鐘が鳴るときに

プーヤン

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第4話 計画

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「薬を届けに来たの。最近、風邪も流行ってるらしいから。」

「そうだったのか。ありがとう。」

「ほら、カロンは一人暮らしだから倒れたときとかに大変でしょ?」

「そうだな。」

それは、ある意味で見限られた気がした。もう来ないから、お元気でと言われたような。

考えすぎかもしれないが。

フィーネは俺に薬を渡すと、何故か椅子に腰かける。

何故その行為が目に着いたのかは俺が今、彼女とあまり長く会話をしたくないからだろう。

言わなくても良いことをつい口を滑らせてしまうかもしれない。

そう不安に思うほど彼女の瞳を見ていると心が乱れる。

「さっきの人は誰?検地官の人?」

「いや、なんでも税務官らしい。所謂、貴族だな。」

「そうなんだ。不思議だね。貴族自ら農地に来るなんて。第三区に来るのだって珍しいのに。」

「それもそうだな。まあ、変わったやつだったな。」

「やつって。でもなんか仲良さげだったし。カロンにあんなフウに話せる友人がいてよかったよ。」

「別に…………友達ってわけでもないだろ。むこうは貴族様だしな。」

「そうかなあ。でも…………」

「ああ。そうだ。それより、もう帰ったらどうだ?まだ仕事あるだろ?」

「まあ、そうなんだけど。えっと。」

「なんだ?本当はもう会えないとかか?なら早く言えばいいんだ。」

ほら。言ってしまった。

本当に言いたいことよりも、意味のない言葉はスラスラと舌の上を流れていく。

「…………なんで?なんでそんなフウに言うの?」

それは、早くこのモヤモヤした感情を払拭したかったからだ。この心に絡み付いつて離れない蜘蛛の巣のような感情を。

「だってそうだろ?あの商人の息子と結婚するだろうし。」

「知ってたんだ。」

「ああ。知ってる。まあ、どっちでもいいがな。」

「そっか。私はどっちでも良くないの。会ったことない人だけど、私は彼の申し出を受けたくない。」

「おう。そうか。」

「でも、しょうがないじゃない。しょうがないの。だって父の仕事に関係の深い人だから。」

「だからどうでもいいって言ってるだろ!?」

俺の怒鳴り声に続くものは何もない。

静寂と共に彼女の息遣いだけが俺の耳に聞こえてくる。彼女は一瞬、俺の怒声に委縮するとその顔は悲痛めいた表情へと変わっていく。
その顔を見て傷付くなら言わなければ良かったと後悔し、己の未熟さに恥を覚える。

「そっか。やっぱり止めてはくれないんだね。」

「え…………?」

フィーネは少し笑いそう言い残すと俺の家から出ていった。

その笑った顔は作り笑いだと分かっていても声をかけれなかった。

何を言えばいい?

俺には何も出来ないのに。

大丈夫、俺が何とかしてやるなんて無責任なことは言えない。

どうせ非力な自分を呪って生きていくことしか出来ないのだ。

彼女の去り際の泣きそうな顔が脳裏に焼き付いて、またもや心に罪悪感が住み着いて鬱屈としてくる。

だってそうだろ?

俺にはどうせ何も変えられないのだ。

 

 

 

「また、来たのか?」

フィーネと別れた次の日。

奴は性懲りもなくまた俺の家にやってきた。そう。貴族のロイドだ。

「おやおや。病気の犬のような顔をしていますね?大丈夫ですか?」

「なんだその例えは?ぶっ飛ばすぞ?」

「はいはい。それでですね。今日はカロンの畑を見たいのですがいいですか?」

「平民にいちいち了解を取ってんじゃねぇよ。お前ら貴族は俺らに命令するだけだろ?」

「おやおや、今日は一段と荒んでますね。どうしました?」

「関係ねぇだろ。」

「まあそう言わずに、このロイドに言ってみなさい。解決も相談も乗りませんが聞いてあげましょう。」

「え……………………?それ意味あるのか?」

「意味はあると思えばありますし、無いと思えば無いのです。さあさあ。どうぞ。」

「八卦見(はっけみ)みたいなこと言いやがって。誰がお前に話すかよ。」

「おや、そんな事言っていいのですか?私は貴方の税を思いのままに出来るのですよ?軽くも重くも出来るのです。」

「脅すのか?」

「まあ、冗談はここまでとして。言ってみなさいな。言って減るものでもなし。言って貴方の税金が減るものでもなし。」

「怠いな。こいつ。早く帰ってくれねぇかな。」

しかし、多分この男は俺が話すまで帰らないつもりだろう。やけに優し気な目でこちらを見てくるから、こちらも何か居心地が悪くなってくる。
奴の言う通り、言っても何も変わらない。

