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第2章 シャクンタラー対ファウスト
第41話 異能者の蠢き⑦
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自分の席に座りながら、教室の窓から校門を見下ろす。
夕日が薄い青色の空に、赤色の線を引いて、そのちょうど中間からオレンジ色に変色していく。一日の最後に町をオレンジ色のベールが覆って、それが哀愁を込めて、はたまた明日への希望を照らして、日は落ちていく。
その下からキラキラと輝くような、二人の少女の笑い声が聞こえてくる。
その声を聞いていると、悲しさと切なさと、それよりも幸せが心にポッと光を灯す。
やっと彼女は解放されたんだと。
やっと幸せになる道を歩み始めたんだと。
それを遠巻きに応援することが今の俺にできるたった一つのことだと。
そう割り切ろうと思っていた。
しかし、その時、一人の少女の笑い声が聞こえた。
その顔を見ると、それはお日様のような輝かしくも、尊い存在に思えて、俺は視線を外す。
その顔を見ていると、泣いてしまいそうになるのだ。
彼女の笑った顔。恥ずかしそうな顔。泣きそうな顔。全て知って、覚えている。
今でも声がするんだ。
彼女の嬉しそうな声が。
好きな服を見つけて喜ぶ声。俺と二人の時の優しい声。最後まで誰かを想って泣いた声。
それらが鮮明に思い出せて、心が絞られたように痛む。
もう忘れないといけないのに。
彼女の人生にもう俺はいらないから。
なんだ、全然俺は先に進めなさそうにないよ。
君を忘れて生きて行く覚悟も決めたはずなのに。
でも君はもう大丈夫。
願わくばずっと笑っていてほしい。
笑って先に進むんだ。
そう。お日様の様なその綺麗な笑みで。
ずっとずっと幸せに。
「あ。まだいたの。…………言われた通り、上手くやったわよ?これでよかったの?」
教室のドアの方から北条の声が聞こえてくる。
「ああ。上出来だ。…………彼女のあんな幸せそうに笑った顔を見たのは何年ぶりだろう。ありがとう。感謝している。」
俺は北条の方に振り向かない。
今誰かと話すと、自分の弱い部分を見せてしまうかもしれない。だから俺はドアから、向こうに落ちていく夕日を見て会話を続ける。
そうしないと、すぐにでも心に留めてい想いが溢れそうになるから。
「ねぇ。南くん。ごめん。私、考えなしに貴方に色々聞いてしまっていたかもしれない。それこそ、無神経な言葉を貴方に言っていた。悪かったわ。」
「いいさ。ちゃんと香と田村さんの仲を取り持ってくれたしな。ありがとう。本当に。」
「やめてよ。急に素直になって。気持ち悪い。」
「…………酷い女だ。」
「私はそういう女よ。知ってるでしょ?…………で?これでまたたくさんの女の子の相手が出来るわね。おめでとう。」
「そうだな。また色んな女とデート三昧だな。」
「そう。」
「ああ。…………ところで、なんだこの手は?」
北条は何故か俺の頭を撫でていた。
俺の隣に立って、それが当たり前のように俺の髪をとかすように撫でつける。
なぜ彼女がそんな意味不明な行動にでているのか分からず、思わず問いかけていた。
「西京くんから聞いたわ。色々あったようね。」
「あ、そう。で、この手はなんだ?どけろよ。」
「いいのよ?」
「は?なにが?」
「いえ。泣いても。辛いときに泣けないなんて悲しいじゃない。それにそんな震えた声で強がられたら、揶揄えないわ。」
「…………うるせぇよ。こういう時だけそういう臭いこと言うなよ。別にこんなふうに振られることなんて今までいくらでも…………でもあって。それで。なんだ。まぁ。よくあることなん、だ。」
「うん。そっか。」
なんだもう涙は出ていたのか。それなら、こんなフウに耐えながらも我慢出来ずに涙を流す奴を同情するのも当たり前か。でもな。仕方ないだろ?
