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敵の正体編
第66話「正体の噂」
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深夜――。
カラン、と鈴が鳴り、立て続けに三人の客が店へ入ってきた。皆、旅装に疲れをにじませ、顔には張りつめた緊張があった。
一人は水袋を手に、もう一人は干し肉を、最後の客は保存食をかごに放り込みながら、自然と口を開いた。
「……黒い影を見たんだ」
途端に残りの二人が顔を向ける。
「それって、ただの夜霧じゃないのか?」
「違う。人の形はしてた。だが……人じゃなかった。滑るように動いて……」
三人は商品を持ったまま、レジの前で言葉を交わし続けた。
「俺の知り合いは、赤い目を見たって言ってたぞ」
「いや、光ってたのは胸元だって話もある。とにかく真っ暗な中で、不気味に光ったらしい」
言葉が交わされるたびに、細部は食い違っていく。
しかし共通しているのは――“人ではない何か”が確かに動いていた、ということだけだった。
ニナはレジ打ちの手を動かしながら、心臓が早鐘を打つのを感じた。思わず声が漏れる。
「……本当に、そんなものがいるんですかね」
客たちは答えず、ただ顔を見合わせると早口で会計を済ませ、足早に扉を押し開けて出ていった。
カラン――鈴の音が夜に沈み、残されたのは静けさだけだった。
「……赤い目に、滑るような動き」
ニナは小声で繰り返し、表情を曇らせる。
レンは笑顔を保ちつつも、視線を落としたまま袋を整える。
(情報が食い違っていても……確かに“何か”はいる。もう噂の域じゃない……)
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
その声は、客のいない店内に虚しく響き、祈りのように闇へと溶けていった。
カラン、と鈴が鳴り、立て続けに三人の客が店へ入ってきた。皆、旅装に疲れをにじませ、顔には張りつめた緊張があった。
一人は水袋を手に、もう一人は干し肉を、最後の客は保存食をかごに放り込みながら、自然と口を開いた。
「……黒い影を見たんだ」
途端に残りの二人が顔を向ける。
「それって、ただの夜霧じゃないのか?」
「違う。人の形はしてた。だが……人じゃなかった。滑るように動いて……」
三人は商品を持ったまま、レジの前で言葉を交わし続けた。
「俺の知り合いは、赤い目を見たって言ってたぞ」
「いや、光ってたのは胸元だって話もある。とにかく真っ暗な中で、不気味に光ったらしい」
言葉が交わされるたびに、細部は食い違っていく。
しかし共通しているのは――“人ではない何か”が確かに動いていた、ということだけだった。
ニナはレジ打ちの手を動かしながら、心臓が早鐘を打つのを感じた。思わず声が漏れる。
「……本当に、そんなものがいるんですかね」
客たちは答えず、ただ顔を見合わせると早口で会計を済ませ、足早に扉を押し開けて出ていった。
カラン――鈴の音が夜に沈み、残されたのは静けさだけだった。
「……赤い目に、滑るような動き」
ニナは小声で繰り返し、表情を曇らせる。
レンは笑顔を保ちつつも、視線を落としたまま袋を整える。
(情報が食い違っていても……確かに“何か”はいる。もう噂の域じゃない……)
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
その声は、客のいない店内に虚しく響き、祈りのように闇へと溶けていった。
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