からは少し離れておりこの時間なら人気もない。まるでこちらが接触しようとしていることを初めから知っていたように橋爪はそこにいた。

「見つけたぞ。橋爪。」

植木はその姿を一度みたことがあり見つけ次第、声をかける。

「あ?誰だ?お前?」

「俺はシャクンタラーの植木だ。聞いているだろ?ファウストの野郎からな。」

「ああ。お前があの馬鹿な軍団のトップか。…………いいだろうここで殺してやる。」

「団長。あれが悪童ですか?」

「ん?そうだ。やつこそ悪童橋爪だ。」

「そうなんですか…………ずいぶん小さい男の子ですね。」

「あの見た目に惑わされるな北条。奴は化け物のような男だぞ。それに君と同じ高校生だ。」

「…………はい。わかりました。」

植木率いるファウストの二人の異能者は悪童の姿を見て驚愕した。

そこには、短パンの似合う可愛い容姿の男の子がいたからだ。しかしながら口が悪い。お世辞にも育ちが良いとは言えない男児であった。

敵が目前にいることでテレポーターである宮は即座に植木の後ろに隠れる。

彼女はレベルAを誇るテレポーターであるが、内気な性格であり、容姿もこじんまりとしている。小動物を思わせるその大きな双眸は目前の小さな男の子に困惑しウルウルとその大きな瞳を揺らしている。

彼女が植木の背に隠れる際に三つ編みのポニーテールがふわりと揺れる。

そんな彼女をおもんぱかってか北条は前に出て、橋爪を威圧する。

しかし、橋爪は彼女を見て、その幼く可愛い顔をグニャりと綻せ、三日月のようにひん曲がった笑顔で北条に対し変声期真っ只中の掠れた笑い声を漏らす。

「おお。おお。ファウストってのはそんな美少女を連れて歩けるのか?俺は入る軍団を間違えたかもしれないな。クヒヒッ!!…………そこの女は良い足をしている。舐めてやりてぇ。」

「変態な子供ね。さっさとやりましょう。気持ちが悪い。いくらショタコンの私でもあの気持ちの悪い笑みは耐えられませんね。」

「君はショタコンなのか!?」

植木は驚いた顔で北条に方に振り返る。

「それは今、関係ありません。」

北条の美貌は確かに数多の男をイチコロにするほどであるが、小さい男の子にはその美貌は冷たく映るようで嫌煙されることが多く、褒められて少しばかり嬉しくもあり口が滑ったのだ。
その様子を遠巻きに眺めていた橋爪は尚、北条を誘う。

「おい。ねーちゃん。今日はこの後、俺の部屋に来いよ。朝まで寝かせないぜ。」

「朝までで終わりなの?悪童の名が泣くんじゃないの?」

「…………なんだビッチか?」

「北条。ビッチなのか?」

またしても驚愕の事実に植木は北条の方に振り返る。

「違います。ちょっと可愛い男児だったので見栄を張りました。私にそういった経験はありません。すいません。」

「そうか。そうだな。君はよくイチゴのパンツをはいているものな。びっくりさせないでくれよ。」

「…………え?」

「いや。…………なんでもない。」

「宮ちゃん。さっさとやりましょう。この後、警察に行かなくてはいけなくなりました。」

「え!?北条?」

「…………う、うん。でもあんな怖い人と戦わないいといけないの?」

植木と一緒に来ていたもう一人の異能者、宮 亜里沙(みや ありさ)は怯えた様子で北条に返事をし、前を指さす。

そこには先ほどの可愛い男の子はおらず、肉だるまのような筋骨隆々とした力士のような体を持ったブ男がこちらを睥睨していた。

腕は内側の筋肉で盛り上がりシャツがはち切れんばかりに引っ張られ悲鳴を上げているようだ。服の裾から見える筋肉には脈打つ図太い血管が絡みついている様に見える。

そうして醜悪な顔はこちらを一慶し、ニヤリと微笑むのだ。

その膨れ上がった筋肉に覆われた男はもはや人外とも呼べるほど大きくなり、獣など化け物を思わせるその体躯に三人は驚愕し、北条に至ってはあまりの変化に絶句し、その姿を見て疑念を持つ始末である。

「え?…………さっきまでの可愛いショタは?」

そんな北条に植木が自慢気に説明する。

「あれが奴の本当の姿だ。奴は悪魔の異能の弊害であのような可愛い姿になってしまったらしい。」

「…………そうなの。」

何故か北条は肩を落とし、落胆した様子で目の前の敵と対峙する。

「み、美紀ちゃん。…………悲しそう。」

「いえ、可愛い子だったから。この後、食事とかSNSのIDくらいならって思ってたのよ。なんといっても珍しい合法ショタだから。まあいいわ。あんな奴なら余裕でやれるわ。」