どれだけ泣いても、堰を切ったように涙が止まらないんだから。
「西京には言うなよ?」
「なんで?」
「俺がまだ悲しんでるって知ったら、あいつは自分が香の異能を消したことで罪悪感を抱えるだろ?」
「わかったわ。」
北条は何も言わず、俺の頭を撫でた。
「…………馬鹿にされるかと思った。お前のことだから。」
「…………してやろうと思ったけど。でも、気が変わったわ。大丈夫。誰ももう校内には残ってないわ。いいのよ。どれだけ泣いても見ているのは私だけだし。」
「はいはい。別に泣きたくて泣いてるわけじゃ…………ないんだ。でも。」
「そんなに好きだったの?」
「…………ああ。ちゃんと好きだった。本当に。これ以上ないってくらい好きだった。本当に。俺にとって彼女が全てだったから。」
「そう。」
北条は何も言わず、俺の頭を撫でながら、ずっと一緒に入れくれた。俺は泣き疲れても、未だ溢れる涙を止めようとはせず、流し続けた。
それで、彼女への恋まで流れていくわけではなし、何も現実は変わらない。
でも、もう少しこうしていたかった。
北条がそれを許すように、未だ俺の傍らにいてくれたから。
夕日が薄い青色の空に、赤色の線を引いて、そのちょうど中間からオレンジ色に変色していく。一日の最後に町をオレンジ色のベールが覆って、それが哀愁を込めて、はたまた明日への希望を照らして、日は落ちていく。
その下からキラキラと輝くような、二人の少女の笑い声が聞こえてくる。
その声を聞いていると、悲しさと切なさと、それよりも幸せが心にポッと光を灯す。
やっと彼女は解放されたんだと。
やっと幸せになる道を歩み始めたんだと。
それを遠巻きに応援することが今の俺にできるたった一つのことだと。
そう割り切ろうと思っていた。
しかし、その時、一人の少女の笑い声が聞こえた。
その顔を見ると、それはお日様のような輝かしくも、尊い存在に思えて、俺は視線を外す。
その顔を見ていると、泣いてしまいそうになるのだ。
彼女の笑った顔。恥ずかしそうな顔。泣きそうな顔。全て知って、覚えている。
今でも声がするんだ。
彼女の嬉しそうな声が。
好きな服を見つけて喜ぶ声。俺と二人の時の優しい声。最後まで誰かを想って泣いた声。
それらが鮮明に思い出せて、心が絞られたように痛む。
もう忘れないといけないのに。
彼女の人生にもう俺はいらないから。
なんだ、全然俺は先に進めなさそうにないよ。
君を忘れて生きて行く覚悟も決めたはずなのに。
でも君はもう大丈夫。
願わくばずっと笑っていてほしい。
笑って先に進むんだ。
そう。お日様の様なその綺麗な笑みで。
ずっとずっと幸せに。
「あ。まだいたの。…………言われた通り、上手くやったわよ?これでよかったの?」
教室のドアの方から北条の声が聞こえてくる。
「ああ。上出来だ。…………彼女のあんな幸せそうに笑った顔を見たのは何年ぶりだろう。ありがとう。感謝している。」
俺は北条の方に振り向かない。
今誰かと話すと、自分の弱い部分を見せてしまうかもしれない。だから俺はドアから、向こうに落ちていく夕日を見て会話を続ける。
そうしないと、すぐにでも心に留めてい想いが溢れそうになるから。
「ねぇ。南くん。ごめん。私、考えなしに貴方に色々聞いてしまっていたかもしれない。それこそ、無神経な言葉を貴方に言っていた。悪かったわ。」
「いいさ。ちゃんと香と田村さんの仲を取り持ってくれたしな。ありがとう。本当に。」
「やめてよ。急に素直になって。気持ち悪い。」
「…………酷い女だ。」
「私はそういう女よ。知ってるでしょ?…………で?これでまたたくさんの女の子の相手が出来るわね。おめでとう。」
「そうだな。また色んな女とデート三昧だな。」
「そう。」
「ああ。…………ところで、なんだこの手は?」
北条は何故か俺の頭を撫でていた。
俺の隣に立って、それが当たり前のように俺の髪をとかすように撫でつける。
なぜ彼女がそんな意味不明な行動にでているのか分からず、思わず問いかけていた。
「西京くんから聞いたわ。色々あったようね。」
「あ、そう。で、この手はなんだ?どけろよ。」
「いいのよ?」
「は?なにが?」
「いえ。泣いても。辛いときに泣けないなんて悲しいじゃない。それにそんな震えた声で強がられたら、揶揄えないわ。」
「…………うるせぇよ。こういう時だけそういう臭いこと言うなよ。別にこんなふうに振られることなんて今までいくらでも…………でもあって。それで。なんだ。まぁ。よくあることなん、だ。」
「うん。そっか。」
なんだもう涙は出ていたのか。それなら、こんなフウに耐えながらも我慢出来ずに涙を流す奴を同情するのも当たり前か。でもな。仕方ないだろ?
どれだけ泣いても、堰を切ったように涙が止まらないんだから。
「西京には言うなよ?」
「なんで?」
「俺がまだ悲しんでるって知ったら、あいつは自分が香の異能を消したことで罪悪感を抱えるだろ?」
「わかったわ。」
北条は何も言わず、俺の頭を撫でた。
「…………馬鹿にされるかと思った。お前のことだから。」
「…………してやろうと思ったけど。でも、気が変わったわ。大丈夫。誰ももう校内には残ってないわ。いいのよ。どれだけ泣いても見ているのは私だけだし。」
「はいはい。別に泣きたくて泣いてるわけじゃ…………ないんだ。でも。」
「そんなに好きだったの?」
「…………ああ。ちゃんと好きだった。本当に。これ以上ないってくらい好きだった。本当に。俺にとって彼女が全てだったから。」
「そう。」
北条は何も言わず、俺の頭を撫でながら、ずっと一緒に入れくれた。俺は泣き疲れても、未だ溢れる涙を止めようとはせず、流し続けた。
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でも、もう少しこうしていたかった。
北条がそれを許すように、未だ俺の傍らにいてくれたから。
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