ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第2章 シャクンタラー対ファウスト

第32話 南くんの初恋⑧

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俺たちは喫茶店を出ると、当初の予定どおりデパート内の服飾店に向かうことにした。

昔は女性服売り場に行くことが何故か恥ずかしい自分がいたが、今となっては何度も来ているので特になにも思わなくなっていた。

明らかに似合っていない服に文句を言ったり、本当に似合っていると思う服を勧めることもしない。ただその子の言葉に適当に相槌を打って、時間が過ぎるのを待っているだけだった。
それですべて上手くいっていたのだ。

彼女は数ある店の中で、小綺麗な店に入っていった。

ここが彼女が好きだったブランド店だったようだ。

うん。センスは良いと思う。嗅覚に優れた彼女が好きそうな服飾店である。

今、彼女が来ている服は黒を基調にしたシャツに、黒いジーパンに目元を覆うほどの長い前髪も相まって相手に暗い印象を与えてしまうようなコーディネートだった。

それに比べて、この店の服は澄んだ水色や柑橘系の色合いのものが多く、爽やかな印象を持てる。

俺はその服飾店に入ると、気づかぬうちに彼女の隣で彼女に似合う服を一所懸命探していた。

そして、こんな服はどうだろうとか、あの服もいいねと言った会話が生まれていることにいつもと違うなと違和感を覚えながらも、初めて女性とこういった店に来て楽しいと感じていた。

「これ…………可愛いです。どうでしょうか?」

彼女は気に入った澄んだ水色のシャツを自分の体に重ねて、こちらに振り向く。

その際に前髪が揺れて、隠れていた彼女の柔和な瞳が見えて、その照れた仕草に一瞬たじろいでしまう。

ただ直感的に可愛いと思った。

理性やら、その子の思惑や、次の行動を考えての答えではない。ただただそう思ったのだ。

その感情には馬鹿な嘘や、自分を偽った打算的な感情はない。

ただこの好きな服が本当に自分に似合うのか不安でいる彼女の揺らいだ瞳を目で追ってしまっていた。

「えっと…………うん。似合っていると思う。本当に。」

「そ…………そうですか。」

「うん。似合っているんじゃないかな?あくまでも俺の主観的な意見になっちゃうけど」

「いいんです。それが聞きたかったので。…………でも。こんな事に付き合わせてしまってすいません。私は楽しいですけど南くんは退屈ですよね?」

「いや。楽しいよ。本当に」

「本当ですか?」

「うん。本当だよ。」

「そうですか。なら良かったです。」

彼女は安心したようにホッと息を吐くとまた、服を物色している。
彼女は服を探しながらも、顔を髪の毛に潜めていた。

「あの。で、でも私こういう事初めてなので本当は今日ずっと緊張してたんです。でも南くんはずっと優しくて…………楽しかったです。」

「そっか。俺も緊張してたけど、西山さんは話しやすくて居心地が良いと言うか…………楽しいよ。それにまだ予定があるでしょ?」

「そうですね。…………すいません。」

彼女は何故か顔を赤らめて、こちらを見ようとはしなかった。
俺は特に気にもせず、彼女とそこの店の服を見て歩いた。

彼女は悩んだ末にそこ店で服を買わなかった。

彼女は今の自分には似合わないと結論を出したのだ。

勿体ないな、買えばいいのにとは思っても、俺はそこで二の足を踏めなかった。自分は彼女のなんでもないただの協力者なのだから。

異能の被害者である彼女がこれから生きていくために協力するだけの人間だ。そんな俺が踏み込んでいい領分ではない気がした。

いつもなら、こんな服の一着や二着、勝手に買えよと思うのだろう。

俺は彼女の憂いに満ちた表情にどこか切なさに見せられ、俺は何がしたいのだろうと疑問に行き着いた。

彼女が異能を自由に操れて、完全に制御できるようになれば俺は用済みだ。

そしたらどうするのだろう?

学校に復帰した彼女と普通に会話するだけで、また先輩やら他校の人間と遊ぶのだろうか?

なんでそんな愚かなことを繰り返すのか?

何が怖くてそんなことをするのか?

女性が好きで、多数の女性を侍らせることで何を得ているのか?
もう何も思わなくなっているのに。
たしかに昔はモテる自分に優越感を覚えていた。こんなフウに毎日女性と遊んでいる自分は特別だと思っていたのだ。
しかし今となっては何も感じなくなり、いつしか面倒くさいとさえ思えていた。

それこそ、北条と話している方がいくらかマシだ。彼女は打算抜きで接してくれるから。

ならば、なぜまたこんなことを考えているのだろう。

本当に馬鹿なのか?

そうしていないと自分を保てないのか?

こんなことをしていて虚しいと思うくせに、なんでこんなことを続けているのか。その恐怖はどこから来るのだろう。

なんでもっと…………俺は頑張れなかったのだろう。

なにを?

何を頑張れなかったのだろう?

疑問が疑問を呼び、錯綜するのは、俺の所為か?
俺が馬鹿だから未だこんな果てのない疑問に悩んでいるのだろうか?

