鐘が鳴るときに

プーヤン

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第5話 思惑

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「なるほど。その商人はミハエル・デイラーさんですね。それでその息子のタエル・デイラーさんがフィーネ嬢に求婚している人物だと。」

「そうです。他には何をお調べいたしましょう?」

「いえ、もう十分です。…………ミハエルさんはどうして第三区のほぼすべての物流を独占できているのでしょうね?競合する商人やら、商会やらは何をしているのでしょう?」

「追加でいただけるのでしたら、お答えしますが?」

「いえ。それは調べるまでもありません。後は脅せばいけるでしょ?」

情報屋の顔はスカーフに隠れて見えないが、僕が笑いかけると身じろぎした。

「貴方も怖い人だ。後学のために何故貴方の情報が一切出てこないのか教えてほしいものですね。」

「それは、知っている人間がいなくなるからでしょ。」

「そうですか。ならば聞かずに消えるとしましょう。」

そう言うと、情報屋は音もなく姿を消した。

今のは魔法の類であろうか?

確か東の国には暗殺に特化した魔法があると聞いたことあるが、正直、軍部から切り離された地方貴族にそういった魔法の情報は来ない。

どこかの大国にはそれこそ日常魔法なるものから、猫を呪う魔法まであるという。定かではないが。

ミハエルなる商人はおそらく貴族とのつながりがある。そのパイプのある貴族の中にはダグラス家も入っているだろう。

ロイドは下唇を舐めると、薄い笑みを浮かべる。

彼が取引をしている情報屋は先ほどの彼ともう一人いる。そちらは荒事も請け負う少し稀な情報屋である。

ロイドは第三区から港の人里離れた小屋に馬を走らせる。

微かな波の音が聞こてきたと思ったら、次に潮の香りが漂ってくる。

夜の海はやけに静かに僕を飲みこむ。

果ての見えない海を右手に砂浜を歩く音と、自分の息遣いが耳に入る。時折、聞こえる波の音がやけに大きく感じ、安心する。

誰かにつけられている様子もない。

何隻もの船が停泊している中、物見やぐらの更に向こうに一つ小屋がある。

そのボロイ小屋が今晩の待ち合わせ場所だ。

なんのためらいもなく僕はその扉を開く。

「ああ、どうですか?」

「はい。こちらに。」

そこには、ミハエル・デイラーが縄に括り付けられ捕らえられている。嫌に大きく飛び出した目玉に、鼻を覆う頬肉の分厚さ。下品な口元から全身を贅肉で覆われており見るに堪えない男であった。

「聞こえますか?ミハエル・デイラーさん?……………………あの、水お願いできますか?」

「はい。」

情報屋はバケツになみなみと入った海水をミハエルにぶちまける。

ミハエルはせき込み、こちらを見上げる。

その際、中禿を隠した髪の整髪料も流されて見るも無残な姿でこちらを睨む小太りの男の目と合う。

「えっとミハエル・デイラーさんですね。こんばんは。」

「お前…………見たことある顔だ。どこかで…………。」

僕が目で合図を送ると、情報屋は彼の手を踏み潰す。

その際、聞くに堪えない中年男性の叫び声が耳に木霊するのが癇に障り、ついロイドは眉間に皺を寄せる。

そして、フーッフーッと呼吸を正し、落ち着きを取り戻したミハエルに再度、問いかける。

「まあ、僕のことは良いのですよ。それよりも、貴方、南に位置するラドニア国の貴族とも関係がありますよね?第三区の貴族との間での金のやり取りなら見逃せるのですが、いかんせん他国の貴族となると。」

「わしが他国の貴族と関係を持つことの何が悪い?お前、殺してやるから、さっさと縄を解け。今なら、お前の家族で手を打ってやろう。お前は見逃してやる。」

「言ってることが支離滅裂で意味が分かりませんね。情報屋さん。変な薬でも盛りましたか?」

「いえいえ。海水をかけたのも今のが初めてです。」

「そうですか。ミハエル・デイラーさん。貴方が取引している他国の人間との間で第三区の貴族と一緒に金も流し、国の情報も流しているのは、まあ調べがついているので明白なのですよ。しかし、困ったことに、貴方はとある人物とも関わっていることからこの地にいる限り守られた存在だ。誰も貴方を裁けない。誰も手だしできない。さあ、どうしましょう?」

「お前…………なんでそれを。」

「第三区の平民に嫌がらせしてる暇なんてなかったですね?」

「お前、なぜ。私があの方と通じていると。」

「いや、みんな知ってることですよ。明日には。」

「明日?」

「明日には皆、貴方の名前を口にするでしょう。」

「は?」

「明日には有名人だ。三日経てば時の人。一年経てば貴方も僕と一緒に地に眠る。」

「お前、何を言っている!?」

「もっとも貴方は海の方が好きでしょ?商人だから。」

「お前何を!?」

「いいよ。沈めちゃって。」

情報屋はその言葉を聞き入れると、彼をひきずり海に入っていった。

「嫌に夜の海は冷え込む。月も見えない海というのは寂しく感じて嫌いなんだ。」

ロイドの独り言はもう彼には聞こえないだろう。

その言葉は冷たい夜の海に飲まれて消えた。

 

 

 

我が兄、デイル・ダグラスは他国との間で共謀を測り、この国に謀反をはたらこうとしている。兄の先導の元、他の弱小貴族も加わり、ミハエルを通じて他国に誘われたのだろう。馬鹿な男だ。

そもそも、この動きに火がついたのは隻眼の魔法使いである王の娘が勇者と謀反を起こしたとまことしやかに貴族間で噂となり、その事件以来、王の姿を確認した人間がいないことが噂に拍車をかけ、どちらにつくのか貴族間で問題となったことから始まる。

王族につくのか、隻眼につくのか。

その事件以来、貴族間で不穏な動きをする者が増えてきた。皆、次の権力者に取り入りたいのだ。

しかし、この動きはいずれ収束する。もうその時は近い。

姿を消していた隻眼の魔女が王都に入ったという噂も耳に入っている。

王は依然、姿を見せないそうである。本当に死んでいるのかどうかは定かではない。そもそも勇者という人物がいたというのも人づてに聞いたものだ。
この事件自体が不確かな情報だ。

先の大戦で最も貢献した黒髪の勇者。その大戦のおかげもあり、今の安定した生活を手に入れたのがこの第三区である。先の絶対に勝てぬと言われていた戦争も黒髪の勇者のおかげで、こうして田舎の第三区にも資金が下りてきたのだから。

先の大戦は人も少なく、我が父も徴集され、戦死した。引退したと周りに吹聴したのはおそらく兄だろう。

自分は父の傀儡だと言っておけば都合がいいのだろう。

まあ、色々と考えたところで、もう手遅れだ。こうして雑魚を葬ったところで意味はない。ほとんどカロンのためにやったようなものだ。無論、口が裂けても今日のことは言えないが。

せめても抵抗に、ミハエルの殺人の罪は隻眼の魔女につけておこう。

少しは愚兄の動きも鈍るだろう。

それに、この話が隻眼の耳に入れば少しは取り入れるかもしれない。

 

 

 

海から馬を走らせ町に帰ろうとしたとき、不意にもう一度海が見たくなった。

僕も今、一緒に飛び込めば楽になれるかもしれない。

そんなフウに自暴自棄になった。

しかし明日になればどうでもなくなるという、あの日の少年の言葉を思い出し、苦笑だけが漏れた。
 

 

 

 

 

 
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