「ああ。はいはい。分かった。分かった。…………フィーネが。まあ、なんだ。なんか町で有名な商人の男に求婚されてて、それでまあ多分、フィーネさんの親父さんの仕事の関係者らしくてそれをダシに結婚を迫ってるからフィーネも断れなくて…………それで。」

「ああ。それで指をくわえて見ていたらフィーネさんがいらっしゃって弱気な貴方はまた怒鳴って彼女を悲しませたのでしょう。ああ、可哀想なフィーネ嬢。」

その物言いが酷く癇に障った。
お前に何が分かるのか?と意味のない怒りに変換される。
それが、どれほど狭量な人間のやる事だと理解してはいても、それは理性を振り切って止まらない。
コイツに切れたところで何も変わらない。
怒鳴られた相手がどんな顔をするのか分かっていながら同じことを繰り返す。
愚の骨頂だ。
救いようがない。

「だってしょうがないだろ!?俺にどうしろって言うんだ?金持ち商人相手に農民の俺に何ができるってんだ?見てるしかできねぇよ。」

そう。もうフィーネはあの金持ち商人と結婚して、幸せに暮らしていくんだ。

俺は一生ここで一人生きていくんだ。それでいい。

それがお互いのためだ。

「都合が悪くなると怒鳴るのはやめなさい。見苦しい。怒鳴って喚いても事態は変わらない。そういうのは子供のすることだ。お前はもう大人だろ?」

急な奴の変わり様に泡を食って今まで意のままに動かせていた口が閉口して動かなくなる。

その顔は冷たく覇気を伴い、見る者を震撼させ、怒気の籠った声音に耳がひりつく。その言葉は鋭く研ぎ澄まされた剣の様に俺を切り伏せた。

しかし、ロイドはすぐいつもの道化師のような笑みを顔に貼り付けると、俺に優しく諭すように話す。

「そうですね。どうにもならなくなった時には一度、立ち止まって考えるのです。頭を冷まし、冴えわたらせ、自分の出来うることをすべて考える。そうして、次に他人に聞いてみる。いろんな人間の意見を聞いて、再思に再思を重ねて、検討する。それでも、打開できなければ、また初めから。」

「……………………それでも無理なら?」

「そうですね。爆破でもしますか?その商人の家を。殺っちゃえばこの話も終わりですよ?」

「は?」

「嘘ですよ。まあ、とりあえず目の前に気のいい友人がいることですし聞いてみてはどうですか?案外なんとかなるかもしれませんよ?」

渇いた笑い声を出すな。一瞬、引いちまっただろが。

「相談は乗らないんじゃないのかよ。」

「友人なら別ですよ。」

「はぁ。しゃあない。貸し一つだ。」

「はい。見積もりに入れときますね。」

「あ。やっぱり」

「もう駄目ですよ。はい、入れました。では、話しましょうか。今後のフィーネ嬢奪還計画について。」

「なにそれ?ダサ。」

「はい。死刑。」

何故かロイドと話していると落ち着く。なぜだか分からない。それは昔からよく知る悪友のように。
旧来の友のように。
俺の心にスッと入ってきては、モヤモヤと鬱屈した感情をすべて取っ払って、なんとかできるんじゃないかって気になる。

今まで誰の手も借りず、この土地を守ってきた。

それこそ色んな人間の差し伸べられた手を振り切ってきた。

フィーネのことですら断ち切ろうとしていた。

そんな俺が最後につかんだのがロイドだったのはなにか気に食わない。

俺はそんな馬鹿な考えから最後までこいつの名前を呼ばなかった。

 

 

 
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