そう好きな服をちゃんと提示できる彼女を見て馬鹿らしく思えたのだ。

 

 

 

服飾店を見て回った後は、彼女と適当に買い物をして最後は学校を見て帰ろうと提案した。

下見しておいて学校に行くという不登校児からの脱却に一歩近づこうと思ったのだ。

ここから二、三駅過ぎれば高校の最寄り駅に着く。

そこからいつもの通学路を彼女となぞる。

もうすでに陽が落ちはじめ、空は時が過ぎるほど赤みを増して今日の終わりを皆に報せる。茜色の空に彼女の髪がより深い黒を感じさせて、俺は彼女の方に話しかけるたびにそちらに目を奪われる。

そうしていつもの通学路に新鮮味を感じるのだ。

いつも見ている高校の最寄りの駅も、横断歩道の信号も、いつも右に曲がる四つ角も、なにもかもが彼女といると違って見えた。
何故だろう?
彼女と見るとなにもかもがいつもと違って色鮮やかに映し出された。

何故そう感じるのだろうと考えていると、その時、前方から歩いてくる二人組の女の子がこちらに声をかけてきた。

「あれ!?南先輩?」

「あ。本当だ。南先輩だ!」

いつもなら、笑って応対するが、今日はやめてほしかった。今日は誰にも邪魔されたくなかったのだ。

色付いたように思えた街並みは彼女達が加わると途端に色が落ちて、暗色へと変化したように思えた。

俺は初め、通り過ぎてしまおうと思っていたのに、彼女らが目ざとく俺に気が付いたのが運の尽きだ。

彼女らの目が一瞬女狐の鋭い眼光に思えて、またその癇に障る甲高い声音に一層苛立ちが募った。

いや。分かっている。

彼女たちがそんなことを意図していないことも、筋違いな怒りであることも。分かっているのに、感情を上手く制御できない。

西山さんは俺の後ろに隠れると、何故か体を震わせていた。まるで極寒の地に身を置いたように。
彼女たちは西山さんを興味深そうに見ていた。

「ああ。えっと唯ちゃんと…………加奈子ちゃん?」

「ああ!今、一瞬忘れてたでしょ?」

「ごめん。今日はちょっと急いでいるから。」

俺は何故か自分の眉間に皺が寄ってしまっていることを自覚する。心なしか声も低くくなっているような気がする。
いや、間違っている。
俺が間違っているのだ。彼女たちの反応は普通だ。
彼女たちに怒るのは自己中心的な考えによるものだ。

「え~。私たちにも構ってくださいよ~。」

「…………あ。でも先輩忙しそうだし、また今度にしよ。唯ちゃん。」

加奈子ちゃんは俺の異変に気が付いたのか、何故かよそよそしくなり、唯ちゃんに声をかける。

そうしてくれ。今日は誰にも会いたくないんだ。

「ごめんね。」

「いえいえ。また今度遊んでくださいよ~。南先輩はいつも忙しそうだがら。私たちの順番が回ってくるの遅いんですから~。」

「うん。じゃあ。」

俺は西山さんを連れて、早く歩く。
そうして彼女らが見えなくなると、俺は落ち着きを取り戻した。

「なみくん…………南くん。手痛いです。」

俺は後ろの彼女を確認すると、驚いて彼女の手を離す。先ほど反射的に握っていたようだ。

「ごめん。ごめん。なんで手なんか握っちゃったんだろう。ごめんね。ほら。女の子の手をつなぐのは男の礼儀みたいなね?」

「…………すいません。私、そういうこと不慣れで…………。」

何を馬鹿なことを言っているのか。一体どういう着想でこんな馬鹿なことを宣っているのか?

「ううん。ごめん。驚かせちゃったね。…………西山さん。大丈夫?」

彼女は何故か体を震わせ、頬に汗が伝っていた。

俺は彼女の異変に気が付くと、彼女を連れて近くの公園のベンチに座らせる。

「大丈夫です。…………大丈夫。」

これは異能が暴発する前の合図だ。

彼女の指がカタカタと音を立てていると錯覚するほど揺れている。口も紫色に変色していく。顔色も病的なまでに青白くなっていた。明らかに様子がおかしい。

「大丈夫じゃないでしょ?…………うん。近くに人もいないし僕に異能を使ってもいいよ。ほら。早く。」

「大丈夫です。…………これ以上、南くんに迷惑をかけたくありません。それに…………」

「大丈夫。もう顔色も本当に悪いし。それに声も震えているよ?いいよ。俺に使ってもいいんだ。そのために俺は今日来たのだから。」

「それでも…………私はもう貴方に使いたくないんです。」

彼女はハァハァと息を荒げて、自身の異能の暴発を抑えようと懸命に耐えている。
その弱々しくも小さな体で耐える姿を見ていると、心配と不安で苛立ってしまう。
何故、俺に頼らないのかと。
それだけが今、俺に出来るたった一つのことなのに。

「だから大丈夫じゃないだろ!?いいから使え!俺を使えばいいんだ。」

なににそんなに苛立ちを覚えるのか、俺は彼女に怒鳴っていた。彼女の前だと自分の感情が高ぶって、正気ではいられない。

「大丈夫なんです!!わ、私。思えば南くんに再会した時から迷惑ばかり…………かけて。それで…………。」

彼女はもう持ちそうにない。辛そうにベンチに身を預けて、されど懸命にこちらに訴えかける。その声は今まで聞いたことのないほど張り詰めた彼女の心の叫びに聞こえて、こちらがひるんでしまう。

「大きな声を…………出してしまって…………ごめんなさい。でも…………これ以上。貴方の邪魔を…………したくな…………。」

俺は思わず彼女を抱きしめていた。

彼女はもう意識も朦朧としており、何も見えていないのかもしれない。それでも、このままこの子を一人にしたくないと強く思ったのだ。

「大丈夫。俺もごめん。変に怒鳴って。馬鹿みたいだ。大丈夫。俺を頼っていいんだ。俺がしたいからしていることなんだ。だから大丈夫。ほら。大丈夫。」

彼女の前髪から見え隠れする虚ろな瞳に目を合わせ、優しく語り掛ける。

「…………でも。駄目です。…………あれ暖かい。なんで?…………南くん。ごめんなさい。」

彼女は意識を手放すと同時に異能を発動した。

 

 

 

 

 
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