『日本再起動 ―Re:BOOT JAPAN―』

KAORUwithAI

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再起動の朝

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――203X年・5月3日、日本国憲法記念日。
空は、どこまでも青く澄んでいた。

だがその朝、永田町に静かな異変が起きていた。

最高裁判所の地下サーバールームに設置された警報装置が、午前5時13分、沈黙した。
わずか30秒の間にセキュリティログが書き換えられ、端末にログイン履歴を残すことなく侵入を許した。

侵入者の名は、神楽坂カイ。
再起動計画、最終フェーズ「Phase3:深層判決」が始動した。



■ 午前5時30分:最高裁 地下サーバー室

白い蛍光灯の下、無数の端末が沈黙していた。
そこに、黒いパーカーを着た少年――桐原 翼がキーボードを叩いていた。

「バックアップ完了、三重暗号化済み。あと90秒で“判決”が下る」
「公開先は?」とカイが問う。

「全国の裁判所、法科大学、報道局、そして……政府関係者全員の個人端末っす」

画面に浮かぶファイル名。

【JUDGEMENT_FALSE.zip】
内容:判決誘導履歴、証拠改ざん記録、忖度判決の裁判官メモログ……政府による「正義の操作」の証拠。

「最後の一手です。日本の“正義”に、自白させてやりましょう」

カイは静かに頷いた。



■ 同時刻:内閣府 第4サーバー棟

一方、伊吹ヒナと真柴レンジは内閣府側の“政治資金データベース”に突入していた。

レンジが肩に背負ったEMP爆弾をセットしながら低く言った。

「俺はな、ただの兵士だった。誰かの命令で撃ち、誰かの命令で死ぬ覚悟もしてた。
でも……この腐った国の命令には、従えなかった」

ヒナは、一瞬その横顔を見た。

「……レンジさん。終わったら、どうするんですか?」

「終わるわけねぇさ。これは始まりだ。
 でもよ、カイにだけは生きててほしいと思ってる。あいつの言葉は、本物だからな」



■ 午前6時00分:公安庁 特別監視室

「……来たか」

志水京介は、部下たちの制止も振り切り、防弾ベストを脱ぎ捨てた。
机の上には、神楽坂カイの最後の声明文が置かれていた。

『正義とは、常に誰かに都合よく定義されてきた。
 ならば一度、“正義そのもの”をリセットするべきだ。
 俺はそれを“暴力”ではなく、“可視化”で行う。
 国民が、真実を知り、自ら選ぶために』

志水は短く言った。

「……行く」



■ 午前6時20分:最高裁 正面ホール

朝焼けの光が射し込む中、重厚な扉が開かれた。

神楽坂カイが、ひとり歩み出る。

その前に立っていたのは、公安刑事・志水京介。

スーツ姿の志水は、拳銃を持っていなかった。

「撃たなくていいのか?」とカイが問う。

「……俺の正義は、君を撃つことじゃない。
 君のしてることが“間違い”なら、国民が否定する。
 だが、もし“正しい”なら……それを撃つのは、俺の役目じゃない」

カイはわずかに目を細めた。

「国家を信じる公安が、それを言うのか」

「国家はもう、信じていない。だが、人間の判断力は、まだ信じたい」

二人の間に沈黙が流れる。

そしてその瞬間――
日本全国に一斉配信された映像が、
テレビに、PCに、スマートフォンに、映し出された。

■ 配信内容:
• 判決データ操作記録
• 国策裁判の実態
• 裁判所と内閣府の密接な情報干渉
• 国民が“選ばされていた”正義の実態

どよめきと悲鳴と、沈黙が全国に広がった。



■ 午前7時00分

内閣府前、最高裁、霞ヶ関――
報道陣が駆けつけるなか、神楽坂カイは記者の問いに一言だけ答えた。

「俺は、国を壊したわけじゃない。
 “嘘を壊した”だけだ」

後に“日本再起動事件”と呼ばれたこの出来事は、
政治、司法、報道、すべての信頼構造を揺るがした。

神楽坂カイは、事件から3日後、自首。
だが多くの市民が嘆願書を出し、支持デモは全国に波及した。

志水京介は、公安を辞職。
彼の手記は、のちにこう締めくくられる。

「正義とは、国家に従うことではない。
 真実を知り、選び、責任を持つことだ。
 それが、我々の再起動だ」



【完】
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