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忍び寄る影編
第65話「被害現場から来た客」
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深夜――。
カラン、と鈴が鳴り、ひとりの男がよろめくように入ってきた。
衣服は泥に汚れ、袖や裾の一部は黒く焦げている。煤の匂いがわずかに漂い、店内の明かりに照らされたその姿は、戦場から帰ってきた者のようだった。
男は言葉を発することなく棚を回り、パン、水、干し肉を乱暴にかごに入れていく。その動作には焦りがにじみ、商品を握る指先さえ震えていた。
やがて会計台にかごを置くと、ようやく小さく声を漏らした。
「……村が、燃やされた」
その言葉は、誰に向けたものでもなく、ただ事実を吐き出すかのようだった。
レンの手が思わず止まり、機械の読み取り音が途切れる。
「……燃やされた?」
ニナが顔を上げ、小さく繰り返す。
男は虚ろな目をしたまま、唇をかすかに震わせた。
「影のような……人かどうかも分からんやつらが現れて……気づけば火の手が上がっていた。声も、逃げる暇もなかった。……知り合いも、何人か……」
言葉は途中で途切れ、声は掠れた。もうそれ以上を語る力は残っていないようだった。
ニナは袋詰めの手を強く握りしめた。顔をこわばらせながらも、「大丈夫ですか」と声をかけそうになり、喉の奥で言葉を飲み込む。
レンは表情を崩さず、静かに会計を終えた。だが心臓の鼓動は耳の奥でやけに大きく響いていた。
「……大変でしたね。どうか、少しでも休まれてください」
男は小さく会釈をし、ふらふらと足を引きずりながら扉を押し開けた。
カラン――鈴が鳴り、煤の匂いを残して夜の闇へと消えていった。
しばらく沈黙が店内を支配した。
ニナは唇を噛み締め、声を震わせて言った。
「……やっぱり、噂じゃなくて……本当に、襲われてるんですね」
レンは目を閉じ、小さく息を吐いた。
(もう“ただの噂”では済まされない……)
やがて、いつものように口を開く。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
その言葉は空虚に響き、客のいなくなった店内に祈りのように残された。
カラン、と鈴が鳴り、ひとりの男がよろめくように入ってきた。
衣服は泥に汚れ、袖や裾の一部は黒く焦げている。煤の匂いがわずかに漂い、店内の明かりに照らされたその姿は、戦場から帰ってきた者のようだった。
男は言葉を発することなく棚を回り、パン、水、干し肉を乱暴にかごに入れていく。その動作には焦りがにじみ、商品を握る指先さえ震えていた。
やがて会計台にかごを置くと、ようやく小さく声を漏らした。
「……村が、燃やされた」
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「……燃やされた?」
ニナが顔を上げ、小さく繰り返す。
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言葉は途中で途切れ、声は掠れた。もうそれ以上を語る力は残っていないようだった。
ニナは袋詰めの手を強く握りしめた。顔をこわばらせながらも、「大丈夫ですか」と声をかけそうになり、喉の奥で言葉を飲み込む。
レンは表情を崩さず、静かに会計を終えた。だが心臓の鼓動は耳の奥でやけに大きく響いていた。
「……大変でしたね。どうか、少しでも休まれてください」
男は小さく会釈をし、ふらふらと足を引きずりながら扉を押し開けた。
カラン――鈴が鳴り、煤の匂いを残して夜の闇へと消えていった。
しばらく沈黙が店内を支配した。
ニナは唇を噛み締め、声を震わせて言った。
「……やっぱり、噂じゃなくて……本当に、襲われてるんですね」
レンは目を閉じ、小さく息を吐いた。
(もう“ただの噂”では済まされない……)
やがて、いつものように口を開く。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
その言葉は空虚に響き、客のいなくなった店内に祈りのように残された。
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