「美紀ちゃん……………………。」

「さあ。やるぞ。お前ら。とりあえず、宮のテレポートで奴をかく乱するんだ。それで奴が油断したところをつく。いくぞ!!」

こうしてシャクンタラー三人のレベルAの異能者とファウスト最強の悪童との闘いが幕を開いた。

 

 

 

「…………い、いきます。」

そう小さくつぶやくと、亜里沙は橋爪に向かって走り出す。

片手にシャクンタラーが作成した対異能者用の麻酔銃を握り締め、三つ編みが揺れる。

そして彼女の姿が消える。

次の瞬間、橋爪の背後に移動した亜里沙が橋爪目掛けて麻酔銃を発砲する。

しかし、橋爪の分厚い筋肉に麻酔針は阻まれ、亜里沙の姿を視認した橋爪は膨張した巨大な右手を亜里沙に振り下ろす。

寸でのところで亜里沙は瞬間移動によりその攻撃を回避する。

もし、当たっていれば橋爪の手に押しつぶされ、ただでは済まなかっただろう。

亜里沙はまたしても瞬間移動を行使し、橋爪の周りを飛び回り、ヒットアンドアウェイで適切な距離を保った攻撃を仕掛けていく。

何発も発砲するが、すべて筋肉に阻まれ意味のない攻撃の様に思われる。

しかしながら、橋爪をイラつかせて判断能力を鈍らせるには足りたようだ。

「クソ!!ちょこまかと!!このクソチビが!!」

橋爪の語彙力の低さはさておき、その巨体を振り回しながら亜里沙の攻撃を無視し、残りのシャクンタラーの方に向かって走っていく。

機動力の高いテレポーターではなく、先に北条と植木から仕留める算段のようだ。

「ふっ。馬鹿な子供だ。いけ!!北条!!」

植木が北条に指示する。

「直情型な奴は扱いやすくていいわ。…………くらえ!!!」

北条は手を前に突き出すとその手は青白い光を放ち、電撃波を橋爪に浴びせる。

宙に青い閃光が走り橋爪を襲う。

植木はその閃光を異能により操ると、そのまま宙に放出された青い閃光を橋爪へと収束させる。

けたたましい雷鳴と共に橋爪に青い稲妻が落ちる。一瞬にしてその場の空気が電磁波によりピリつく。

地に稲妻が落ちたことから、橋爪を通過した稲妻が地に幾何学模様を描く。

そうしてその光が断続的に三人の目に入った時、一瞬視界が遮られる。

高圧の電気をその身で浴びた橋爪が倒れている姿を期待し、三人は目を開く。

しかし、橋爪は何喰わぬ顔でそこに立っていた。

「おいおい。それだけか?レベルAの異能者ってのは雑魚なのか?」

橋爪はまた気持ちの悪い笑みで、三人を挑発する。

「…………なん…………だと?」

「そんな…………美紀ちゃんの異能で倒せないなんて。」

驚愕する二人を置いて、一番驚いているのは北条である。

開いた口がふさがらない。

今まで何人もの異能者をこの異能により無力化してきたが、こんなことはなかった。

こんなフウに全く動じなかった人間はいなかった。それは北条の自分の異能に対する自信をぐらつかせる。

「北条。しっかりしろ。とにかくもう一度やるぞ。まずは開いた口を閉じるんだ。」

「はい。…………よし。もう一度。」

その時、後ろから黒い影のようなものが亜里沙に向かって伸びていく。

「きゃっ!!」

黒い影は亜里沙の足にまとわりつくが、亜里沙は反射的に瞬間移動し避ける。しかしながら、彼女の足は何かに蝕まれたように青黒く変色していた。

「ッ!!痛い!」

涙目に痛みを訴える亜里沙に植木が振り向くと同時に次には植木のもとにも黒い影は忍び寄り、植木の首に絡みつく。

「亜里沙!!だいじょう…………う!?うぐっ!!」

植木はなんとかその影から逃げきると、首に激痛が走る。

彼の首も亜里沙と同じく、青黒く変色しその首から徐々に顔へと侵食していく。まるで何かに蝕まれるように伸びる黒い影。

「さて、茶番は終わりだ。これが俺の異能。悪の影だ。さあ。二回戦といこうか。」

悪童橋爪は痛みに耐えきれず地に膝をついた二人を見下ろしながらニタニタと笑っていた。

 

 

 

 

 
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